vs『綺羅星』 前編
基本的にギルドには、練兵場が併設されている。
これは精霊魔法の練習から肉体的な訓練に至るまで、様々な用途に使えるようになっている施設のことだ。
厳密に言うと訓練場とか教練場の方がいい気がするが、なぜこのような呼び名になったのかは知らない。
王都の練兵場は、ギルドを出てすぐ右手に存在している。
ルテキの街のそれと比べると二回りは大きいであろうそれは、話を聞きつけてやってきた冒険者達が集まれるほどの広さを誇っていた。
俺達はそのど真ん中にあるステージの上に立ち、準備を整えている。
「ふふん、今ならまだ謝って自らの非を認めるだけでいいんだぞ」
なんとかのアレクセイは、そういって自分の前髪を軽く払う。
その仕草はいやに様になっていて、自分の容姿と実力へ対する自信をうかがわせる。
「悪いことをしていないのに謝るつもりはない」
どうしてこんなことになってるんだとも思うが、俺がエヴァと再び行動を共にするとなれば多方面からちょっかいをかけられるのは十分に考えられることだった。
男の小さな意地と言われればそれまでだが、今のところ俺から彼女の下を離れるつもりはない。
だから今後の憂いを断つためにも、しっかりと倒さなくちゃいけないな。
鞘から剣を抜き、欠けがないかを確かめる。
そして手首が疲れないよう軽く握りながら、脱力。
対人戦をする場合、相手だけに注視するわけにはいかない。
精霊魔法使いを相手にする場合、より広く全体を俯瞰する視野が必要だ。
「どっちが勝つと思う?」
「馬鹿お前、オッズ見てねぇのかよ」
「……1.2倍!? こんなの賭けになってねぇじゃねぇか!」
意識を分散させていると、場外にいる冒険者の声が聞こえてくる。
どうやら誰かがトトカルチョのようなものまで始めているらしい。
妙に人が多いと思ったらそのせいか……ていうか俺の倍率低すぎだろう。
賭けの対象にされるのは別に構わないんだが、もうちょっと俺を応援してくれるやつがいてもいいんじゃないだろうか。
「えー、条件は相手に参ったと言わせるか、戦闘続行が不可能になるほどの怪我を与えた方方の勝ちです。ただし殺しは厳禁、やった場合はギルドからペナルティが発生することになりますのでご注意を」
決闘の立ち会いをしてくれるのは、ギルドの受付嬢だ。
彼女は両者の準備が整ったことを確認してから、大きく息を吸う。
「それでは――試合開始ッ!」
開始の合図が鳴ると同時に、身体強化を発動させる。
だがそれは相手も同じようだった。
流石はBランク冒険者なだけのことはあり、俺達の剣が激しくぶつかり合う。
一合、二合、三合。
剣を打ち合わせる度に火花が散り、剣が大気を裂く風切り音が鼓膜を震わせた。
アレクセイが持っているのは片手剣であり、幅も刀身も俺の両手持ちの剣と比べると大分軽い。
ただ身体強化の出力はあちらの方が上だ。
結果としてつばぜり合いをするような形になり、こちらのパワー不足が露呈する形になった。
「ふ、ふふふ……あーっはっはっは!」
俺の一撃を大きくバックステップで開始したアレクセイが、突然笑い出す。
「粋がっていたからどれほどの力を隠しているかと思えば……ぷぷっ、所詮はCランク程度の力しかないじゃないか。君のようなザコに使うのはもったいないが……光栄に思うがいい。オーディエンスもいることだし、本気を見せてあげよう。この『綺羅星』のアレクセイの、本気をね!」
アレクセイは剣を構えた状態で、空いた手で袋を逆さにひっくり返す。
剣を入れていた、妙に膨らんだあの袋だ。
その中から飛び出してきたのは――巨大な土のブロックだった。
子供が遊ぶ某ブロックをそのままこぶし大に大きくしたようなカラフルな土塊が、ゴロゴロと地面に転がっていく。
「踊れ」
アレクセイが告げると、地面に落ちていた土ブロックがひとりでに宙に浮かび始める。
そして合わせて八つになるブロックが、彼の周囲を守るかのように漂い始めた。
(土精魔法使いか……)
恐らく土精魔法を使い、ブロックを操っているのだろう。
手動ではあるんだろうが、八つの土を同時に動かすのはなかなかできることではない。
Bランク冒険者の面目躍如といったところか。
とりあえずは様子見を……と思っていると、あちら側から攻撃を仕掛けてきた。
意識を集中……アレクセイだけではなく、ブロックもしっかりと観察をしなければいけない。
先ほどと同じく、剣を使って迎撃をするのは悪手。
たとえ隙が大きくなろうが、大きめのモーションで回避を選択する。
すると先ほどまで俺がいた場所に片手剣の突きが襲いかかり、その死角と隙を補うかのように左と下から二つのブロックが弾丸のように飛び出してきた。
そのまま前に出て伸びきった腕へ攻撃を仕掛けると、その軌道を塞ぐように現れた三つのブロックがこちらの攻撃を受け止めてみせる。
続けざまにこちらに向けて飛んでくるブロックをしゃがみこんで避けると、アレクセイはそのまま頭を下げた俺に対して振り下ろしを放ってきた。
「――ぐおっ……」
避けるために横に転がると同時、それを待っていたかのように俺の横っ腹へブロックが飛んでくる。
殴られたような衝撃を受け、ステージの端へと吹っ飛びながら、なんとか受け身を取って立ち上がる。
こちらを見るアレクセイは、前髪をかき上げながら笑う。
「攻防一体の土精魔法……ご堪能いただけたかな?」
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