答え
「まず考えなくちゃいけないのは、これがあくまでも試験ってところさ。つまりこの昇格試験には必ずクリアする方法があるはずなんだ」
「ふむ……可能性として一番高いのは、やはり戦いながら崖を登り続けるってパターンでござるよなぁ」
「……無理」
「ボノボも言ってる通り、そりゃ無理だ。魔物が切れるより俺達の体力が尽きる方が早ぇ」
アネットが言う通り、間違いなく攻略法はあるはずだ。
ただミチル達が言っている通り、力任せのごり押しで行くのは難しい。
戦っている最中も魔物達がやってくる勢いはまったく衰えてなかったし……ていうかなんなら更に激しくなってたし、あっちの弾切れを狙うのもあまり現実的ではない気がする。
あるいは三日間ぶっ続けて上っては戦ってを繰り返してれば、いずれは魔物達が減って上れるようになる……のか?
「アルドの探知魔法で敵と遭遇せずに登り切るというのはどうでござるか?」
「難しいだろうな……敵の数が死ぬほど多いから、全部を無視して攻略っていうのは」
「だとすると考えられるのは抜け道かアイテムあたりかねぇ」
その言葉を聞いて、俺はバチンと自分の頭を叩く。
――しまった、魔物除けのアイテムって線があったか。
一応マジキンにも魔物除けの概念自体は存在していた。
聖水や魔物除けスプレーといった、魔物とエンカウントしないためのアイテムもいくつか存在している。
けど俺は『マジカル・キーンシップ』のゲーム内で、ほとんどそれらのアイテムを使ってこなかった。
効果があってないようなものっていうのもあるし、マジキンでは雑魚とのエンカウント率がそこまで高くない。
そして主人公のガイウスは、戦えば戦うほど戦闘能力が伸びるチート持ちだ。
自律魔法を使いまくれば雑魚敵は完全に封殺できるということもあり、来る者拒まず皆抹殺というスタイルでプレイすることがほとんどだ。
基本的に魔物除けのアイテムというのは、一部の縛りプレイを楽しむMっ気のある変態紳士を除けば、あまり使うことのないマイナーアイテムなのである。
ただここはマジキンによく似た世界であっても、あくまで現実。
魔物除けの効果も、ゲームとは変わったものになるに違いない。
「どうかしたのか?」
「いや、魔物除けのアイテムを使えば良かったってことにも気付かなかった、自分の考えの至らなさにゾッとしてるだけだ」
そう言うと、何を今更というような顔をされてしまった。
たしかにこれは完全に失念してた俺が悪いので、何も言うことができない。
「ただ、聖水でごまかせる数なんてたかがしれてるでござるよ。アイテムを使って魔物除けをするというのも少々現実的ではない気がするのでござるが……」
「ああ、ただそれはあくまで教会で買えるようなの聖水を使った時の話だろ? もっと上等なアイテムを使えばその効果はその分だけ高くなる」
「高級な魔物除けのアイテム、なんてあるのか?」
「ああ、いくつかあるが……」
俺がアイテムに詳しく、なんなら自作もできるということを教えると、全員が目を剥くほどに驚いていた。
ツボルト子爵に知られている今なら、さほど隠しておく意味もないと思って打ち明けたが……そんなに驚くことか?
「あんた……本当になんでもできるんだねぇ」
「多彩でござるなぁ……」
「逆だよ逆、これくらいなんでもできないと、俺ぐらいの実力じゃ上に上がれないのさ」
気を取り直して、魔物除けのアイテムを頭に思い浮かべていく。
必死になって頭を回しながら効果の高い順に思い出していくと……三番目に効果の高いアイテムが出てきたところで、ピースがパチリとハマる感触があった。
「なるほどな……ようやく今回の昇格試験の内容が、完全につかめたぞ。つまりこいつは……魔物除けに関する知識と戦闘能力、そしてチームワークを試す試験だったんだ」
上から三番目に効果の高い魔物除けのアイテム。
それは大量の毒煙を出すポイズントレントの上位種であるヴィルレントトレントの素材を使った香木だ。
低級の魔物は吸い込めばダメージを受けるというフレーバーテキストのあった気がするこの香木は、原作よりはるかに高い効果を発揮してくれるはず。
こいつを実際に焚き上げながら進めば……多分いけるはずだ。
さっきも言ったが、クリアのできない課題が出るはずがないからだ。
だがこの広い峡谷の中を巡りヴィルレントトレントに出会うためには、ここから一苦労も二苦労もあるに違いない。
そんな予測を交えながらの言葉に、アネットがこくりと頷く。
「なるほどね……どのみち他に手はないんだ。皆で力を合わせて、そのトレントを見つけよう。いいね?」
「「「おうっ(でござる)!!」」」
俺の予測に従い、皆で力を合わせて峡谷の中を探索する。
時に休憩を取り、時に現れた魔物達と戦闘をしながら探すこと丸一日。
残り時間が刻一刻と減っていき、落ちたところからどんどんと距離を取って歩き続ける中……俺達はとうとう、望んでいたものに辿り着いた。
目の前に現れたのは吸うだけで臓器を痛めるような、毒の煙を発している毒の沼。
全員耐毒性能は高いため、少し工夫をすれば沼を越えて先に進むことも問題なくできた。
そしてその先では……
「MIYAAAAAAAA!!」
腐りかけの果実と紫色の葉をつけた、真っ黒なトレント。
Bランクの魔物であるヴィルレントトレントが、俺達を待ち構えていたのだった――。




