第13話 工場
乗り慣れない社用車に乗り、人里離れた山奥の工場に到着しました。
アル「ここか?・・・・」
助手席に置いていた杖を取り出し、会社が借りている駐車場に社用車を停車させました。
少し坂を上った先に掘っ立て小屋のような簡素な造りの施設がありました。
この施設が我々の守衛室です。
『ただいま席を外しております。お急ぎの方は下記連絡先へ・・・・・・・・』
丁度休憩時間に入っているようでした。
しかしここは・・・この場所は・・・・定期的に入る業者の受け入れが終われば、ほぼ何もすることは無いと思われる契約先でした。
24時間交代をベースにして、36時間勤務もある勤務体制でした
私は工場全体を見回した後にその小屋に入り、衝立で区切られた休憩室の扉を開けました。
そこには座布団に座ってTVを見ているティミーの姿がありました。
ティミー「えっ?・・・・」
私の顔を見るなり、無精髭面のティミーは目に涙を浮かべて私に抱きついてきました。
ティミー「た・・・・隊長ぉ!!・・・いやすいません!!副指令!!・・・」
号泣です。男の号泣でした。
私が病院に行っている間に、一度スーツ姿で家に菓子折りを持って土下座をしにやってきたと妻から聞きましたが、その時かなり痩せていたと聞いていました。
グラッドからも、ティミーが体調を崩して配属先が変わった後も二か月ほど休んでいたと聞きました。かなり責任を感じていたことでしょう。
ティミー「昇進おめでとうございます。また会えてこんなに嬉しい日はありません・・・・。副指令の就任式スピーチの会報が社内メールで回って来て・・・・もぉ嬉しくって俺は・・・副指令らしいというか・・・・普段から俺達の事をそんなに大事に思ってくれていたんだなって・・・・・」
アル「元気そうでよかった」
ティミーは目を真っ赤にして泣いています。
アル「もう泣くな。この前はすまなかったな。丁度病院に行っててな」
ティミー「副指令、申し訳ありませんでした・・・・・。俺の失敗が原因で・・・足が・・・・」
アル「何言ってんだよ。このくらいで済んだんだ。俺はまだまだ働けるぞ。ほら、この通り!!」
その場で立ち上がって足踏みをして見せました。
ティミーはあの事故から15キロも体重が落ちたと言っていました。
胃腸炎を患ってしまい、悪化。そして長期休養となった経緯を私に教えてくれました。
ティミー「あっ副指令・・・・すいません気が利かずに・・・」
アル「呼びにくければ、二人の時は『隊長』でいいぞ」
冷蔵庫からディスカウントショップで購入したと思われる缶コーヒーを持って来てくれました。少しここで話しながら自分も休憩するか・・・。
アル「缶コーヒーありがとう。ティミーどうだ?前の配属先と比べて、どう?何か変わった?」
ティミー「あ・・・・もう隊長でしたら分かったと思いますが、『暇』と言ってしまうと問題なんですよね?・・・・若い人間がこの隊に居ないので、教える事に関しては張り合いがありません。70歳の嘱託さんと非常勤の方と基本3~4人と回していますのでね。俺が一番の若手です。先輩方に教える事など、俺にはありませんから」
アル「先輩?相手に教えても、もう伸びないと思ってるからじゃないか?」
ここに配属される前は主任格であったティミー。若手の訓練を主に指揮をしていましたが、ここに来てからはもうそれも無くなったと言っていました。
忙しい場所から一度こういう場所に行かされてしまうと、腐る人間は腐ってしまいます。よほどの自制心や自立心が無ければ周りのゆるりとした空気に完全に押し潰されてしまうのです。
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