第10話 元鬼軍曹
通院やリハビリを行い、動きの悪い右膝の様子を逐一確認していましたが、恐らくこれ以上は良くならないだろうという所まで来ました。
なので、この杖はこれからも必須の様です。
私はスーツを着て、昨晩書いた「辞表」をカバンに入れて、本社がある町に向かっていました。上司に状況報告をする為です。
会議室に通されると、そこには私の直属の上司である元鬼軍曹、「ハーツ指令」が待っていました。
ハーツ「アル、すまない。出張と研修が重なってしまって病院に行く事が出来なかった。本当に申し訳ない」
ハーツは会って早々、私に頭を下げて謝罪しました。
アル「いえいえ頭を上げて下さい、指令。遠方からお忙しい中、メールで連絡をくれただけでもありがたかったです」
目が覚めて自分の端末に一番に連絡を入れてくれていたのはこのハーツ指令でした。
ハーツ「連絡は当然のことだ。俺が教え込んだ最愛の後輩が怪我をしたんだ。誰よりも早く連絡をしないと気が済まない。俺はそういう性分だ」
ハーツ指令は私が新人で配属された時の先輩でした。当時のハーツは今の時代に合わないくらい厳しかったですが、孫が出来てからは完全に牙が抜けてしまい、丸くなってしまいました。あの私達をしごき回した鬼軍曹は一体どこに行ってしまったのでしょうか。
あんなに厳しかった人も変わってしまうのか・・・子どもや孫の威力はとてつもない・・・・・。
話を続けるとハーツ指令は来年で定年を迎えるということでした。実家に戻るそうです。
色々大変な事もあったけど、過ぎ去ってしまえばこんなにあっさりしたものは無いと言っていました。今となってはいい思い出・・・簡単に言えば、そういう事なのかもしれません。
幾千の夜を越えて来たのです。来客者が倒れた時やテロや火災が起きた日もありましたし、眠れない夜もありました。逆に眠たいのに緊急で叩き起こされた時もありました。こちらとしては嫌な事しかなかったように思えましたが、救われた人も中には居た筈です。その一瞬の為だけにハーツも私も、お互い何年も現場仕事をやってきたのです。
上司と笑いながら思い出話をしていた時、ハーツは私のカバンを指さしました。中には昨晩書いた辞表が入っています。
アル「え?・・・ど・・どうしました?・・・」
ハーツ「そんなもの出すなよアル」
なんだか悲しそうな顔をするハーツ。
アル「・・・分かっていたんですね・・・」
ハーツ「出さなくとも、顔に書いてある。・・・・何年の付き合いだと思ってるんだ」
もうお見通しでした。どのタイミングで出そうか考えていましたが、ハーツには何もかもが分かっているようでした。
ハーツ「昇進だアル。戻って来い」
ん?・・・・・んん??・・・・・・
思わぬ上司の言葉に一瞬返す言葉を失いました・・・・。
アル「・・・・・・・え?・・・・昇進??・・・・」
ハーツ「戻ってきたら『副指令』だ。宜しく頼むぞアル!!よし!タバコでも吸うか?!」
・・・いよいよ私も管理職のようです。
アルの会社の役職
隊員
↓
主任
↓
副隊長
↓
隊長
↓
副指令
↓
指令
↓
部長
↓
取締役(役員)
配属された隊が大きい時は「リーダー」などの特殊な役職もありますが、基本的にはこの順で昇進していきます。
副指令以降が管理職。隊長以下は一般職となります。
55歳を超えると就いていた役職が無くなる事がありますが、これまでの会社の流れであれば、55歳時点で隊長まで昇進している場合、それ以降も通常通り昇進します。
私は今年63歳になりました。この歳で出世しました。
辞表はハーツに圧倒されてしまい、本日は提出することができませんでした。
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