吟味
Cランク向けの依頼は、王都にはゴロゴロ転がっている。
ただし俺の場合、依頼の内容はよく吟味しなければならない。
たとえば、上の人間の強制権があまりに強い場合、いざという時に飛竜であるスカイを捨て鉢にさせるような命令を出されてしまう可能性が出てくるから、できれば避けたい。
また、自律魔法を人前で大量に使わなければいけないような依頼も基本的には避けるべきだろう(その場合は今までに見せてきた自律魔法だけでしのげるようなものを選ぶべきだ)。
可能であれば人目につくことなく、かつ俺とスカイが何かを得ることができるような強敵と戦うことができるのが理想だ。
そのため俺達は危険度が高くそのわりに報酬が見合わないため競合する同業者のいない、いわゆる塩漬け依頼を受けていくことにした。
流石王都なだけのこともあり、掲示板に張り出されている依頼は一日で精査しきれないくらいに大量にある。
更に言えば誰からも受けられないために剥がされてしまっているものの、依頼自体は今でも有効というものも多く、俺達に都合のいい依頼を探すのには困らなかった。
幸い金には困っていないので、経験とギルドの評価を得られるよう探した結果、俺達はある依頼を受けることにした。
それが王都を南に行った先にある辺境の村に出たという――眠りの樹、スリーピィトレントの討伐依頼だ。
「へぇ、来てもらって大変ありがてぇのですが、ご依頼にも書いといた通りうちには全然余裕がありませんで……」
「ああ、それは理解しているから大丈夫だ。元々の依頼料と魔物の素材以外をもらう気はないよ」
スカイに狩りをさせながら自律魔法の使い勝手を試しながら、馬車で時間をかけてやってきた俺達は、ぺこぺこと平身低頭な村長に畏まられながら村へ入ることにした。
やっぱり徒歩の移動だとどうしても時間がかかるんだよなぁ。そのための飛行ユニット入手だったわけだし。
だからといって金食い虫の馬を維持するのは貧乏性なので許せないし……スカイの身体も順調に大きくなっているし、できるかどうかはおいておいて、そろそろ俺を乗せた飛行訓練を始めるべきかもしれないな。
「とりあえずゆっくりと身体を休めてから討伐に挑みたい。泊まる家の手配と、詳しい情報を教えてくれ」
「へ、へぇ、幸い家は余っておりますので準備させましょう。その間にお話をさせていただければと……」
俺のような万年Cランク冒険者に対する視線は、基本的には侮りであることがほとんどだ。
ただ辺境の村となるとそもそも冒険者が来るようなことも少ないからか、どこか恐れるような様子で話をしてくれた。そんなことされなくても、別に取って食いやしないのにな。
まず最初に異変に気付いたのは、村に住んでいる木こりだったという。
なんでも今までと質の違う樹が生えるようになったという報告をしてきたらしい。
ただ木こりも村長も、特に何も対策は打たなかった。
今までと比べると木材の質は明らかに上等になっており、放置しておいた方が旨みが大きかったからだ。
まぁこの魔物はそこまで有名ではない、どちらかといえばマイナーなものなので、対応できなかったのも無理はない。
トレントから取れるトレント材は、野放図に増えている森の木なんかより遙かに上質だ。
これで現金収入が増えると二人でほくそ笑んでいたらしいが、徐々に異変が起きるようになる。
森の近くから家畜を狙っていた野生動物達がとんと現れなくなり。
それからしばらくすると、森の浅いところで遊んでいた子供達が失踪する事件が相次ぐようになったのだ。
ここに来て、木こりと村長は異変に気付いた。
木こりは異変の原因を調べるために森へ向かい……そのまま帰ってこなかった。
この時点で村長は冒険者に調査を依頼。
そこでようやく、森に増え始めている魔物の正体を知ったのだという。
眠りの樹――スリーピィトレント。
これはトレントのような樹木型と呼ばれる魔物であり、簡単に言えば餌を誘引するタイプの魔物である。
スリーピィトレントはいくつもの花粉を使いこなす。
生物を誘引することのできる花粉を使い獲物を呼び出し、幻惑効果のある花粉を吸わせて相手の意識を奪い、眠りの花粉を吸わせることで対象に心地の良い夢を見せる。
そして相手を完全に眠らせ、夢の世界に閉じ込めてから、その身体を根で地面に引きずり込み、少しずつ少しずつ栄養を吸い取っていくのだという。
「俺は……あそこで死んでおいた方がよっぽど幸せだったかもしれねぇ……」
これが、スリーピィトレントの調査から命からがら帰ってきた男が口にした言葉だという。
どうやらこの魔物が見せる夢というのは、それで死んでも構わないと思えるほどに素晴らしいものなのだという。
子供が失踪した時点ですぐにでも討伐に向かった方が……と思うかもしれないが、冒険者ギルドが重い腰を上げる様子はなかった。
スリーピィトレントの繁殖力はさほど高くない。
そしてこの魔物は生えている樹に寄生し、それを根から乗っ取って置き換わる形で繁殖活動を行う。
そのため森の外まで生息地域が広がることはない。
故に放置しておいても、森にさえ近付かなければそれほどの害はないのだ。
また、スリーピィトレントはその害のなさに比べて、討伐の難易度が高い。
森の範囲によってランクは変わるが、話を聞いていた感じBランク程度は見ておくべきだ。
何せこいつと戦うのに必要なのは、身体の強さではない。
全てのスリーピィトレントの母体となっているマザートレントにはある程度の戦闘能力があるが、それ以外はただ生物をおびき寄せて栄養にするだけの樹でしかないからだ。
スリーピィトレントと戦うのに必要なのは、幻惑に負けることのない強い意志である。
睡眠や気絶に耐性を持たせる薬や魔法を使い続けてゴリ押しをするとしても、長時間の探索を続けるうちに必ずどこかで効果は切れ、心地よい幻惑に身を任せる瞬間はやってくる。
その時に果たして自分は幻惑に打ち勝てるのか……その自信がないからこそ、冒険者達も積極的に依頼を受けることはなく、結果として長いこと放置されてしまっているのだ。
ただこうしている間にも、スリーピィトレントの範囲は拡大している。
そう遠くないうちに隣村の領域を浸食しているだろうし、そもそもの話人的な被害も何人も出ているのだ。
今の俺なら……幻惑を相手にしてもなんとかできる手もある。
そのための用意もきっちりしてきたしな。
「よし、それじゃあ……始めるか」
貸してもらった家の中で、俺は一枚の布を広げる。
その上に素材と容器を乗せてから魔力を流せば、準備は完了だ。
マジキン知識で有用なのは……何も自律魔法だけではない。
「――『速成錬成陣』」
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