試験開始!
馬車に揺られながら皆で自己紹介をしていく。
御者をしているのは、試験官のパルティスさんだ。
車の中には窓が取り付けられておらず、外の景色を確認することはできない。
試験開始ギリギリまでこちらに情報を与えないつもりなのだろう。
ちなみに今回は俺一人での参加なので、スカイはお留守番だ。
この世界ではテイマー自体があまり一般的なものではない。
なのでBランクに上がるためには、俺本人の実力があることをしっかりと示さなければならないのだ。
「よし、それじゃあまずは自己紹介からしていくか」
閉鎖空間の中で黙っていれば、どうしてもストレスが溜まる。
それに流石に一切のコミュニケーションなしで試験に挑むのは厳しいと判断し、積極的に会話をしていくことにした。
それには幸いなことに三人とも賛成してくれたのでありがたい。
「俺は『紅蓮腕』のガスだ」
「魔法剣士のミチルでござる」
「……ボノボ」
――ボノボの声が思ったよりも高くて、ちょっとびっくりしてしまった。
身体も小柄なので、もしかすると女性なのかもしれない。
って、今はどうでもいいことか。
試験に頭を戻そう。
試験を受ける具体的な時間は明示されていない。
だが恐らくはそれも試験の一環だろう。
具体的な地理の情報を知っていて、試験の場所を推測できない奴らには、休憩時間も要らないということだろうな。
「俺はアルド。前衛も後衛もできるオールラウンダーだ。そんでこっちが……」
「アネットだ。私も前衛」
どうやらボノボも前衛らしいので、このパーティーは前衛四人と中衛の俺というとんでもない偏り方をした面子である。
ヒーラーがいないのが厄介だが、そこは俺がなんとかするしかないだろう。
聞けば三人とも、ホームの街はここから遠く離れているという。
であればこのあたりの地理に一番詳しい人間はアネットになる。
「……と、いうわけで、俺としてはアネットをリーダーにして話を進めたいんだがどうだろうか?」
「リーダーは俺がやる! ……と、言いてぇところだが今回は譲ろう」
勢いよく手を上げたガスを四人で睨むと、彼はすごすごと引き下がった。
流石に四対一では分が悪いと判断したのだろう。
まったく、子守をしてるわけじゃないんだぞ……。
毎度こんな風にされると思うと、今から頭が痛くなってくる。
「馬車に乗っている時間から考えるに、恐らく出たのは東門からだろう。となると向かう先の候補は三つにまで絞れる」
「ほう……流石リーダーでござる」
どうやらミチルの方は異論はないらしい。
ボノボは黙ったままぎょろっと目を動かしている。多分だが彼女も反対してはいないはずだ。
「まず一つ目はジュラ湖。大星海から大昔に分離した湖で、中にはデモンサーモンやアルティメットツナみたいな強力な水棲魔物が出現する。けど水棲魔物との戦闘には事前準備が必要だから可能性は一番低い」
「たしかに、水棲の魔物は嫌でござるなぁ。息を止めたまま潜って接敵しても、なかなか斬撃が通らなくて腹が立ったでござる」
息を止めて潜水して、そのまま戦闘したことがあるのか?
ミチルは比較的常識人かと思ってたが……彼も流石にBランクの昇格試験を受けようとしているだけのことはあって、ちょっと変だな。
「二つ目はトラバーツ大森林。私的にはこっちが本命だね。奥に進めば進むほど魔物が強くなる森で、最深部まで行くとAランクの魔物も出るようになると聞く。深度で魔物の強さがある程度選べるから、ここなら一番無難に試験がこなせるはずだよ」
「……三つ目は?」
ボノボの質問に、アネットが答える。
「まあ可能性としては一番薄いとは思うんだけど、三つ目は……」
ガシャンッ!!
アネットが言い切るより先に、馬車が横転した。
いや、横転じゃない、これは……
「転げ落ちてるのか!?」
凹凸のある地面を転がり始めた馬車が、そのスピードをどんどん上げていく。
俺達五人はゴロゴロと転がる馬車で、もみくちゃになっていた。
チッと舌打ちをしたアネットが、目を回しているガスを押しのけながら叫ぶ。
「最悪だよ、三つ目は――バリー峡谷。一度落ちたら二度と戻って来れない……別名死の谷さ!」
こうして俺達のBランク昇格試験が、始まったのだ――。
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