予想外
「そこのあんた」
「あ……ああ」
「災難だったね。ほら、中身を確認しておくれ」
そう言うと、少年が俺から盗んだ財布をポンッと投げ渡される。
開いて確認してみるが、流石にいくら入っていたかまでは覚えていない。
ただ大きく変動はなかったので、恐らく中身は抜かれてないだろう。
「助かったよ」
「要らぬお節介だったみたいだけどねぇ……」
そう言うと、彼女――アネットは頭上からパタパタと翼を羽ばたかせてこちらに下りてくるスカイを見て笑う。
長い真っ赤な髪の毛に、切れ長の意志の強そうな瞳。
こちらをジッと見つめるその姿は、見ているだけで体力を使ってしまいそうなほどに生気に満ちている。
アネットはマジキンに登場するキャラクターのうちの一人だ。
といっても、主人公であるガイウス周りのメインキャラクターではない。
アネットはいわゆるサブキャラクターというやつだった。
かなり自由度の高いマジキンにおいて、主人公と行動を共にするパーティーメンバーはあるタイミングを境にグッと選択肢が増える。
彼女はその中で選ぶことのできるパーティー候補のメンバーの一人だった。
一応友好度を上げていけば専用のイベントなどが発生することもあったが、そのボリュームはサブキャラクターの中でもさほど厚くはない。
だがもちろんマジキンをやりこんだ俺は、その内容をしっかりと頭の中に焼き付けることができている。
「良い子だ」
「きゅうっ!」
彼女はかわいいものが好きで、装備のアクセサリーをぬいぐるみにすると特定の台詞が出てする。
そんな彼女のお眼鏡にスカイはきっちりと適ったらしく、キラキラと目を輝かせながらスカイのことを撫でていた。
「その子は、官憲に突き出さなくていい」
「……いいのかい?」
「ああ、別に取って食いやしないさ。君がキツく叱ってくれるならそれでいいよ」
アネットはこのサロマの街のまとめ役のようなことをしている。
ここらをホームにする冒険者の中で一番腕っ節が強いので、気付けばリーダーに担ぎ上げられてしまっていたのだ。
別に本人がやりたくてやっていることではないため、主人公に引き抜かれると喜んでリーダー役を止めるようになる。
ただアネットはかなりの姉御肌で、困っている人間の面倒を見ずにはいられない。
恐らく今回彼女がスリを捕まえたのも、その面倒見の良さが発揮された形だろう。
スリをしたガキがどれだけボコボコにされようが街の人間は気にもかけやしないし、官憲に突き出せば右腕をぶった切られるだろう。
「きっちりと教育はしておいてくれよ。少なくとももう二度とこんな馬鹿な真似はしないようにな」
「ああ、任せておいてくれよ」
何か言いたげだった少年の首を絞めてそのまま落とすと、アネットは笑う。
彼女は見習い冒険者達の指導施設を運営している。
恐らくはそこに叩き込んで、冒険者として飯が食っていけるようにするつもりなのだろう。
(しっかし……まさか本当に会うとはな……)
正直なところ、まったく想定していなかった。
サロマの街ということでもしやと一瞬も脳裏に浮かばなかったかと言われれば嘘になるが……原作キャラを一度も目の当たりにしたことがなかったので、どうせないだろうとたかをくくっていたのだ。
このサロマの街で海女もやっているとは思えないほど白い肌が、陽光を反射してキラリと眩しく光る。
彼女は人魚の血をわずかにだが引いている。
そのため身体強化の出力も高く、水精魔法に高い適性を持ち、また海の中で戦闘能力が増す特殊な性質を持っている。
「なんだい、あたしに見とれちまったかね?」
「……ああ、そんな感じだ」
「ぼーっとしたおじさんに見とれられても、嬉しかないねぇ……」
人魚の子孫の血を引いているだけのことはあり、彼女の見た目は非常に整っている。
マジキンでは立ち絵の一枚しか用意されていなかったが、こうして直に見つめるとその美しさが心を震わせる。
ファンとして胸が高鳴ると同時に、俺はこの世界がマジキンなのだという当たり前のことに思わず興奮してしまっていた。
いや、たしかに魔法陣然り飛竜のテイム然りゲーム知識を使ってはいたんだけど、こうして目の当たりにするとなかなかどうして……。
「それじゃあまたね。次はきちんと財布に紐を通しておくんだよ」
「お、おお、わかったよ」
残念なことに何か特別なフラグが立つようなこともなく、そのままアネットと別れる。
よくよく考えると、俺の見た目はごくごく普通のアラサーのおっさん。
原作キャラが俺を見て、ポッと頬を赤くする道理はない。
現実世界はあまりにも非情だった。
(まあ、こんなもんだよな……)
テンションを爆上げしてから現実に引き戻され、感情の起伏がジェットコースターのようになっていた俺はしっかりと休むことにした。
そして次の日からサロマの街をしっかりと楽しみ、漁や釣りもやらせてもらってサロマを満喫していると、あっという間に昇格試験の日がやってくる。
すると意外なことに……
「あら、あん時のおっさんじゃないか」
昇格試験の場には、ニカッと陽気に笑うアネットの姿があったのだった――。
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