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第12話 爆発、炎上

 焼け落ちた破片が降り注ぐ校庭に、夜風が通り抜ける。

 地面には特徴的な鉤爪が散らばっていた。

 その本体──女王と呼ばれた王侯固体は、白銀の光で跡形もなく消え失せていた。


 光が収まると、そこには一体の影が佇んでいた。

 身を焦がすような輝きを放っていた両手は今か蒸気のような煙を上げ、顔に宿る細い線状の光が、まるで呼吸のように微かに明滅を繰り返している。


(……無事だろうか)


 私の目が探したのは、敵ではなく、生存者の姿だった。

 闇の向こう。崩れた校舎の下、爆風から逃れた影がいくつも身を寄せ合っている。  

 ──彼女たちだ。強い瞳の少女、葵とその仲間たち。


 こちらの姿を見つけると、誰かが叫びんでいた。


「……何よ、あれ……あんな力、反則じゃない……!」


 叫んだのは金髪の巻き髪の女性生徒だ。

 髪が乱れていたが、なお色褪せない優雅な出で立ちが特徴的だ。


「アレ、マジでやばいですわよ? ちょっとN.A.O.はあの力、解析できたんですの!?」

「ええ、麗華。測定不明だって……魔力じゃない未知の力かも知れないわね」


 その中で、一人だけ声を上げない少女がいた。

 東堂葵。

 目を細め、じっとこちらを見つめている。まるで、見透かすように。


(……うん?)


 まずい、かもしれない。

 探るような視線には見覚えがある。

 何度も星街ダンの時に感じた、葵の疑うような眼だ。


(長居は危険か)


 どうやったのかは知らないが、葵の傷は治っているようだ。

 ならもうここに用はない。

 背を向け、焼け焦げた地面を歩き出す。


「……待って!」


 叫んだのは、やはり葵だった。

 だが追ってはこない。

 ……仲間に羽交い締めにされていた。

 金髪とメガネの女生徒が抑えなければ、今にも斬り掛かってきそうだ。


(彼女は気づきかけている……かもしれないな)


 私は“彼女”たちの命を救った。

 初めてこの地球に降り立った時は、成り行きで暴れている化け物を倒したが、今回は違う。

 明確に、人間の味方である素振りを見せてしまった。


 カシャッ──。


 どこかでシャッター音が鳴った。


(……写真?)


 誰かがスマホでも構えていたのだろう。

 ──やはり、長居は危険だな。

 そもそも地球で目立ってはいけない。

 母星に気づかれる可能性もある。

 それを分かっていたはずなのに──


(私は……彼女たちを、見殺しにできなかった)


 ……まあ、仕方のないことだろう。



        ◆     ◆     ◆



「さっきの、見たよね」


 数分後、焼け跡に降りた剛がうめき声をあげながら転がり込む。

 血は流れているが致命傷ではなさそうだ。

 続いて可憐がスマホをタップしながら呟いた。


「撮れてたわね……けど、何これ……」


 画面に映っていたのは、発光する黒き影。

 その姿が葵たちを守るように立ちはだかり、光の奔流で敵を消し去る瞬間だった。


「どこのヒーローアニメだよ……」


 剛が呆れて笑うが、視線は真剣だ。

 そのとき、葵はぽつりと漏らした。


「……優しそうだった」

「は?」


 全員が一瞬、聞き返す。


「さっきの……あの黒き影は敵にとどめを刺したあと、真っ先にこっちを見た。まるで、“大丈夫か”って言ってるみたいに」


 言いながら、自分でも馬鹿みたいだと分かっているのか、葵は唇をかむ。


「そんなの、気のせいじゃね?」

「……かも。でもあれは……戦うためじゃなく、守るために私達の前にたってた」

「詳しいわね、葵。まさか知り合いだとでもいうの?」


 蜂堂可憐が軽口を叩く。

 それに対し、葵は答えない。

 ただ、黙って──去りゆく黒い大きな背中を見る。


(違和感ね……なんで、私はアレに安心したんだろう)


 むしろ、惹かれている。

 理解できない存在であるにも関わらず。

 それがいったい何を意味するのか……今の彼女には、まだ分からなかった。


 ──けれど、彼女の直感は、確かに告げていた。


 「あの“アンノウン”……私たちの敵じゃない。むしろ──」


 そしてふと、思い至る。

 あの神楽坂の喫茶店店主。

 馬鹿みたいに落ち着いていて、どこか浮世離れした男──あの妙な安心感。


(まさか、ね……)


 葵は頭を振った。そんな都合のいい話があるわけがない。


 でも。

 あの雰囲気は──。


 その瞬間だった。


 ──ズガァン!


「……え?」


 誰かの声が漏れた。

 次の瞬間、激しい衝撃波とともに、炎の渦が校庭の端まで押し寄せる。鉄骨が軋み、吹き飛んだ破片がアスファルトをえぐる。


「きゃああ!?」

「ち、今度は何よ!?」


 熱風が吹き荒れ、夜空が赤く染まる。

 すぐそこで大きな炎の柱が巻き上がっている。


「な、なに!? 爆発……!?」

「違う……見て、アンノウンがっ!」


 メガネを落とした可憐が、広いもせず震えている。

 麗華も剛の二人も表情から、余裕が完全に消えていた。


「……撃たれた、の?」


 東堂葵は、唇をかみながら空を見上げた。

 あの巨人の立っていた場所から立ち昇る黒煙。

 まるでそこに、“何か”が直撃したような……


 ──そして、彼女は確かに見た。


 爆炎の渦巻く夜空から降りてくる白き光。

 頭上に光輪を輝かせ、ゆるやかに舞い降りる白亜の存在を。


「嘘……」


 葵が息を呑んだ瞬間、彼女はスッと剣を抜いた。

 白亜の鎧を纏う、人ではないヒトのようなナニカ。


 敵か、あるいは──。


『遠き銀河の戦神が我が星に何用か──答えよアストラゼノン!!』


 その女性型の白き巨影は、確かに人の言葉でそう告げた。

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