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今さらだけど異世界満喫! 〜気づけばアラサー冒険者ですが、ゲーム知識で強くてニューゲーム〜  作者: しんこせい(『引きこもり』第3巻2/25発売!!)


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夢と現


 そこは見慣れていて、けれどここしばらくの間は見ていなかったギルドだった。

 妙にくたびれて、いくつか傷がついているぶっとい支柱に、強面のギルド職員。


 ああ、間違いない。

 ここは俺が冒険者としてデビューした……リスケの街だ。


 そこにいる俺はまだEランク冒険者になったばかりで、今からすると信じられないほどに目をキラキラと輝かせていた。


 そんな俺の視線の先には、小さな女の子の姿があった。

 美しいガラス細工のような瞳に、白雪のような肌。

 荒くれ者達の集うギルドには、あまりにもふさわしくない可憐な見た目だ。


 もしかすると冒険者ではなく依頼主なのでは……という思いを、彼女が身に付けている防具と、腰に提げている細剣が否定する。


 彼女はどこか自信なさそうにふらふらと視線をさまよわせては、筋骨隆々の冒険者達を見てビクッと身体を硬直させている。


 そんな風にしていては危ない。冒険者というのは、弱いところを見せたやつから食われていくのだ。



 武張った奴らばかりのギルドの中で彼女の存在はあまりにも異質で。

 俺はそれ故に、強く引きつけられた。


 それはいわゆる、一目惚れというやつだったのかもしれない。


 だから俺は勇気を出して、一歩を踏み出す。

 そして不安そうな顔をしてこちらを見つめる彼女に、精一杯カッコをつけながら、


「俺の名前はアルド、Dランク冒険者。……君の名前は?」


 そう問いを投げかける。

 不安げに揺れていた彼女の瞳がこちらに固定される。

 冗談みたいに長いまつげに、触れれば壊れてしまいそうな白魚のような指先。

 お人形みたい……というか、彼女は正しく動いている人形だった。


「エヴァンジェリン……エヴァって呼んで」


 こうして俺達は出会い、そして握手を交わす。

 その時の彼女の手のひらは、信じられないくらいに柔らかかった……。




 場面は変わり、俺は成長し二十になっていた。

 その時には俺とエヴァは既に恋仲になっていて。

 彼女はその見た目にそぐわぬ酒飲みになっていて、俺はそれに付き合わされるようになっていた。


 俺はいわゆる、早熟型だった。

 元から魔力が多く身体強化をいくらでも使うことができる俺は、サクサクと魔物を倒すことができた。

 対してエヴァは、どちらかといえば晩成型だった。


 けれど彼女の精霊魔法は、困難な闘いに挑めば挑むほど強力になっていった。

 それに対して俺の成長は……本当に微々たるものだった。


 最初は開いていたはずの実力差は徐々に、けれど着実に小さくなっていく。

 焦り出しても、なかなか結果は変わらない。

 それが一層、焦りを募らせた。


 二人の関係は変わっていく。

 教え導く関係は、気付けば並び立つ関係になっていた。

 けれどそれでもこの時の俺達は、まだ上手くやれていたのだと思う。


「出会ったばかりの頃、私がなんて言ったか覚えてる?」


「見返してやりたい……だろ。自分を見限った『迅雷』を」


 ああ、そうだ。思い出した。

 エヴァは自分の爺を、見返してやりたかったのだ。


 自分の才能を見限り母共々飼い殺しにしようとした爺に対して、彼女は強い憤りを覚えていた。

 だから貴族令嬢という立場を捨てて、冒険者を始めたのだ。


「そう、あの時の私はおじいちゃんを見返してやりたかった……今はまた別の目的ができたけどね」


「そうなのか? もう見返せた、ということ?」


「ううん、違うの。こうやって年を重ねて……重ねたからこそ、あの時のおじいちゃんの気持ちが少しだけわかるようになったのよ。戦いの才能がないのに、戦場に身を置くのは不幸なことなの。本人にとっても……そしてその周りにとってもね」


 エヴァは自分のことを言っているつもりなのだろう。

 俺への当てつけなんかではないとわかっている。

 けれどその言葉は俺の心を、強かに打ちのめした。


「それじゃあ今は、何がしたいのさ」


 心の傷を隠すために逸らした話題に、意外なことにエヴァは乗ってきた。


「今はあなたの……あなたの隣にいられれば、それでいい」


「……そっか」


 けれど世の中は、気持ちだけではどうにもならないことばかりだ。

 小さな亀裂は、時間が経つほど大きくなっていく。

 時の流れは、あまりにも残酷だった。













 実力が完全に逆転してからは、俺がエヴァの足を引っ張ることが増えていった。

 他のパーティーメンバーも、エヴァには勝てなくとも少なくとも俺よりは優秀な奴らばかりだった。

 俺は次第に、周りに迷惑をかけるようになっていった。


 エヴァの実力で、Cランクまでは上がることができた。

 けれどここから先、Bランクに至るまでには人間をやめる必要がある。

 俺はどう逆立ちしても、その領域に至れそうにはなかった。


「ごめんなさい、アルド。でもやっぱり無理があったのよ、私達」


 くるりと振り返る、エヴァ。


 最初の頃から俺には見合わない女だった彼女は、今ではギルドでの期待のホープになっている。

 対して俺はといえば、その金魚のフン扱いがせいぜい。


 エヴァの足を引っ張るな。

 何度もそう言われてもパーティーを解散しなかったのは、きっと俺の意地だったのだと思う。

 今思えばちっぽけなプライドだ。

 けれどその時の俺にとっては、何よりも大切なものだった。


「それは俺が――弱いからか?」


「……違うわ。それはあなたが――今のあなたは、とてもじゃないけど見ていられない。これ以上私と一緒にいれば、アルドはきっと壊れてしまう。だから……だからここで、お別れなの」


 明滅する意識。

 頭が真っ白になったかと思うと、甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐる。


 そこで俺の意識が途絶え……まどろみに似た感覚から目覚める。

 するとそこには、先ほど見た夢ではないたしかな現実が広がっていた。


「嫌な夢を、見ちゃったな……」


 起き上がろうとすると、すぐ隣から温かい体温を感じる。

 くるりと身体を回転させればそこには……すやすやと心地よさそうに眠るエヴァの姿がある。


「そうだ、俺は……現実を生きなくちゃいけない」


 英雄になるだなんて夢を見るんじゃなくて、現実を生きなくちゃ。

 冒険者をやめた俺にできるのは……英雄であるエヴァを、支えることなんだから。


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