10 やっぱりお菓子作りが好き!
久しぶりに台所に立ち、小麦粉を触った。とても懐かしく感じる。
今日はバターケーキを作る。ブランデーとナッツも入れて少し大人味に仕上げる予定だ。
喜びが溢れて、無心で泡立てた。
ああ、やっぱり私はお菓子作りが好きなんだ!誰に何を言われても、二度と止めたりしない。
恥ずかしいなんて言ってごめんね、皆。と、揃えた材料達に謝った。
一生懸命作ったケーキを、ノアもアレクも「美味しい!」と夢中で食べてくれ、胸がいっぱいになる。
もうちょっとで自分から幸せを手放してしまうところだった。
マーガレットは政略結婚させられ、異国の地へと旅立った。仲介者はアレクだ。
ジャックとニコラは降格となり、第三騎士団へと移った。ハリスの特別訓練はかなり堪えたようで、見違える程、性格が矯正されたらしい。
でもそんなことは、もうどうでも良かった。
今、同じような言葉を投げつけられても、もう心が壊れることはない。どれだけ多くの人に馬鹿にされても、認めてくれる人もちゃんといるって気づいたから。
好きな事は好きって、言っていいんだ!
「リリー? どうしたの?」
紅茶を持つ手を止めたリリーをノアが覗き込む。
「ううん。幸せだなって思ったの」
「本当だね」
微笑み合う二人に「はいはい。ご馳走様」とアレクが呆れ笑いしながら呟いた。