ただのおっさん
一体どれほど転がっただろうか。
体感一時間にも思える転落に必死になって耐えていると、ようやっと馬車の動きが止まる。 皆、身体のあちこちに擦り傷ができている。
けろっとしているのはガスと俺くらいで、他の三人はちょっと憔悴気味だ。
ちなみに俺が平気なのは、ふと思いついて『対価の鎧』を発動させたからだった。
どうやらこの自律魔法は、スリップダメージにも効き目があるらしいようだ。
何事も試してみるもんだ。
「いっつつ……まったく、ひどい目に遭ったよ」
外の様子を確認するために馬車を出る。
するとそこには……視界一面に霧が広がっていた。
しっかりと視界で捉えられる範囲は驚くほどに狭い。
これだと集団行動を取るのにも間違いなく支障が出るだろう。
「リーダー、これを見てほしいでござる」
ミチルが指を指したのは、転がってボロボロになっている馬車だ。
ひっくり返って上になっている底面を見ると、そこに何やら文字が書かれている。
「試験内容は……」
「三日以内にこのバリー峡谷を抜けて冒険者ギルドへ戻ること……」
一応事故の線も疑ってたんだが、流石にBランク冒険者がそんなヘマをするはずはないか。 なるほど、今回の試験内容は魔物の出没する峡谷でのサバイバル、か……。
「なあんだ、三日もありゃあ十分じゃねぇか! ……っておい、なんでそんなに嫌そうな顔してるんだよ」
「のんきさも、ここまで来れば一種の才能でござるな……リーダー、峡谷の情報を知っている限りでいいので教えてほしいでござる」
「ええ、このバリー峡谷は一度落ちたら戻って来れないと言われてる、断崖絶壁の谷さ。その特徴はやはり、ロッククライミングで上っていくのがほぼほぼ不可能とされている」
この峡谷には強力な鳥類の魔物が大量に棲息しているらしく、崖を登っていると彼らに襲われてしまう。
登りながらでも魔物を撃退できる強力な精霊魔導師でもいない限りは採れない選択肢らしい。
「……無理」
「ボノボ殿の言う通り、前衛だらけのこのパーティーではいささか厳しいでござるな。となるとこの谷を抜ける必要があるわけでござるが……」
「そうやって谷を抜けていくと、三日でサロマの街まで戻るのが難しくなるわけか……」
なかなかにいやらしい試験だ。
目の前には崖は見えているので、普通の思考だと考えると崖を登っていきたくなる。
だがそれこそが罠、という線もある。
そして崖以外のルートがあるのかどうかは、ここからではわからない……。
この試験を出したギルド側の意図はなんだ?
事前説明もなくほっぽり出されたことから考えると、突発的なイレギュラーへの対応力を確かめるつもりだろうか。
襲いかかる魔物達をはね除けて崖を登れるだけの力を持っていることを確かめたいんだろうか?
それとも……
「とりあえずまずは物資の確認からだ。とりあえず全員、今持ってる食料と水を出してくれ」
(まあ、そうなるよなぁ)
サバイバルとなれば食料と水の管理は必須だ。
もちろん数食分の非常食と水筒はリュックに入っているが、俺の場合は非常時の時のために食料と水や貴重品などをしまっている『悪魔の箱』がある。
本当なら手札は隠しておきたいが……なにせアネットと俺の命がかかってる。
ここで喧嘩をしている場合じゃないし、正直に言った方がいいだろう。
「――アネット、一ついいか?」
そう言って俺は一度こそこそと裏に回ってから、全員分の食料と水を持ってきた。
おおよその理由を察してくれたらしいアネットが笑いながら、礼を言ってくれる。
「しっかし、ただのおっさんじゃなかったわけだ――。それなら食事をして、その後で一度崖登りを試してみよう。実際無理なのかどうか、やってみないとわからないしね」
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