第9話 経験
人は誰にでも失敗はある。その後が大事。
イルジェン軍による奇襲につき伝令を受けたのは、一部の重要事項について妥結し、ほっと一息を入れていた時だった。
ただ、連邦の重要人物との会談日程を今後調整しなければならない。父の予定調整は、同行しているアリッサの仕事の一つであった。
伝令が伝えてきたのはショッキングな第一報であった。タイリェス砦の陥落とさらなる侵攻拡大の可能性。これを受けてからの父の決断は早かった。
「会議に必要な最低限の者のみ残し、直ちに帰還する。兵は全て連れて帰る。準備を急げ。」
アリッサもすぐさま準備を整え、帰還部隊に同行することとなった。内政に詳しい彼女はむしろこちらに残り、残務を処理する方が向いているといえた。ただ、戦力が低下している軍を率いる、まだ戦場に出たことがない弟への心配は大きい。帰還軍への同行は、父の配慮と言えた。
かなりの強行軍であるが、闇夜の進軍のリスクは高い。そして一定の疲労回復も必要である。道中、休息のための陣を張った。
「父上、ヘイルは大丈夫でしょうか?」
何度目かわからない質問を父に投げかける。ドニエルは、疲労した様子ではあったが、明るい調子で返した。
「大丈夫だ。周りの者が補佐してくれているだろう。城にこもってしっかり守れば、敵もある程度のところで引くだろう。我々の到着まで持ちこたえてくれれば十分なのだから。」
疲労困憊のはずであったが、彼女の不安を和らげるように話す父の優しさが身に染みた。
ただ、伝令のもたらす情報は最新のものではない。現状どうなっているのか、もどかしさにやきもきした。
そんな中での、翌日の報告は彼女たちを仰天させた。
「最新状況の報告です。ヘイル様率いる残留軍は、イルジェン侵攻軍を撃滅すべく進軍を開始。本国東方の平原にて会敵、戦闘中とのことです。」
「なんだと!」
ドニエルが馬上で大声を出す。その表情からは血の気が引いていた。イルジェン軍が優勢な戦力である旨の報告は受けている。そのような中での野戦の選択とは、ヘイルが血迷った可能性が高い。
ざわつく周囲の幹部たち。アリッサも凍り付いている。普段は明晰な頭脳を持つ彼女も、この情報に完全に混乱していた。
「兵には負担をかけるが、進軍速度を速める。計画を再検討してくれ。」
指示を出す父に声には、悲壮感が漂っていた。
情報不足による不安、心配、そして肉体的疲労が頂点に達していたのは、後数日で帰着可能な距離までライツに迫っていたときだった。つかの間の休息をとっていた彼らに、予想外の伝令が寄せられた。
「報告!ヘイル様率いる我が野戦軍が敵侵攻軍を殲滅!敵兵多数撃破!我が方の損害僅少!未確認ながら、敵総大将であるイルジェン国後継者、ノエラ・バスケスを捕縛したとのこと!現在戦果確認中!」
興奮気味に報告を読み上げる伝令兵に対して、報告を受ける側はあまりの予想外の内容に反応できなかった。アリッサが語りかけた。
「父上・・・これは・・・」
「・・・まだわからない。誤情報かもしれぬ。浮かれず、帰還を急ごう。」
油断は禁物である。彼らはどちらにしろ、帰路を急いだ。
到着したのはそこから数日後のことであった。帰還軍を迎え入れる民たち。街は無傷であり、皆の表情も明るかった。
城内に入る。直ちに会議が参集された。ヘイルを先頭に、連日の野戦で日に焼けた顔の『残留組』達が入室してくる。少々緊張気味のヘイルを除いて、その顔は皆明るかった。ドニエルが口火を切る。
「ヘイル、そして皆の衆。苦労をかけたな。わし達が不在の間、大変であったと聞いている。どのようなことになっているか、説明してくれぬか?」
伝令兵からの情報は入ってきているが、まだ詳細な結果は不明だ。最終的な状況を整理するために、ドニエルは質問した。
ヘイルは手元の分厚い書類に目を落とす。そして、喋りだした。
「はい。父上、詳細な経過は後で別の者に説明させますが、まずは結果を報告します。
敵イルジェン軍は我が方の攻撃により壊滅状態となり本国に逃げ帰りました。
また、敵総司令官であるノエラ・バスケスを捕縛。他の捕縛した敵幹部とともに、現在城内に拘置しています。」
「本当だったのか・・・」
正直な感想と言えるだろう。帰還組たちの他の者もざわつく。大勝利どころではない。まさに完全勝利といえた。
「まだ確認中ですが、敵の死傷者は1,000を優に超えそうです。投降兵が非常に多く、少なくとも800名以上の捕虜を獲得しました。」
凄まじい戦果であった。捕虜を大量確保したことにより、今後の有利な交渉にも繋がるであろう。
ドニエルはそのことを話す。
「イルジェンとはその後どうなっている・・・」
「はい。現在のイルジェン王の直系の子であり、後継者である一人娘を捕縛しています。それ以外にも多数の将校クラスの捕虜がいます。対して我々側の捕虜はほとんどとられておらず、圧倒的に有利な立場で交渉可能です。
これを踏まえ、勝手ながら既にイルジェンと和平交渉の場の設置では合意しています。」
ヘイルがやや食い気味に答えてきた。戦後処理についても、迅速な対応と言えた。
ヘイルはさらに続ける。
「現時点の方針ですが、現在捕縛中の者を処刑等するとイルジェンとの全面戦争になる可能性が高く、得策とは言えません。
また、肥沃とは言えないイルジェンの土地を獲得するのも、経済的な利益が少ないにもかかわらず、後々余計な紛争の種を残しこれまた得策と言えません。
最終的には父上の裁定をいただくことになりますが、私としては現在の捕虜たちを丁重に扱い、場合によっては捕虜返還ではなく、面子を保つ形で国に返してやって良いと思っています。
その代わりに、彼らからは補償金という形で、事実上の賠償金を獲得する。人質や領土でイルジェンの顔を立ててやるのですから、逆に金全面では相当な高額を獲得できるでしょう。これにより、財政難のイルジェンの再侵攻の道は、当面完全に断ちきることができるでしょう。」
ドニエルが大きくうなずいた。
「見事である。今回の勝利は、お前も含めた皆の勝利だ。戦後処理についても任せる予定であったが、これ程まで考え抜かれた見事な案であれば、何も言うことはない。全てお前に任せる。存分に腕を振るえ!」
家臣たちの一部が拍手をした。それは一気に広がりを見せ、正に万雷の拍手となった。
アリッサも感動していた。弟は、自分が考えているよりもずっと大人だった。今までの弟であったら、例え戦いにまぐれで勝てても、感情に任せて捕虜を切ってしまいそうな不安感があった。
彼女の目からはいつの間にか、大粒の涙が落ちていた。
ただ、言いようのない違和感がある。
武官たちは皆明るい顔をし、興奮気味であるのに、最も誇らしいはずのヘイルからは、そのような興奮が感じられなかった。
むしろ書類に目を落としたり、不安げな顔で周囲を見渡したりと、どこか落ち着きがない。
先ほどの説明も、なんだか決められた文章をただ読み上げているだけのような印象を受けた。
なんだろうこの違和感は・・・そんなことを思い始めたときだった。残留組の中にいる男が声をあげた。
「ドニエル様!今回のヘイル様の大活躍、お見事でございました!このデーサン、近くで見ておりまして大変感動しております!
当初籠城という選択になりそうだったところを、的確な情報分析で敵の弱点を見破り打って出ました。
そして短期決戦を狙う敵を焦らし、兵糧が尽きたところで一気呵成に攻撃、撤退中の敵を完膚なきまでに叩きのめしたのです!
その後も敵の捕虜の扱い等、大変な思慮深さに頭の下がる思いです!まさに今後この国をしょって立つ後継者!このデーサン、命尽きるまで忠誠を誓います!」
両側からまたもや万雷の拍手が起きた。ドニエルが答える。
「うむ・・・まだまだヘイルは若すぎると思っていたが、親が思うより子の成長は早いものだな。わしもいい年だ。そろそろ後進に道を譲ることを考えていかなければならないな。ヘイルには間違いなくその力がある。」
嬉しいはずの言葉であろう。なのに、ヘイルの表情は全く逆のように見える。焦り、悲壮感、動揺・・・なぜだろうかとアリッサが考える。理由がわからない。
ドニエルが会議の締めにかかった。
「では、詳細はまた改めてということにしよう。ヘイル、疲れていると思うが、任せたぞ・・・」
「違う・・・」
ヘイルは下を向きながら、小さな声で呟いた。時が一瞬止まる。
「違うとは、どうしたヘイル?」
「違うんだ父上、俺は何もしてはいないんだ。全て、あの方のおかげなんだよ・・・」
ヘイルは今にも泣きだしそうだ。だが、覚悟を決めたように顔を上げて喋りだす。
「ウガジンだ!あの方が私に策を授けてくれた!なんでこの場にいないんだ!情報も、作戦も、その後の処理も、私に全てを教えてくれた!姉さん、彼こそあの『伝説』の人に違いない!あの方こそ、この国を救う方なんだよ!」
会議場全体がざわつく。皆驚いた顔をしている。
アリッサだけはわかった。違和感が解消された。弟は重圧に、責任に、皆の期待に押し潰されそうだっただけなのだ。
子供のころ、優勝確実と言われた剣術大会の前日もこんな感じだったな・・・ふと懐かしい思い出を、アリッサは思い出していた。
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上手くいってよかった。とりあえず、自分の働き口は守れたようだ。
利己的な自分に多少の嫌気がさしつつも、宇賀神は目先の仕事を進めることにした。
商売のため、絶えず周辺の情勢にアンテナを張っていたことが幸いした。イルジェンの国内情勢についても、当然耳に入っていた。イルジェンは工業が弱いため、商売上は大変な得意先である。情報を知っていて損はない。
ただ、侵攻には驚いた。ドーンに調べさせて入ってきた情報を取り急ぎ分析し、かなり無謀かつ、政治的な侵攻であることがわかったときは多少ほっとした。
愛着のあるライツが滅びるのは嫌な気分になる。こんな「セレモニー」的な攻撃なら、すぐに終わるだろうと考えた。
愛着も理由の一つではあるが、もう一つ大きな理由があった。宇賀神は今後、ドーン商会の顧問として「天下り」できればいいなとなんとなく考えている。そこで人脈を作り、金を貯め、ライツかその近辺で自分の商売を始めたいと考えていた。
なのに、会議では籠城ときたものだ。もし籠城となれば街を荒らされる。最近順調な商業網が大打撃を受け、彼の構想はかなりの狂いが生じる。それは避けたかった。勝てるであろう野戦できっちり勝ってもらいたかったのだ。
ただ、会議の場で持っている情報を根拠に否定しても良かったが、彼らの面子というのもある。
『情報はそれ自体の価値よりも、出すタイミングが大切である。』社会人時代多くの会議に出席したり、根回ししたりを繰り返してきた彼の持つ持論である。同じことでも、言うタイミングは大切だ。
特に、ヘイルになんとなく嫌われているのはわかっていた。なので、多少挑発的な、思わせぶりな投げかけをしてみせたのだ。
前の世界で、役員の息子の教育係になったときのことを思い出す。悪い人間ではなかったが、中々にプライドが高く、扱いづらい社員だった。何かをやらせるために、敢えて「当然わかっているとは思うけど」的な駆け引きをしたものだ。人間の誘導方法には、どんな世界でも悩ませられる。
結果として、見るからに責任の重さに潰されそうになっていたヘイルは、宇賀神の狙い通り彼の案に乗ってきた。これで後は普通に敵の物資切れを待つだけである。
ただ、最後の攻撃の成功は、宇賀神の想像を超えていた。相手が逃げて、それなりの損害を与えて終わりだと思っていたが、まさか乱れ切った陣形でその場にとどまり反撃してくるとは予想外であった。結果として、思っていたより勝ってしまった。
この世界で生きていくためには慣れておくことも必要だと、戦後の戦場を歩いたが、悲惨なものであった。何度か耐えきれなくなって吐いた。死体に手を合わせる。宗教は違うかもしれないが、気持ちが大切だと思う。
全てやるべきことはやった。後は、兵站部長代理の職を解いてもらおう・・・そう考えた矢先、ヘイルが宇賀神のことを皆の前で絶賛し、あったことを洗いざらい吐き出したという経緯を聞いた。
(ヘイル君はまだ上に立つ覚悟はできていないということかね。あの猪武者のデーサンが天然でプレッシャーをかけてしまったということだろう。)
会議の詳細な流れを聞いたときは思わず笑いそうになった。ただ同時に、面倒なことになったとも思った。
領主であるドニエルに呼ばれたときのはその直後であった。
「ウガジンとやら、この度はご苦労であった。ヘイルから話は聞いている。今回の勝利、貴殿の功績が最大であるとのことだ。」
「いえ、ドニエル様。私は自らが知っている情報をヘイル様にお伝えしただけです。ヘイル様のご謙遜でございます。ヘイル様の指揮、実にお見事で・・・」
横に居たヘイルが口を挟んできた。
「違う!全てあなたのおかげだ!私は全てあなたの指示に従っただけだ!父上、謙遜しているのはこの者の方でございます!」
ドニエルは笑いながら続けた。
「わかっておる。ウガジン、謙遜するでない。あなたのおかげで我が国は守られた。このお礼は必ずする。ついては、この勝利の立役者である君に、申し訳ないがイルジェンとの交渉を一任したい。
君の情報分析力と広い視野をもって、この交渉をまとめてほしい。ヘイルもあなたの側について色々勉強したいと言っている。わしの頼みでもある。引き受けてもらえないか?」
さすがに断れなかった。そんなやりとりを経て、今の仕事に至るわけだ。近日中にイルジェンとの本格交渉が開始される。それにあたっての準備が順次進んでいる。
部屋がノックされる。入ってきたのはヘイルだった。
「ウガジン殿、今日もよろしくお願いします。」
すっかり敬語となった彼の目は輝いていた。この男、いずれ領主になるにしろ、当面は後輩キャラの方が得意と言えそうだ。宇賀神は答えた。
「ヘイル様、そんなにかしこまらないでください。こちらこそよろしくお願いします。」
「いえいえ、色々教えてもらう立場です。ところで今日は何をされるのですか?」
なんとも言えないやりづらさを感じつつ、宇賀神は答えた。
「勝利した我が国が主導権をとれるので、和平交渉はこのライツで行われます。会場の設営状況の確認を午後に行います。午前中は時間があるので、ノエラさんの状況を見に行きましょう。」
城内の一部に拘置しているノエラの様子は気になっていた。拘置といっても、逃走防止措置のみをして、後は普通に暮らしてもらっている。
他の捕虜も含め、人道的扱いは徹底するよう指示していた。彼らは交渉の切り札であるのだ。ただ、長期間の慣れない生活で体調を崩している可能性もある。拘置後一度会ってはいるが、直近の状況を確認しておく方が良い。
ヘイルとともにノエラのもとに向かう。城内の一室、衛兵に鍵を開けてもらい入室する。鉄格子がはまっているようないわゆる『牢屋』ではないが、多少の圧迫感を感じる室内に彼女は居た。
捕縛後に見た鎧姿とはまったく違った印象を受ける。設置された椅子にこしかけ、本を読んでいた。白いシャツを黒のズボン。過ごしやすい服装を聞いたときに彼女自身が所望してきたものだ。スカートはあまり好まないらしい。
宇賀神らが入室すると、彼女は立ち上って一礼した。そのままソファーに対面で座る。武器など持ち込めるはずはないが、一応武装した兵が宇賀神らの背後に立った。
ノエラは捕縛後、他の捕虜の助命を最優先で求めてきた。特に腹心のマースの様子を気にしていた。彼も捕虜となっている旨、丁重に扱う旨伝えると、大変安心した様子であった。
その後も抵抗することもなく、自分自身の状況を受け入れているようだ。その立ち振る舞いに、若いのに大したものだと宇賀神は感心した。
「ノエラ様、ご体調はいかがですか?近日中にあなた様の国、イルジェン国との和平交渉が始まります。もうしばらくこの不便な生活が続きますが、ご容赦ください。必ず無事に帰還できるよう取り計らいますので、ご安心くださいね。」
「ありがとうウガジンさん。体調は問題ありません。改めて、元々我々の国の攻撃で始まった戦争です。それに敗れた今、どのような扱いを受けても文句は言えないところ。それなのにこの人道的な扱い、誠に感謝しています。」
(うちの王子様と同じ年とは思えないな。人の上に立つ才能は、この女の子の方がありそうだ。)
隣にいる、今や彼の「舎弟」となったヘイルのことを考え笑いそうになる。それをこらえ、いくつかの質問をしていく。ノエラははっきりとした口調で答える。しばしの時間が流れた。
「ノエラ様、確認したいことは以上です。お疲れのところありがとうございました。」
宇賀神が切り上げにかかったところで、ノエラが口を開く。
「ウガジンさん。先日は面会を認めてくれてありがとうございました。」
ああと思った。通常だと認めないところであるが、ノエラの無事を確認したいとのイルジェン側の懇願を受け、認めたものである。ライツ側の武官、兵士、情報部職員を同席させること、面会記録を作成すること、イルジェン側の武装を認めないこと等を条件として認めた。宇賀神は答える。
「窮屈な条件で申し訳なかったです。あまり深い話もできなかったでしょう。」
「それは立場上当たり前です。大変ありがたかったです。ヘイル様も、先日はありがとうございました。」
ヘイルを見る。ノエラと会えという指示は出していない。ヘイルは少し気まずそうにしながら、少し小声になって言い訳してきた。
「ウガジン殿の仕事ぶりを見て、私も早く仕事のやり方を身に着けたいと思い、ウガジン殿のやり方を真似しているのです。出過ぎた真似と思いましたが、何人かの捕虜と面談を行いました。そのうちの一人でして・・・」
余計なことを言っていたら面倒だなと思った。その心配は当たったようだ。ノエラが話す。
「ウガジンさん・・・今回の戦い、我々は完全に敗北いたしました。先日ヘイル様とお話したところ、ウガジンさんの抜群の采配を絶賛されていました。隣国にこのような軍神のごとき方が居たのでは、我々に勝ち目はなかったと痛感しています。」
どこまで話を盛っているのか・・・そして、さすがに情報を話しすぎだ。ヘイルを思わず睨みつける。
ヘイルは泣きそうな顔で、目で謝ってきた。
「ウガジンさん。どうかご心配なさらず。私自身、実際に戦場に出たのは初めてですが、他国の話等、色々悲惨な話は聞いております。戦場での采配はもちろんですが、その後の我々捕虜への丁重な扱い、そして実際にお話をさせていただいて、あなたの人間性に大変感動しています。
今後、私がイルジェンに帰り、もし国を導けるような立場になれたとしたら、贅沢かつ図々しいお願いかもしれませんが、ライツと、ひいてはウガジンさん達と手を取り合って友好的な関係を結びたいと思っているのです。」
目の前の「女の子」を改めて見る。以前の彼女のことは情報上でしか知らない。ただ、間違いなく彼女は今回大きな失敗をし、同時にそれを糧に成長しようとしている。
敵味方関係なく、宇賀神は前向きな者を好む。言葉を選びつつ、答えた。
「ありがとうございます。両国の未来が輝かしいものになることを祈ります。もうしばらくご辛抱ください。良い報告を近日中に届けられればと思います。」
宇賀神達は立ち上がり、一礼する。顔をあげたときノエラと目が合った。その目からは敵意は感じられない。柔和な表情を浮かべる彼女は、今後帰国後に相当な嫌な経験をすることになるであろう。
ただ、それすらも経験として、彼女の成長に繋がっていくような気がしていた。
(うちの王子様も前向きだし、悪いやつではないがね。少々ピントがずれていることもあるが。)
同じ年齢ということもあり、またもやついついノエラと比較してしまう。宇賀神は自分の後についてくるヘイルに、この後どう穏便に説教するかを考えつつ、衛兵の開けた扉をくぐった。