何年
どうやって戻ったものかと思案に暮れるようなこともなく。
空間の天井にスカイに穴を空けてもらい、そのままスカイに掴む形で外へ出ることができた。
「きゅ、きゅう……」
まだ俺がギリギリ両手で持てるくらいの重さではあるのだが、そもそもスカイが空を飛んでいるのは魔力の出力によるものだ。
そのため大量の魔力を噴出すれば、一応ふらふらとではあるけれど俺を乗せて飛ぶことができた。
ただスカイ本人としてはよたよた飛行では満足できなかったらしい。
地上に戻ってからも俺に乗ってほしそうな素振りをしてみせていた。
一応ギリギリ飛べないこともないので、今後はスカイの狩りの時に一緒に飛行訓練もしていくことにしよう。
地上の様子は、大きく様変わりしていた。
あれほど大量に舞っていた花粉は跡形もなく消えており、スリーピィトレント達はその全てが地面に倒れていた。
マザートレントが特異種だったことと考えると、恐らくはこれもかなりの値打ち物になるに違いない。
流石に全てを収めるわけにはいかなかったが、とりあえず可能な限り『悪魔の箱』に収納させてもらうことにする。
こいつは内容量等の記述を変更して別の魔法陣を使えば何個も同時に発動させることができるからな。
とりあえず恐らく個人では使い切れないほど大量の木材が手に入った。
次何時手に入るかわからない木材だろうから、何かに有効活用できればいいんだがな。
枯れ木や倒木ですごいことになっている森だが、一応このまま放置していても問題はない。
一体どういう理屈なのかはわからないが、スリーピィトレントが倒された場合、元あった森はより植生豊かな森へと変じる。
恐らく俺がさってから一ヶ月も経てば、以前より一回り大きな木々の生えるようにパワーアップした森が、再び姿を現してくれることになるだろう。
どうやら夢の中にいた時間はさほど長くはなかったらしいが、可能な限り木材を収納しているうちに結構な時間が経ってしまっていた。
村に戻った時には完全に日が暮れてしまっており、危うくゾンビと勘違いされかけた。
「それではスリーピィトレントを討伐してくれた英雄に、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
村長宅で軽い宴会をすることになり、俺は村人達にせがまれて討伐の一部始終を(夢の詳細は除いて)何度も語る羽目になった。
饗されたのは安物のワインだったが、戦勝のあとのタダ酒というだけで天井の美酒にも勝る。
それに最近はエヴァとの付き合いで上等な酒ばかり飲んでいたが、俺はどちらかといえばこっちの安酒ばかり飲んできている。
おかげでなんだか懐かしい気持ちにもなれたよ。
「一応自分でも結構回収はしましたが、当然ながら全ては採れてませんので。今森にあるスリーピィトレントの木材は、この村の復興のために使ってください」
「おぉ、おぉ……ありがとうございます!」
この村は俺が来るまでに少なくない被害を受けた。
特に家畜がやられてしまったのがかなり痛い。
辺境の村では、家畜一頭の価値はあまりにも高い。
スリーピィトレントの木材はトレント材と比べても上等らしいから、なんとかして補填してくれたらと思う。
その日の晩に家にやって来た村長の娘からのアプローチを断固拒否し、俺はそのまま王都へと戻る。
毎日繰り返していると、スカイも徐々に調子を掴んできたようだ。
体格差のせいで俺がスカイの上に直立しているためすごい見た目になっているが、不格好ながらも一応背に乗って空を飛ぶことができるようになった。
ただ傍から見るとファンシーで小柄な青いスカイとくたびれたおっさんが飛んでいる様子は、異様かもしれない。
少なくともドラゴンライダーに見られることはないだろう。
王都に戻り『止まり木亭』に戻ると、隣の部屋には明かりがついていた。
ドアの方に近付くと、自分から彼女にノックをするのは初めてであることに気付く。
どんだけ意気地がないんだよ、俺は……。
「どうぞ」
中に入ると、そこには同じ間取りの部屋とは思えないほどにしっかりとした部屋があった。
床に敷かれている絨毯に、タンスにクローゼット……それに鏡まで置かれている。
見ればエヴァは魔道具ランプの明かりを頼りに、何か分厚い本を読んでいた。
こちらを見上げているエヴァを見ると、言葉はつかえることもなく流れるように飛び出してきた。
「エヴァ――好きだ」
「はへ……?」
エヴァが手に持っていた本を思いきり地面に落とす。
そして夢でも見ているのかと頬を叩き始める。
その様子を愛おしいと思っている自分がいた。
そうだよ、簡単なことだったんだ。
思いの丈を口にすれば、それだけで良かったんだから。
「あの時の俺は腐っていた。お前に見限られるのも当然だったと思う」
俺はあまり口が達者な方ではない。
だから必死に、自分が思っていることを口にする。
「でも少なくとも今は、そうじゃない……。今はまだ、お前の隣に並び立てるほどの男にはなれてないが……いつかきっと、追いついてみせる」
だからその時は……と続けようとすると、いつの間にか近付いているエヴァの人差し指で口を塞がれる。
「やっぱり、アルドは変わったわ。あなたは前より真っ直ぐで正直で――そして、いい男になった。でも女心がまるでわかってないのは変わらないのね。なんだかちょっとだけ、安心した」
そう言って笑うエヴァに続きは今度、もっとちゃんとした形で伝えてと言われる。
その笑みを前にすると、俺は黙って頷くことしかできなかった。
何年経とうがやはり、俺は彼女には頭が上がらないらしい……。
読んでくださりありがとうございます。
これにて第三章は完結となります。
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