初戦闘
「即席なので、あんまり派手にやりすぎないようにしてほしいでござる!」
ミチルが得意とするのは土魔法。
彼は崖を器用に変形させ、しっかりと強度のある足場を作ってみせた。
やってくる魔物はくちばしから炎の漏れ出している大鷹――フレアファルコンだ。
ランクとしてはCになるが、戦闘能力はそこまで高いわけではない。
空から火魔法を使い炎を落としてくるため戦いにくいが故に、このランクになっているというタイプの魔物だ。
ミチルは重心を落としながら、腰だめに剣を構えた。
提げている剣は未だ鞘の中。
目をつぶり精神を集中させながら、じっくりと機を窺っている。
優れた武人は優れた洞察力を持つという。
恐らく今の彼は、心眼を開いて全てを観察しているのだろう。
「すううっっ……」
ゆっくりと息を吸うと、魔力が爆発的に膨れ上がった。
同じ使い手として、俺はその人の身体強化を見れば大体どの程度の使い手なのかはわかる。
一目見ただけでわかった。
ミチルの身体強化は、俺などとは比べものにならないほどによどみと無駄がない。
彼は間違いなく――人外の領域に片足を突っ込んでいる人間だ。
「――かああああっ!!」
カッと目を見開いたミチルの刀が鞘走る。
一閃。音すら置き去りにするほどの神速の斬撃が、こちらに目がけて吐き出されている炎ごと、フレアファルコンを真っ二つに切り裂く。
飛ぶ斬撃というやつなのだろう。
明らかに刀身よりも先にいるフレアファルコンは両断され、断末魔をあげることもないまま崖下へと落下していく。
だが戦いは終わらない。
戦闘音を聞きつけてやってくる鳥達の姿が来たかと思えば、血の匂いに釣られて崖を駆け上がってくる魔物の姿も見え始めている。
どうやらここまで来ると、隠密がどうこうと言ってられる段階ではないようだ。
「ほう……結構きちんとしてるじゃねぇか」
ミチルが作った足場の強度を確かめるために、ガスが軽く足で地面を叩いた。
帰ってくる音はかなり硬質で、まるで金属かなにかのようだ。
「ガスは固い獣型を! アルドは私とボノボの援護!」
一撃が重たいが射程が短いガスは、崖を這い上がってやってくる獣型魔物達の処理を、そして魔法を使えるアネットとボノボが中距離攻撃を繰り返しながら、魔物達を処理し始める。
「はあああっっ!!」
アネットの周囲に、水の花が咲く。
彼女は己の持つシミターに水精魔法を纏わせる形で、周囲の魔物達を根こそぎ切り刻んでいた。
高圧の水刃の切断力は想像を絶する。
上ってきていた狼を下にあった岩ごと両断するのを見ると、流石に笑うしかない。
「……」
ボノボの纏っている包帯が、ひとりでにぱらぱらと剥がれていく。
包帯はどうやらかなりの本数があるらしく、その一本一本がまるで生き物のように動き始める。
高速で震動する包帯は鋭利な刃物となって、魔物達の表面を切り刻んでいく。
恐らく以前戦った『綺羅星』のアレクセイと同様、土精魔法を使って包帯を動かしているんだろう。
ただよく見ると土精だけじゃなくて風精魔法や水精魔法も使っている。
どうやらかなり器用に魔法を使い分けることができるらしい。
「ガス、上!」
彼らの戦闘能力は圧倒的だった。
一対一で戦って勝てないとは言わないが、搦め手を使わなければかなり厳しい戦いになるだろうと思うくらいには力を持っている。
なので俺はあくまでも裏方に徹しながら、援護をして戦局を俯瞰しつつ、適宜応援をしていく形にしておいた。
高度が高度なため、魔物達を絶命させる必要はない。
鳥型魔物は翼を折れば勝手に落ちて死んでいくし、獣型の魔物も前足に怪我をさせればバランスが取れなくなって地面に倒れていくからだ。
俺達はどんどんと魔物を倒し、周囲にはみるみる魔物達の死骸の山ができ……そしてそれを狙った魔物達が、更にこちら目がけて襲撃を加えてくる。
今戦っている魔物達で、既に第四波目だ。
こうも途切れることなく魔物に襲われ続けていては、これだと峡谷を上っていくどころの話ではない。
「ずらかるよ! 全員、崖下で再集合!」
どうやらそう思っていたのは俺だけではないらしく、アネットはそれだけ言うと足場から飛び降り、小さなとっかかりを使いながら器用に下へ下りて。
「了解でござる!」
ミチルはズダダダダッと壁を駆け下りていき、ガスは力任せにそのまま崖下へと飛び降りていく。
ボノボは包帯を使いながらするすると器用に下っていき、後には俺と魔物達が残った。
「――『対価の鎧』!」
皆に遅れないように俺も思いきって飛び込み、同時に自律魔法の『対価の鎧』を発動。
落下ダメージを無視して地面へと着地する。
するとそこにはわずかに疲労をにじませるアネット達の姿があった。
これ以上戦えないというほどではないが、考え方を変える必要があるのは間違いないだろう。
「あの調子じゃ、何もせず無策で上るのは無理だね……もうちょっと頭を使う必要がありそうだよ」
アネットの言葉には、登るのなんて楽勝だとうそぶいていたガスも頷くしかなかったようだ。
けどこの戦闘は、まるきり無駄というわけでもなかった。
おかげで激戦を勝ち抜いた俺達の間にたしかな絆が生まれていたのも、また事実だったからだ。
それにこれはあくまでも昇格試験なんだ。絶対にクリアできる方法はあるはず。
全員で力を合わせれば、乗り越えられるはずだ。
こうして俺達は一旦落ち着いて、膝をつき合わせながら議論を重ねることにするのだった――。




