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会議


「ふむ……それでは会議を始めよう」


 なんで俺がここにいるんだろう……内心でそんな風にびくつきながらも、俺は城壁の内部にある司令室へとやって来ていた。


 作戦会議のメンバーはBランク以上の冒険者達とツボルト子爵を始めとする貴族家の人間、そして騎士達だ。


 作戦会議の場にはリーゼロッテの姿もあった。子爵の後ろでひっそりと息を潜めている。

 視線が合うとこちらに軽く手を振られたが、流石にお父さんが見ている場で彼女と馴れ馴れしくできるだけの根性はない。

 軽く目礼だけすると、なぜか彼女はいたく不満げだった。


「リッテンハイム卿、被害報告を」


「はっ、騎士達の方には負傷者は出ておりません。ですが従士の中には何人か戦線を離脱せざるを得ない者が五名ほど。前に出てもらった分冒険者達はより損耗率が高いですが、今のところ死者は出ておりません」


「そうか……それは助かる。アルド、お前が渡してくれたあれのおかげだ。感謝する」


 そう言うとツボルト子爵はぺこりと頭を下げた。

 周囲からのどよめきと、動揺する気配。

 だがこの場で一番慌てているのは、間違いなく俺だ。


「ツボルト子爵、頭を上げてください! たかが一冒険者に頭を下げたとあっては、王国貴族として舐められてしまいます!」


「礼や謝意で頭を下げる程度、幼子でもできることだ。その程度で舐めてくる輩ならむしろ家ごとなくしてしまった方が王国のためだとも思うのだが……」


「それでもです、これ以上は自分の心臓が保ちません!」


「……わかった。リズ、どうやらお前のご執心の英雄殿は、肝っ玉の方はあまり大きくないようだぞ?」


 後半の声はリーゼロッテに聞こえるように小さな声で呟かれる。

 だが耳のいい人間には聞き取られていたようで、エヴァの眉間にしわが寄る。


「……」


 その冷たい瞳は、後で色々聞かせてもらうわよと、百の言葉よりも雄弁に物語っていた。


「航空偵察と地上からの斥候からの情報を含めて、現時点でわかっている開示する。思ったことや感じたことがあればすぐに言ってくれ」


 魔物の軍勢は、なぜか夜襲をしてくることはない。

 魔物の中には夜目が利くものも多いので向こう側からするとした方が得だと思うのだが……こればっかりは、なぜかそうなのだ。

 ゲームの仕様が引き継がれ、そうなっているんだろう。


 今回の魔物の軍勢、初日で仕留めることができた魔物は優に二千を超えている。

 にもかかわらず、損害は極めて軽微。

 本来であれば大量に死人が出ていてもおかしくないような激戦にもかかわらずこうなっているのには、当然ながら理由がある。


「しかし、こうも違うか……錬金術分野にももう少し造詣を深めておくべきだったかもしれんな」


 ツボルト子爵の言葉に事情を理解しているものは頷き、知らされていない冒険者達はわずかに首を傾げる。


 先ほどツボルト子爵が俺に頭を下げたのは、今後のことを考えて俺が彼にリーゼロッテ経由で『速成錬成陣』の魔法陣の提供を行ったからである。


 これによって本来であれば乾燥や攪拌、薬効の濃縮などの手間をかけなければ作れないポーションの作成時間が大きく縮まった。


 想定していた五倍以上のポーションを作りだし潤沢に用意ができていたことで、適宜回復を行い死者を出さずに乗り切ることができたのだ。


 ツボルト子爵にはスカイの一件で世話になったからな。

 情報提供くらいならやぶさかではない。


(しかし……想像以上に魔物の数が多いな……)


 防衛戦初日はしっかりと乗り切ることができたが、魔物の勢いは衰える様子をみせていない。

 それどころかまだまだ湧き出てくる様子で、総数は優に一万を超えている。

 場合によっては二万、三万を見なければならないだろうということだった。


 既に土壁は二つ目まで突破されている。

 現在夜を徹しての修復作業が行われているが、恐らく明日か明後日には攻防の主戦場は城壁に変わることだろう。


 そうなれば流石に死傷者が増えるのは避けられない。

 対空戦力にあまり重きを置くこともできない以上、空からの攻撃を完全に防ぐこともできないだろうし……。


 防戦に徹していては勝利は難しい。

 魔物の軍勢を抑えるためには、統率個体を倒さなければいけないのだから。


 全ての説明を終え、かなり悪いといえる状況を冷静に分析した上で、ツボルト子爵は何でもない風に言った。


「俺の子飼いの斥候をつけて、既に統率個体のいる場所は掴んでいる。なので明日、防衛戦の合間を縫う形で精鋭部隊で統率個体へと挑む。『紫電一閃』とアルド、そして俺……それ以外の面子は決して被害を出さぬよう、防衛に徹してくれ」


「なっ――!?」


 ちょ……聞いてないぞ!?

 エヴァの方を見ると驚いた様子もない……こいつ、間違いなく事前に説明受けて黙ってやがったな!


「な……納得できません!」


 思わず驚いたのは俺だけではないようだった。

 冒険者のうちの一人が手を上げる。

 Bランク冒険者パーティー『紅蓮の牙』のリーダーのヴォルだ。


「納得しろ、この場の司令官は俺だ。だが、そうだな……事前に説明くらいはしておくべきだろう」


 ドラゴンを殺すのは子爵と『紫電一閃』という特級戦力で行う。

 本当なら万全を期して更に戦力を集めて行いたいところではあるのだが、それをして防衛がおろそかになっては本末転倒だ。


 俺に頼みたいのは、最も厄介であるドラゴンの飛行能力を封殺する役目ということらしい。


「それを頼めるのは現状アルドしかいないのだ。もちろん他にできるやつがいるのなら、変わってもらっても構わないのだが……」


「それなら明日以降の高空戦力相手にはどうするのです?」


「ある程度は市街地への被害が出ることを覚悟するしかないだろう。当然ながら保障は手厚く行わせてもらう」


 いくつか確認をすると、ヴォルは一応引き下がった。

 だがなぜか、こちらをすごい勢いで睨み付けている。


 『紅蓮の牙』はもともとこのルテキの街をホームにしているBランク冒険者だ。

 街の有事の際に動けないということに思うところがあるのだろう。


 ヴォルも当然ながら、俺のことは知っているはずだ。

 あの射殺さんばかりの視線から考えると、万年Cランク冒険者に大事な役目を奪われたとでも思っていそうだな。


「なんにせよ、明日が正念場だ。各自、奮戦を期待する」


 子爵の一言で、作戦会議は終わった。

 こうして俺は想像していなかった形で、エヴァ達と初の共同依頼をこなすことになるのだった――。


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