処置なし
久しぶりに空の旅を楽しむ。
頬に当たる風が涼しくこちらを撫でるようで、かなり心地いい。
「昇格試験の間は悪かったな」
「キュキュンッ!」
気にするな、とばかりにスカイが鳴き声を上げる。
三日ぶりに出会ったスカイは、相変わらず綺麗な空色の鱗をしていた。
止まっていた宿屋に少し多めに心付けを渡していたこともあり、特にストレスを溜めるようなこともなく日々を過ごすことができていたらしい。
ただ魔物用厩舎に入れられていて肩身が狭かったからか、それとも俺と久しぶりに空を飛べて嬉しいからか、なんだかいつもの倍くらいいきいきとしているように見える。
「あ、頭痛い……ちょっと飲み過ぎたな」
昨日は昇格を祝い、アネット達とちょっと飲み過ぎちゃったからな。
完全に二日酔いだ。
俺が光精魔法の使い手ならもう少しマシにはできたんだろうが、あいにく今回試験を受けた奴らは俺も含めて肉弾戦士ばかり。
気分を変えるために軽くミントもどきの葉を噛み締めながら、遠ざかるサロマの街を見つめる。
……まさかネームドのキャラに会えると思ってなかった。
だが今後俺がこの世界でやっていこうとするのなら、そういった才能に満ち溢れたやつらともやり合わなくちゃいけない。
これからは俺もBランク冒険者、以前と比べても大手を振って街を歩ける……なんて思ってたけれど、まだまだ先は長そうだ。
(……いや、別にやり合うと決まったわけじゃないか)
俺はそもそも何か大層な目的があるわけじゃない。
前世の記憶を取り戻すまでやってきた冒険者としていっぱしの男になりたいと思ってはいるが、別にこの世界で名を残す伝説の自律魔法の使い手になりたいわけでもない。
可能であればそういったぶっ壊れキャラ達と敵対するようなことなく、今後も頑張っていきたい所存である。
……あ、これはフラグだったりしないよな?
もしかしてルテキの街に戻ったら勇者ガイウスが尋ねてきていたり……なんて、はは、そんなわけが……。
「あ、アルドさん! お帰りなさい!」
「おお、ただいま」
――なんてことがあるわけもなく、ルテキの街は以前と変わらぬ平和を謳歌していた。
変わらない平穏が一番だよな、うん。
妙なフラグが立ってなくて助かった――っ!
懐かしの『止まり木亭』(といっても十日ぶり)の看板娘の……えっと、名前が思い出せない。
とにかく看板娘のナナシちゃん(仮称)に挨拶をして、引き続き宿を取るためにお金を払い、自室へと戻る。
外を見るとまだピーカン照りの真っ昼間だが……正直夜通し飲んでいて二日酔いもひどいので、今すぐにでも依頼を受けに行くほどの元気はない。
「……よし、今日は休み!」
俺は鱗滝さんでも驚くほどの判断の速さで今日一日をオフにすることにした。
部屋に入るとすぐにごろんとベッドに横になる。
すると驚くほどに一瞬で、睡魔がやってくるのだった……。
「ふわ……」
目が覚めると、既に部屋の中に陽光は入っていなかった。
窓を開いて外の景色を見れば、完全に夜になっている。
グッと背筋を伸ばす。
以前ならどれだけぶっ続けで眠るのも容易だったが、今は目を覚ますとなかなか寝付くまでに時間がかかってしまう。こういうところで寄る年波を感じるのって、妙に悲しいよね……。
このままぶっ続けで朝まで眠るのは少々厳しいところがあると思い、とりあえず起き上がる。
既にぐっすりと眠っているスカイの脇をそうっと通り抜けて、隣の部屋へ。
少し逡巡してからノックをする。ちなみに看板娘のナナシちゃんに聞いているので、隣の住民が今も変わっていないことは事前に確認済みだ。
「……え、もしかして……アルド?」
「ああ」
「……久しぶり、どうぞ、入って」
中に入ればそこには、以前と変わらぬ姿で俺のことを迎え入れてくれるエヴァの姿があった。
「合格おめでとう、アルド」
「あ……ああ」
そういってにこっと笑う彼女を見ると、自分がしてきたことがなんだかとても誇らしいことのように思えてくるので不思議だ。
やはり良い女は、人をその気にさせるのが上手い。
「よく結果がわかったな」
「その顔を見れば一発でわかるわ。何年の付き合いだと思ってるのよ」
「……それもそうか」
内心でエヴァをいい女だと思ったことが気恥ずかしくなり、なんとなく視線をふらふらとさまよわせる。
俺が見つめる先の光源の元には、キラリと光るグラスとそこに満たされた琥珀色の液体があった。
「ちょうど飲んでたのよ。アルドも一緒にどう? 合格祝いに何か一本開けるわ」
「……それならありがたくもらおうかな」
朝はあれほど二日酔いで気分が悪くなっていたというのに、まったく懲りないやつである(他人事)。
「アルドの試験合格に」
「えっとじゃあ……十日ぶりの再会に」
「「乾杯」」
結局俺はその日、エヴァと久しぶりに晩酌をした。
ランクが上がってBランク冒険者となり、少なくともベテランの域を抜けて『種族の壁』を乗り越えられたからか、以前よりも自分に自信が持てるようになった気がした。
今まで感じていた引け目のようなものが、以前よりずっとマシになったのが自分でもわかる。
おかげでエヴァとも、以前……数年前のまだ付き合っていた頃のように、自然体で話せた気がする。
そのおかげで飲み会は朝方まで続き、結果として俺はその日も猛烈な二日酔いに悩まされ、ギルドに報告へ行くのは昼を過ぎてからになってしまうのであった……。
俺という生き物は、まったく懲りないやつである。
――しかもエヴァと楽しく過ごせて嬉しかったと思っているのだから、本当に処置なしだ。
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