完璧な花嫁候補
宝塚でエリザベートやってるのでタイムリーだと思って書きました。推しのヘレネが主役です。
1853年8月
ここはオーストリアのバート・イシュルの田舎道。豪華な馬車が走っている。
「おじさん、おばさん、こんにちは!!」
道の端を歩く農家の夫婦に馬車の窓から女の子が顔を出している。
「こんにちは、お嬢さん家族旅行かい?」
「ウィーンから来たの。お姉様のお見合い、お姉様はフランツ陛下と結婚するの。」
「シシィお嬢様!!」
女の子は家庭教師に制止される。
「ごめんんなさい、子供の冗談です。」
家庭教師は窓から顔を見せると農家の夫婦に会釈する。
馬車に乗っているのはウィーンから来た指折りの貴族バイエルン一家だ。父のマックス、母のルドヴィカ、姉のヘレネ、妹のシシィ、そして姉ヘレネの家庭教師だ。
「ヘレネ、陛下への挨拶フランス語でしてご覧なさい。」
「Oui,Mama. Bonjour, Votre Altesse. Merci beaucoup de votre invitation. Aujourd'hui j'espere nous avons un mieux moment ensemble.」
ピンク色のドレスを着たヘレネは言われた通り流暢なフランス語で挨拶する。「陛下、お招き頂きありがとうございます。本日は共に素敵な時間を過ごせますように。」と。
「素晴らしいわ、ヘレネ。貴女はフランス語もテーブルマナーもピアノもバレエも完璧にこなしてきた。陛下は貴女を選ぶ事間違いなしだわ。」
シシィが言った陛下と結婚は冗談ではなかった。ルドヴィカの姉ゾフィは皇太后で皇帝であるフランツ・ヨーゼフ陛下とお見合いのためにウィーンから長旅をしてるのだ。
「それから シシィ!!」
ルドヴィカは厳しい目つきでシシィを見る。
「お前はもう少し大人しくしできないのかい?この結婚が成立すれば我が家は王家と親戚になれるのだよ。くれぐれもヘレネの邪魔はしない事よ。」
ヘレネとシシィは正反対の姉妹だ。
ヘレネは真面目で従順な令嬢だ。フランス語もピアノもバレエもレッスンではいつも講師の言う事に耳を傾け「はい」と素直に従う。
近隣の令嬢達を招いてピアノを弾けば彼女の周り皆集まってくるし舞踏会でダンスに誘われれば誰も彼女に目を奪われる。ホールの令嬢達は皆ヘレネに憧れていた。
一方シシィはお転婆でじっとしてる事ができない女の子だ。フランス語やピアノも最初はヘレネにくっついて受けていたが講師がヘレネに教えてるとふといなくなる。ピアノもヘレネが弾くのを聞いて突然踊り出したり、バレエのレッスン中は突然逆立ちをして歩き出したりもする。母親も家庭教師もシシィには手を焼いていた。
「私将来は曲芸師になる。」
それがシシィの口癖だった。得意は木登りと逆立ち。食事の時でも突然立ち上がって歌を歌ったり、オレンジでジャグリングを始めたり。最初はルドヴィカも家庭教師も注意していたが次第に諦めルドヴィカはヘレネの教育に力を注ぐ事にした。
馬車が到着したのは王家が避暑地にしている別荘だ。お見合いはこの屋敷の中庭で行われる事になっている。
「ヘレネ、お待ちなさい。」
ルドヴィカは汗だくになったヘレネの肌に化粧直しをする。
「これで完璧よ。いつも通りおやりなさい。」
「はい、お母様。」
屋敷の入り口ではメイドが待機していた。一家はメイドに案内され、中庭へとたどり着く。そこにはフランツ陛下とゾフィ皇太后が既に待っていた。
「よく来てくれたわね。ルドヴィカ」
「ゾフィお姉様ご無沙汰しておりますわ、さあヘレネ」
「Bonjour, Madame.Bonjour,Votre Altesse.Je vous remercie beaucoup de votre invitation. Aujourd'hui Nous avons un mieux moment ensemble.」
ヘレネはドレスをつまみゾフィとフランツにお辞儀をする。フランス語の挨拶は練習した以上にできていた。
「ヘレネはフランス語をお話になるのね。」
「Oui,J'ai etudier」
「ええ、幼い頃からずっと習っておりますから。」
ゾフィの問いにヘレネが答えるのをルドヴィカが遮る。
「フランス語だけではありません。テーブルマナーに礼儀作法、ピアノ、バレエと貴族の令嬢として必要な事は教えてきました。彼女は今すぐに宮廷に出しても恥ずかしくありません。」
その後は大人達がずっと話し込んでいてヘレネもフランツも言葉を発していない。
「シシィお嬢様!!何をなさっているのですか?」
シシィは立ち上がって木登りを始める。
「シシィ やめなさい!!」
ルドヴィカが止めようとするがシシィは聞かず枝の上を歩き始める。
「きゃっ!!」
シシィは足を踏み外してしまう。その場にいた全員が凍り付く。しかしいつまで経っても衝撃音は聞こえない。
「シシィ」
皆が恐る恐る目を開ける。
「着地成功!!」
シシィは両手を挙げて地面に立っていた。
「はっはっはっはっ!!」
フランツがシシィを見て笑っている。
「陛下、申し訳ありません。」
ルドヴィカがフランツに謝罪する。
「彼女、面白いね。空中で1回転して着地するなんて。サーカスでも見てるようだったよ。」
フランツがシシィの前まで歩いていく。
「今夜の舞踏会、最初のダンス僕と踊ってくれないかい?」
「そんな事もあったわね。」
ヘレネのお見合いから20年が経った。バイエルン王国に嫁いだヘレネの元にシシィがやって来た。彼女は今ヨーロッパ中を旅している。
「幸せ行きの旅がまさか地獄行きになるとは思ってなかったわ。」
お見合いでフランツ陛下がシシィを最初のダンスに誘うと皆が2人に注目していた。ヘレネは壁の花、いつの間にか2人の立場は逆転した。ダンスが終わるとフランツはその場でシシィにプロポーズした。
バート・イシュルからウィーンに帰るとヘレネは4年間引き籠る生活を送った。今の夫マクシミリアンと出会うまで
「お姉様、私の事恨んでる?」
「恨んでいたわ、でも今だから分かるわ、陛下がどうして貴女を選んだのか。」
ヘレネは母ルドヴィカや家庭教師に言われるまま振舞っていた。だけどシシィは違った。自分の意思で行動していた。
「陛下が望んだのは完璧に作られた人形ではなく意思を持った少女だった。ただそれだけですわ。」
「奥様、お嬢様方がお見えです。」
そこにメイドが数名の令嬢を連れてやって来た。
「お姉様の娘さん達?」
シシィが尋ねる。
「いえ、生徒よ。わたくし貴族の令嬢のためにサロンを始めたの。」
フランス語にピアノ、ダンスといったかつてヘレネがフランツに嫁ぐために習ってた事を彼女達に教えてるというのだ。
「お母様に言われるままレッスンしてたけど楽しかったのよ。」
シシィはまた来るわと言うと令嬢達と入れ替わるように屋敷を去っていった。
「先生、今日は何を教えて下さいますか?」
令嬢の1人が尋ねる。
「そうね、今日は紅茶の入れ方をやりましょう。ケーキでも頂きながら。」
FIN




