vsヴィルレントトレント 前編
ヴィルレントトレント。
真っ黒な樹に毒々しい葉と果実をつけたこの魔物は、Bランクに分類されている。
つまり本来であれば、Bランク冒険者パーティーで討伐するレベルの、Bランク昇格試験で戦うにはいささか強い魔物だ。
こいつの厄介な点はその防御力の高さと、戦い方にある。
「YAAAAAAAA!!」
トレントは俺達が接近すると同時に、全身から紫色の気体を噴出させた。
ただちに命に支障が出るほどではないが、吸っているだけでHPを削るタイプの毒ガスだ。
「げほっ、げほっ! 先が全然見えねぇぞ!」
ゲームではわからなかったが、吸っているだけで喉がイガイガとする。
見えない小さな棘が身体に入り込んでるような感覚だ。
ガスが言っている通り、濃い紫色をしているせいで先が見渡しづらく、視界は数歩先も見えないほどに悪い。
ガスをばら撒くと同時、俺の『光点探査』の反応が動いた。
ヴィルレントトレントは、ゲームで言うところの耐久型の魔物だ。
こいつは視認性を悪くする毒ガスを広範囲にばら撒き相手の命中を下げながら、ひたすら移動と防御を繰り返して相手のHPが切れるのを待つ、という非常にいやらしいことをしてくる。
そのため相性が悪ければAランク冒険者すらやられるほどには凶悪な性能を誇っているわけだが……ありがたいことにこの魔物と俺達の相性は、決して悪くない。
「ガス、十二時の方向、十五歩だ!」
「おうっ! 食らいやがれッ!」
俺には魔力で相手の位置取りを把握できる『光点探査』がある。
そしてガスが最も得意なのはステゴロの超近接戦。
近づくことさえできれば、有利不利は一気に覆える。
「おおおおおおおおっっ!!」
俺のアドバイスに従いヴィルレントトレントに接敵したガスが、その拳を思い切り打ち付ける。
火の巨人族は、最も攻撃力に優れた巨人族だ。
彼が一撃を放つ度にトレントがその身体をひしゃげさせながら、大きく吹っ飛んでいく。
ただガスの移動速度は吹っ飛ぶ速度より早いため、ヴィルレントトレントは地面から浮き上がった状態で二撃三撃と攻撃を食らい続けている。
ガスの声と殴打の音を頼りに、俺以外のメンバー達もヴィルレントトレントへと近づいていく。
「けほ……腐りかけの身体は、良く燃えそうでござる!」
斬ッ!
ミチルはガスの乱打を邪魔しない形で一閃を放つと、斬りつけられたヴィルレントトレントの全身が燃え上がった。
斬撃に火精魔法を乗せたことで、斬られた傷口が焼かれ、トレントが苦悶に満ちた声を上げる。
「ガスを飛ばすでござる!」
ミチルが剣を上に掲げると、周囲に満ちていた毒ガスが一瞬のうちに取り払われた。
視界がクリアになったタイミングで、ガスの攻撃が終わる。
ガスの隙を潰すために、アネットとボノボがヴィルレントトレント目掛けて攻撃を開始した。
アネットの水刃が枝打ちを行い、ボノボの包帯はヴィルレントトレントをその場に縫い付ける。
「『魔力の矢』!」
俺も援護を行いながら、魔力の矢を発動させていく。
今は『光点探査』も同時に使いながらなので積層魔法陣を使うだけの余裕はない。
ただ一応『五行相克毒』は打ち込むことができたので、あちら側にもスリップダメージを与えることができるようになった。
「MYAAAAAAA!!」
再び全身から毒ガスを噴出させるヴィルレントトレント。
ボノボの拘束から逃れ距離を取ろうとするが、そんなことをさせるつもりはない。
「行かせないでござるよ!」
ミチルが風精魔法を使い毒を再び飛ばし、復帰したガスによる乱打が始まる。
二回目ということもあり今度はヴィルレントトレントもただ攻撃を食らうだけではなく、それに対応し始めた。
だが全身から真っ赤なオーラを立ち上らせるガスは反撃を気にせずひたすらに殴り続けている。
それほど攻撃力は高くはないとはいえ、ヴィルレントトレントはBランク。
その一撃は当たれば骨折するくらいの威力はあるが、ガスは攻撃を食らってもまったく動じていない。
火の巨人族は攻撃をしている瞬間に、自らのダメージを知覚しないという特性を持っている。ゲーム的に言うなら、スーパーアーマーのような効果をデフォルトで持っているのだ。
ただ当然、無敵状態なわけではない。
「があああああ、痛えええええっっ!!」
「下がるでござるよ、ガスッ!」
スイッチする形でミチルとアネットが前衛になり、ガスがこちらへ下がってくる。
「ガス、口開けろっ!」
「おうっ!」
ガスのデカい口の中に放り込んだのは、俺が事前に作っておいた劣化エリクサーだ。
こいつを使えば骨折はおろか部位欠損だろうとある程度のところまでは治せるという優れものだ。
ただ骨折が治っても、その戦闘能力は少し落ちる。
回復に体力を使うし、治った骨が以前とまったく同じ強度を持つようになるにはある程度時間がかかるからだ。
「……」
アネットとスイッチする形でボノボが前に出る。
今度の彼女は本気を出しているようで、全身をぐるぐる巻きにしている包帯の全てを使って攻撃に転じていた。
千手観音のように背後から無数の包帯を生やしたボノボは俺よりも一回りほど小さい、ピンク髪をした可憐な少女だった。
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