第4話 失念
上階からの落下物に注意しながら、窓、扉、一つ一つ施錠確認していきます。
更に建物から離れて、2階3階に窓の開放が無いかもライトを使用し確認していきます。
何も無ければ次の建物へ向かいます。不審者対応などの危険が迫っている状況以外、巡回というのはざっくり言ってしまうと、この繰り返し作業です。
何年も同じ場所で仕事をやってきて、大体無施錠がある建物、扉は分かっています。しかしそうであっても確認を怠る事は一切しません。全ての窓や扉を確認していきます。さもないと不審者や泥棒に侵入経路を与えてしまう事になってしまいます。
腕時計を見ると、針は0時20分をさしていました。守衛室を出発して、あっという間に20分が経過していました。
何度も仕事で年越しをしました。何度も年越し蕎麦を職場で食べました。何度も妻の誕生日や結婚記念日を仕事場で過ごしました。記念日の度に一人にさせてしまって申し訳ないな・・・そればかり思っていた毎日・・・。
でも決してつらくは無かったんです。仕事場の仲間が居たのでそれはそれで私にとっては良い毎日でした。これによって給与もちゃんと貰う事が出来るし、妻にプレゼントを買うことが出来る。勤務時間が終われば妻と会えるわけですから。何も記念日に拘らなくてもいいんです翌日で。少ない2人で過ごす時間に家でそのような話をしたことがあります。
私は敷地の奥にある、植物研究棟に向かっていました。敷地から少し外れた辺鄙な場所にあるのがこの植物研究棟になります。
そこで異変を感じたのです。
外部からの進入を止める為のバリケードが設置されておりませんでした。
夕方の巡回時に鍵付きのバリケードをかけて、早朝の巡回時にバリケードを外し、開放する流れなのですが、今日はまだバリケードがかかっておりませんでした。
夕方の巡回担当はティミーです。もしかしてその業務を忘れていたのでしょうか。
マニュアル通り、すぐさま無線で連絡を取ります。
アル「・・・こちらアル。守衛室どうぞ」
ティミー「はい、こちら守衛室」
アル「えー・・・・植物研究棟ですが、外周のバリケードは閉め忘れでしょうか。契約先から本日開けたままにするという情報は聞いておりませんが」
ティミー「・・・!!!申し訳ありません!!失念しておりました!!」
アル「了解、こちらで閉めて引き続き巡回を行う。以上・・・」
今夜の相棒のティミーは自分のことを慕ってくれる良き後輩でしたが、「大事なことを忘れてしまう」という重大な欠点がありました。なので上司や同僚に対して仕事中緊張感が無いというイメージを与えており、お陰で自身の給料を上げる為の肝心な「階級」もなかなか上がりませんでした。
一歩間違えたら客先に莫大な被害が出るようなうっかりミスもこれまで山ほどありました。
しかし、そんな彼には一つの太い生命線がありました。
お客様受けがやけに良いので、なんとかこの会社でやっていけている状態だったんです。
実際にティミーの口八丁な提案から考えが派生し、契約先から追加サービスを獲得し普段我々が行っているこの仕事の単価を上げる事に成功したのです。
大きな会社貢献をしたのです。
この業界では珍しい小売のサービス業から転職してきたという経歴があり、お喋りが上手な警備員として会社に居る他の隊員には出来ない唯一無二の働きをしていたのです。
今回の失念も許される事ではありません。
直属の上司の私としては、せめて反省し、この巡回が終わる頃には守衛室で再発防止策をしっかり立てていて欲しいなと願うばかりです。
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