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不倒


 『不倒』のフェイト。

 二つ名持ちのBランク冒険者でありながら、かつて俺が教導依頼をした後輩冒険者でもある。

 俺のことを軽々と超えていった同業者のうちの一人だ。

 ちなみにパーティーを組んだりせずに、ソロで活動しているかなりの変わり者である。


 こいつもなぜかリエルと一緒で、未だに俺のことを先生扱いしてくる。

 自分より高ランクの冒険者に敬われるのは微妙にコンプレックスを刺激するから、記憶を取り戻す前の俺は彼女に複雑な思いを抱えていた。


 ……え、今?

 今はなんとも思わないさ。

 だって……追い抜いてやればいいだけだろう?


「いい顔をするようになったね、先生?」


「……ああ、色々あったんだよ。にしてもお前は……相変わらずすごい格好してるな」


 青髪碧眼というルテキの街では珍しくない特徴をしている彼女が、その姿は以前にも増して人目を引くものに変わっていた。


 可憐なバラというよりはどっしりと地面に根付いたタンポポのような、力強さを感じさせる大きな体躯。


 あれから更に成長したからか、この世界基準で言うと別に小さくない俺が見上げるほどの高身長に成長している。


 そして何より目が行くのは、ホットパンツの下で輝いている真っ白な太ももだ。

 視線を上げればそこには、地肌が透けるほどに薄い絹のシャツが見える。


 俺が教導をしていた頃は貫頭衣のようなボロ布だったが……よりエロくなってる。


 ちなみにこいつの場合、私服じゃなくてこれが冒険の時の正装だ。

 フェイトはその種族特性上、防具を使う意味があまりないのである。


「ここじゃ人目を引くね。一旦出よっか!」


「人目を引いてるのはお前がそんな格好してるからだと思うんだが……」


「だってこれが一番動きやすいんだもん! ほら、行こっ!」


 フェイトに連れられて、俺はそのままギルドを後にする。

 まだ宿は取っていないので、とりあえず借してもらっている小屋へ向かうことにした。





「わー、何この子、かわいいねぇ……」


「きゅっ!?」


 従魔の腕輪を着けているスカイは、道中フェイトにもみくちゃにされていた。

 どうやらフェイトに気に入られたらしい。少し悲しげな顔をしてこちらを見上げてくるスカイに、俺は小さく首を振る。


 諦めてくれという残酷なジェスチャーに、スカイはそんな馬鹿なっという感じで白目を剥く。

 現実を知ったスカイがこの世の無情を嘆いているうちに、俺達は小屋の前までやってきていた。


「……っ……ぃ……」


 すると何やら小屋の中から物音がする。


 多分リエルが来ているんだろう。

 相変わらず騒がしいやつだ……と思いドアを開ける。


「すう~~~~、はぁ~~~~」


 するとそこには、俺のベッドの上に横になりながら布団に顔を埋めながら深呼吸をしているリエルの姿があった。


 言葉を失った俺が手を放すと、バタリとドアが閉じる。

 物音にビクッと身体を跳ねさせたリエルが、ゆっくりとこちらを向いた。


「し、ししししし師匠っ!? ち、違うんす、これは――女! 師匠が女連れて来たっす!」


「先生、相変わらず後輩の面倒見てるの? 面倒見がいいんだねぇ……でも、相手はきちんと選ばなくちゃダメだよ」


 リエルは先ほどの醜態を誤魔化すかのように立ち上がると、フェイトの方へ歩いていく。

 するとなぜか、フェイトの方も一歩前に出た。

 互いに向かい合い、にらみ合う二人。


 ようやく拘束から逃れられたとホッと頭の上に乗ってくるスカイを撫でていると、なぜか二人のムードはより険悪になっていた。


「ねぇ君、いい年こいて先輩冒険者にすがっててて恥ずかしくないの? 僕だったら表を歩けないけど」


「い、いきなりなんっすか! 師匠とリエルはただの子弟関係じゃないっす! うちらはパパとママなんすから!」


「ママ!? 先生、僕という女性がありながらまさかこの子と子供を……いやでも、ロリコン疑惑のある先生ならあり得る……」


「どうどう、二人とも落ち着け」


 訳のわからない方向へ突っ走ろうとしている二人をたしなめる。

 それに誰がロリコンだ、誰が。


 若い後輩冒険者達に仕事を仕込んでやってるせいで、俺にそういう疑惑が上がっているのは知っているが。


「喧嘩は勘弁してくれ」


「「――ふんっ!!」」


 どうやら二人は馬が合わないようで、ぷいと逆方向に顔を背けてしまった。

 まぁ静かになったなら、今はそれでいいか。


「そうだフェイト、さっきの話の続きなんだが……ゴブリンの上位種が出たのか?」


「うん、そうだよ。恐らくゴブリンキングがいるってことになってね。今ルテキの街にBランク冒険者がいなかったから、隣街から出張ってきたんだ。今度強制依頼が発生することになると思うよ。やったね、先生と一緒に依頼が受けられるよ!」


 強制依頼というのは、ギルドに所属している冒険者全体に出される拒否不可能な依頼のことだ。

 街の近くにヤバい魔物が出た時や戦争の時なんかに出されることが多い。


 どうやらギルドの上層部は、ゴブリンの上位種の危険度をかなり高く見積もっているらしい。

 わざわざ隣街のギルドに貸しを作ってまで、高ランクの派遣してもらってるくらいだしな。


 強制依頼は命がけだが、その分報酬も高い。

 それに結果を出せば、ギルドからの評価がかなり上がるためランクアップにグッと近付くことができる。


 とりあえず後輩のフェイトにかっこ悪い姿は見せないように……俺も本腰を入れて、戦いの準備を整えることにするか。

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