第1話 お願い
この世の人間って,なんでみんな哀れなんだろうか。大人子供関係なくみんな哀れだ。正直この世界で生きていても何も楽しいことはない。人のことを馬鹿にしたり悪く言う人間ばかりだからだ。そしてみんな,悪いことして笑ってる。サイテーだ。一度この世界リセットすることはできないのかな?
あーもう嫌だ。こんな日常嫌だ。クラスメイトは嫌な人間ばかりだし毎日のように奴らにいじめられる。先生に相談したって何も解決してくれない。もう子供も大人も,人間自体信用できない。
今日も今日とて僕はクラスメイトからいじめられる。
「うえーいゴミ川ー!ゴミ川悠真ー!」
「違うだろ?ゴミ川悠真じゃなくてゴミ川幽霊だろ?」
ゴミ川幽霊と言われている少年の本当の名は有川悠真。内気な性格の中学2年生。その性格のせいで何言っても怒らない,殴る蹴るの動作をしないため悪いクラスメイトに良いようにされ,いじめの対象となっていた。本人がいくらやめて欲しいと言ってもみんなやめない。
「ガハハハハ!コイツには何捨てたっていいんだぜ。」
「ほいゴミ川。空のペットボトルやるよ。」
そう言ってクラスメイトの1人が悠真にペットボトルを投げる。
「や,やめてよ…。」
「あ?お前はゴミ箱なんだよゴミ川幽霊!」
「幽霊の見た目してるくせに偉そうなこと言ってんじゃねえよ!」
「キモいんだよお前。ゴミで幽霊のや奴は大人しくゴミ箱になっとけばいいんだよ。それしか役目ないんだから。」
と言って4、5人の男子でゲラゲラ笑う。
「じゃあ鉛筆削りに溜まったカスもコイツに捨てていいの?」
クラスの女子が笑顔で聞く。
「おう!捨てろ捨てろ!」
「わーいやったー!」
と言ってその女子は鉛筆削りの蓋を開け,本当に悠真の頭の上に落とす。そしてその光景を見て捨てた本人はケラケラ笑う。
「ゴミ川くん。ゴミ箱の餌はゴミなんだからまた持ってくるね!」
満面の笑顔で悠真に言う。するとまたもう1人の女子が,
「きゃー!つまづいちゃったぁ。」
と言って持っていた牛乳を悠真に溢した。制服や髪の毛が牛乳だらけになる。でもこれはわざと。その女子はあらかじめ牛乳パックの閉じられているところを全部開けており,それを悠真に花に水をやるように牛乳をかけたからだ。
「ごめ〜ん有川く〜ん。じゃなくてゴミ川幽霊。」
「ごめんって言わなくていいんだよ。だってコイツ存在がゴミ箱で幽霊なんだから。」
「あそっか!そうだった!」
「うわーゴミ箱がさらに臭くなった!」
「牛乳臭え〜。」
悠真は唇をかみしめてグッと我慢する。全力で拳を握りしめる。そしてクラスメイトたちに勇気を振り絞って言った。
「もう…やめてよ。」
それが今悠真ができる最大の抵抗だった。けどそんな事は全く聞かない。むしろ悪化した。
「あ?なんだよ。もう一回言ってみろよ!」
「お前に抵抗する権利ないっての!」
と言って悠真の顔を殴った。
「ゴミ箱のくせに何言ってんだよ!お前は俺らの…ゴミなんだよ!粗大ゴミだ!」
「社会のゴミ〜。」
「社会の幽霊〜。」
そう言ってクラスメイトたちは悠真のお腹を蹴ったりする。そして悠真人生最大の最悪なことを言われた。
「お前みたいな奴,この世から消えてしまえばいいんだ。自殺でもなんでもやったらいい。いややれ!お前がいたって社会の邪魔なだけだからな。」
「うわそれ最高。コイツ消えれば世界平和だ!」
「やったー!世界平和が訪れる!ゴミ川幽霊いなくなっちゃえー!」
暴力はさらにヒートアップした。男女関係なく悠真に殴る蹴るの動作をする。
(もう…やめてよ…。)
悠真は心も身体も痛すぎて何も抵抗することができなかった。
放課後,悠真はトボトボと歩いていた。そして通学路にある歩道橋の1番上に登った時,ふと今日クラスメイトに言われた言葉を思い出した。
“お前みたいな人間この世からいなくなってしまえばいい。”
人生で言われた言葉の中で1番ショックだった。どんないじめの中でも1番ショックだった。でも考えてみると確かにそうだと思った。自分がこの世から存在自体なくなればみんなも社会も平和になる。ならそうしよう。自分がこの世からいなくなろう。自分1人くらいいなくなったって誰も困らない。逆に自分もいじめから解放される。みんな楽になる。1番平和な選択。それはもうあれしかない。そう思い悠真は歩道橋の柵に手を置いた。そして手にグッと力を込める。歩道橋の下は道路。時間帯的に車がいっぱい通ってる。落ちれば車に轢かれるかそのまま地面に衝突かの2択。痛そうだから無理という選択肢はもうない。心も身体も絶望に満ちた悠真には道路に向かって落ちるという選択肢しかなかった。川に飛び込むのもいいけど道路の方がすぐ楽になれる。そう思った。歩道橋から落ちようと足を浮かせた瞬間,
「ねえ,何してるの?」
後ろから誰かの声がした。慌てて歩道橋の柵から手を離し,後ろを向くと自分より幼そうな年齢,自分よりも小さな身長,金髪,青くて綺麗な目,そして白いワンピースを着た可愛らしい少女が悠真を見つめていた。天使のような少女。悠真を見ると少女はとても笑顔になり,
「やっと見つけた。」
と言った。何を見つけたんだろうか。周りをキョロキョロするが,特に特別なものはない。すると天使のような少女は突然悠真の方に駆け寄って悠真の手を取って言った。
「あなたよ。やっと見つけた。」
急に変なことを言い出す。もう何が何だか分からない。
「は,はあ?」
「私の名前はサラ。大天音様に頼まれて心の綺麗な人を探してたの。あなた,すっごく心が綺麗ね!」
(大天音様…?何それ?心が綺麗な人?僕が?)
見るからにこの少女が普通の人間ではないことは分かる。金髪,青い目,白い服を着てるから。それによく見ると裸足だ。でも足は汚れてない。
「あのね,急で悪いんだけどこの世界を救って欲しいの。」
サラと名乗る少女は急に今初めて会った悠真に頼み事をしてきた。
「私たちの,世界?」
もうこの時点で悠真の頭の中は混乱している。
(この世界を救って欲しいって何!?てか僕たち今会ったばっかだよね?なんで初対面の僕にそんなこと言ってくるの?)
「私たちの暮らすお空の国でもなんとかしようとしたけどダメだったなの。地の国の悪魔たちがどんどんここへ這い出てきてるわ。この世界が滅べば悪魔は私たちの世界を滅ぼす気でいるの。だからお願い,私たちを助けて…。」
「で,でも。僕は普通の人間だ。この世界を救うのは君のような人じゃないと…。」
「私たちがやっても意味なかったからあなた人間に頼んでいるの!人間を改心させようと思ったら人間が改心させなきゃ意味ないの!だからお願い!私たちを助けて!」
必死に悠真に頼み事をするサラ。ギュッと瞑った目からは涙が滲み出ている。
(これは,もしかしたらよほど重要なことなのかもしれない。彼女たちを助けるにはきっと僕の力が必要なんだ。)
「分かった。僕にできることがあるならなんでも言って。できる範囲でやるから。」
するとサラはさっきよりも顔がパッと明るくなり,悠真を見上げて,
「本当!?」
と言ってとても喜んだ。
「うん。具体的なことはよく分からないけど,一度君の話を信じてみるよ。」
「ありがとう!じゃあ仲間を集めないと!!」
また何か不思議なことを言い出した。
「な,仲間?」
「うん!あなた以外にあと3人,この世界に綺麗な心の持ち主がいるの。一刻も早く残りの3人を見つけないと!」
「え,えー!!!???どどどどういうこと!?」
「世界を救うには4人必要なの。大天音様が選抜した選ばれし4人。そのうちの1人があなたよ。」
さっきも聞いた大天音様という人。気になってサラに聞いてみるとお空の国のトップの神様だという。そしてサラはそれに使える天使らしい。天使が自分の目の前にいるのが不思議で嘘のようにも思えるがサラは見た目から天使で裸足だから信じたくなくても信じるしかない。
「あ,今大天音様の声が聞こえた!私の仲間が残りの3人のところに向かったって!」
「へ,へぇ…。僕には聞こえないけど?」
「まだ聞こえないだけ。そのうち聞こえるようになるよ!」
「は,はぁ…。」
普通の人間,有川悠真が天使であるサラに出会ったとてもとても不思議な出来事。だがその出会いがいじめられて心身ともに絶望だった悠真に希望の光を宿すことになる。
「あー!まだ聞いてなかった!」
(まだ何か用があるのか?)
「名前!私あなたの名前聞いてなかった!ねぇ,あなた名前なんて言うの?」
天使ってこんなに声大きいのかと思うぐらいサラの声は大きい。天使はもっと落ち着いてるイメージあるけどサラの場合は例外。
「あ,有川悠真…。」
「悠真?じゃあ悠真って呼んでもいい?」
「ご,ご自由に。」
「わーい!じゃあこれからもよろしくね!悠真。あ,私のことはサラでいいから。」
「は,はぁ…。分かったよ,サラ。」
多分そう呼んだ方がいいのだろう。この日から,悠真たちの不思議な不思議な大冒険が始まった。




