戦闘開始!
腹ごしらえをしながら、皆でブリーフィングをしていく。
まずは何があってもいいということで、身体能力に秀でていて自然治癒力の高いガスを先頭にする形で落ち着いた。
(……ん?)
飯の最中、ふと思い立ち『光点探査』を使ったところ、周囲の魔物の気配に紛れて、一つ明らかに強力な反応がある。
あれは間違いなく、試験官のパルティスだろう。
こちらに気付かれないようある程度距離を取って、動きを見ているようだ。
他のメンバーに気付いている様子はない。
自律魔法が使える俺だから気付ける距離ということなんだろう。
(リーダーのアネットには言っておくべきか……?)
いざという時のことを考えると、情報共有はしておいた方がいい。
さっきはとっさに『悪魔の箱』を隠してしまったが、この昇格試験は三日間の長丁場だ。攻略しようとするのなら、俺の力を隠しきるのは難しい。
それならいっそのこと、色々と話をしてこの力を役立ててもらった方がいい。
俺の力は、崖登りの時にも使えるしな。
「皆の得意な戦法や使える魔法について、共有をしておきたいんだが、どうだ?」
「へっ、自分の手の内を晒す阿呆がいるわけねぇだろ」
「じゃあまずは言い出しっぺの俺から。とりあえず俺は魔力の探知と荷物を収納することができる自律魔法が使える。あと戦闘用に魔力の矢を飛ばせるのと、身体強化を使った近接戦闘を一通りって感じだな」
「――なっ!?」
「なるほど、さっきのはそういうわけかい……」
ガスやミチルは呆気にとられたようにこちらを見つめていたが、アネットだけは納得したように頷いていた。
ボノボの方はまったく変わらない表情で、もぞもぞと焼き締めたパンをかじっている。
自律魔法使いに、自らの手の内を自ら明かすやつはいない。
更に言うと、この世界で使われている自律魔法はほぼ全てが戦闘用のものだ。
俺のように補助用の自律魔法を多数覚えているやつなんてほとんどいない。
驚かれるのも当然だ。
「俺の戦闘能力はそれほど高くない。今回のメンバーなら索敵を担当するのが無難だろう。魔物を蹴散らすのを他のメンバーに頼みたいんだが、どうだ?」
俺の言葉に否を言うほど理解のないメンバーは、この中には一人もいなった。
「なんでだよ、お前も戦えよ! サボってズルいぞ!」
……いや、物わかりの悪いやつが一人いたわ。
ガスをなんとか説得してから、全員が自分にできることを話し始める。
中には奥の手を隠してるやつもいるだろうが、それは俺も同じなので気にしない。
情報を元に改めて作戦を練り直し、崖登りを始めることになった。
先頭はガスで、俺は彼に索敵した上での進路を教える役目。
そしてその後ろにどちらにも応援が可能な魔法剣士のミチルが続き、その後ろにアネットが。
中距離からの遊撃が可能なボノボは最後尾で睨みを利かせてもらうことにした。
命綱なしでの崖登りは正直怖いが、最悪着地の瞬間に『対価の鎧』を使えばダメージは完全に殺せる。
なので比較的ビビらずに、身軽に動き回ることができた。
「ガス、ここは右だ」
「お、おう」
このバリー峡谷の崖は非常に長い。
上ってからそこそこ時間が経っているが、まったく終わりが見えてくる気配はなかった。
ただ今のところ、崖登りは魔物の襲撃を受けることもなく進んでいる。
全員が身体能力を使えるため、へばっているようなやつもいない。
(しかし、こんなに上手く魔物との衝突を避けられるとはな……)
俺は峡谷の中を鳥が飛び回り、崖を登る生き物は根こそぎ襲われる……みたいなのを想像してたんだが、幸いなことにそんなこともなく行程は順調そのものだ。
どうやら峡谷の鳥型魔物達は、基本的には崖下の陸地で食料調達を行っているらしい。
そのため峡谷にあるのは魔物の住処だけ。
峡谷を覆う霧が深いおかげで、魔物達がこちらを視界に捉えることもない。
『光点探査』で敵の居場所が丸わかりなおかげで、するすると敵の間を抜けることができている。
これなら崖上まで余裕で……と考えたのがいけなかったのか。
「ピイイイイイイイイッッ!!」
後ろを振り向けば、大きな鷹の魔物がこちらへとやってくるのが見える。
どうやら巣に帰還しているところを、運悪く発見されてしまったらしい。
「ちっ、そう上手くはいかないか!」
「そんなこと言ってる場合かよ、ミチル!」
「もうやってるでござるよ!」
ミチルが魔法を使い、即席の足場を作る。
俺達は一つの足場に固まり、体勢を整えた。
こうして俺達の、バリー峡谷での初戦闘が始まった――。




