第15話 人生
休憩時間が終わり、ティミーと工場の担当者へ挨拶に行きました。
前の配属先の担当者とは親しく話していたティミーもこの配属先の担当者はどうやら苦手のようで、いつも通り上手く話せていない部分がありました。
人間なので合う合わないがありますので仕方ないことですが、元主任格であるなら関係性は早く整えておかなければ、仕事上差し支えることがあります。という風に以前に教えた筈だけど・・・・・。
その後、巡回ルートやゲートやバリケードを閉める業務を二人で確認し、守衛室に戻りました。
ティミー「隊長と業務を一緒にやるなんて久しぶりのような気がします・・・」
アル「久しぶりに巡回したよ。おかげで良い運動になった。正直仕事のスタミナは落ちてるからな。早く体を戻さないと・・・いけないな・・・・」
大きな机の上に、ここ一か月間の日報を広げて、一日の業務を確認しています。
業務整合性の確認です。
アル「おい、ティミー」
ティミー「はい、何か間違いがありましたかね?・・・・」
アル「行けよ」
ティミー「はい?・・・・」
日報を広げているティミーの手が止まります。
アル「さっきの話。腹は決まってるんだろ?シェルター事業に戻りたいんだろ?」
ティミー「・・・そんな・・・隊長が復帰されたばかりなのに・・・・」
アル「俺の事は気にするな。ティミーの人生だろ?人生は一度しかない。やりたいことをする方が良いに決まってる。そんな気持ちのままここで仕事をしていても、いい結果が出るとは俺は思えない。独身のうちにやりたいことをやっておくんだ。もし奥さんや子どもが居たらそうはいかないぞ。食わせないといけないし、自分勝手なことは出来ない。今しかないだろ」
ティミーは私の子どものようなものです。事故が起きる前もずっと他の事を考えているのは分かります。あのバリケードを閉め忘れた時だって、きっと昔の職場の事を考えていたに違いありません。
ティミー「実は・・・・先日もう試験を受けて、受かってるんです・・・・」
ティミーは観念したかのように答えました。
薄々感じていました。元々あの事業に携わっているにしてはやけに詳しいので、常にインターネットで調べていたんじゃないかと思っていたほどです。
アル「やっぱりそうか。もう先方に返事はしたの?」
ティミー「いえ、してません」
アル「上司の俺に気を遣ってるのか?」
ティミー「・・・・・・・」
アル「捨てなさい。俺を、そして仕事の仲間を。自分の人生の方がよっぽど大事だろ」
ティミー「隊長・・・・・」
私は寂しいのです。
捨てろと言った割には、彼が自分の目の前から完全に居なくなる事は望んでいませんでした。正直な話、誰よりも手をかけて彼を育てて来たのです。実際、新人や若手の訓練を指揮する立場まで育ちました。後は自分の後・・・そしてグラッドの後に隊を率いる所まで行って欲しかった・・・・もう少しだったのに・・・・。そのように思えばこんなに寂しい事はありません。気を遣っているのは実は私の方だと気づかされました。
そこまで分かっているのに・・・なのに何故だろう、自分ではこれ以上ティミーの良さを引き出せる気がしなくなっていたのです。元々居た隊からお互い離れたからではありません。病気になりガリガリに痩せ細った、以前より覇気の無い後輩の姿を見て、どうしても今の仕事を続けなさい、続けて欲しいとは言えなくなってしまいました・・・・。
アル「まぁ・・・ただ、この先輩である俺にはこの今の警備会社に入社した事は間違いじゃなかったという事をこれから先で見せて欲しい。政府が介入してる事業なんだろ?延命事業・・・誰もまだ踏み入れていない未知の世界だ。もしそれで人を救う事が出来たなら、それ以上に素晴らしい事はないじゃないか。今の仕事も人を救う仕事であることは変わりない。その点で言えば同じ仕事だろ。活かせるさ。今の気持ちを絶やさなければ間違いなく活かせる。ここに居て気持ちが絶える前に行かなきゃいけない」
ティミーは行きたいんです。他の人間の気持ちを押しのけてでもシェルター事業に行きたいんです。さっさとこんな過疎化が進むド田舎からトンズラしたいんです。一番の仕事仲間である、教わった私に背中を押してもらいたいんです。
彼には「言いにくい事ほど早く報告しろ」と新人の頃から厳しく教えて居ましたが、最後の最後だけそれは出来なかったようです。
会社を去るという報告だけはどうしても言い出せなかったのです。
もう顔に書いてあるのに。
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