7 孤独なお茶会
リリーの元へマーガレットからお茶会の招待状が届いた。
どうしよう。行きたくない…。けど、我が家の方が格が低いから行かないと失礼にあたる。何よりその後の対応がより面倒になる。
憂鬱な気分のままマーガレットの屋敷に向かった。リリーの屋敷の二倍はあろうかという豪邸で、完璧に手入れされた庭のど真ん中には、天使の彫刻が幾つもついた噴水が水しぶきを上げている。
まるでノア様の家のようだわ。やっぱり伯爵家ってすごいのね。
中に入ると、着飾ったご令嬢達が五人集まっていた。流行の衣装に、派手な髪形の女性達が同時にリリーを見る。
「どなた?」と小さな声が聞こえた。
マーガレットが満面の笑みで迎える。
「リリー様!来てくださったのね。皆様にご紹介するわ。こちらリリー様。ワトソン子爵家のご令嬢よ」
「ワトソン子爵家?」「聞いたことないわね」「いつものメンバーで集まるんじゃなかったの」
「リリー・ワトソンです。お招きありがとうございます」
しん、と静まった。どうやら完全に異分子の扱いのようだ。なんとなく予想はしていた。
「じゃあ、リリー様はこちらにお掛けになって」
マーガレットが上座に座り、後のメンバーはお互い向かい合わせになる。リリーの正面には誰もいなかった。
ほとんど五人で会話を進める彼女達を、作り笑顔で見る。疎外感がすごい。
もう帰ってもいいかしら?
来てまだ十分程なのに、異様に長く感じた。
「リリー様はノアといつご婚約なさったの?」
急に振られ、ソーサーに当たったカップがガチャンと鳴った。他の令嬢達が眉を顰める。
「…二年前です」
「ノア様の婚約者ですって? この方が?」「二年前って、マーガレット様がご留学された後よね?」「よく来れたわね」
ヒソヒソという会話に慣れない。
やっぱりノア様とマーガレット様は周知の仲なのね…。私だって来たくなかった…。
「ノアって、無口なところがあるから、大変でしょう? ごめんなさいね。昔からそうなの」
紅茶を飲みながらマーガレットが試すような視線を寄こした。
「…いえ」
「でもいつも私を大切にしてくれた。足が痛いと言ったら負ぶってくれたし、雷の日なんて一日中一緒にいてくれた。優しいのよね!だから政略結婚の相手である、あなたのことも大切にしてくれるはずよ。私が保証するわ」
「…はい」
視線を合わすことができず、テーブルの上を彷徨わせる。
「マーガレット様は優しすぎるわ!ノア様と引き裂かれて辛いはずなのに…」
「いいのよ。ノアが家の為に選んだ道だもの!私は応援したいの。だからリリー様、ノアのことで何かあれば何でも相談してね? 親戚のあなたより、私の方がきっと分かるはずだから」
「…ありがとうございます」
「マーガレット様がそう仰るなら…。でもリリー様。マーガレット様の代わりに婚約するなら、もう少し相応しい格好をされた方が宜しいんじゃなくて?」
「え?」
「ドレスもお帽子も靴も、一体どこのブランドの物をお召しになっているの? 私達のものとは違うみたい」
「これは…」
カァと顔が熱くなる。
「恥をかかれるのはノア様なのよ? お忘れにならない方が良いわ」
その後は会話に入れず、孤独のままお茶会を終えた。