道
話しかけてきた優男は、顔に特徴がないタイプの俳優みたいな顔つきをしていた。
金髪碧眼に、バランスの取れた顔のパーツとその配置。
その顔は、以前見た百人のイケメンを平均して生み出したイケメンの画像を想起させる。
腰に提げているのは直剣だが、なぜかその鞘は通常ではありえないような膨らみ方をしていた。
鞘というよりは、剣をしまえる巨大な布袋といった感じだ。
「僕の名前はアレクセイ。『綺羅星』のアレクセイと言えば蒙昧な君でも知っているだろう?」
「……いや、知らないな」
「なんだと!? 流石万年Cランク冒険者なだけのことはあるな、そうやってまともな情報収集すら怠ろうとするから、長年ランクを上げることができずにいるのだよ」
こいつのことを知らないのは俺が王都をホームにしてないからなんだが……なんだかそういう正論が通じるような相手ではないような気がした。
一応Bランクに上がるってことは、素行なども問題ないとギルドから太鼓判を押されている人物なわけだが……そんなやつに目をつけられるような理由があっただろうか?
……なんて、すっとぼけなくても理解している。
多分こいつは少し前にエヴァが言ってた……あいつにつきまとっているという冒険者だろう。
『本当にうっとうしいのよね……下手に問題を起こすわけにもいかないし、かといってあしらい続けるのもそれはそれで面倒だし』
嫌そうな顔をしながら酒を呷っていたエヴァの表情を思い出していると、どうやら俺がよそ見をしていると捉えられたようだ。
いらだたしげなアレクセイの言葉を聞けば、俺の予想は当たっていた。
「高嶺の花は、遠くから見ているからこそ美しい。あの青い薔薇は、君のような凡庸な人間には相応しくないのさ」
「……ふぅん」
周囲を見ると既に俺たちはギルドの冒険者達の耳目を集めてしまっていた。
好奇心と同業者への興味のない交ぜになった視線は、エヴァが言うとおりにうっとうしいことこの上ない。
ちなみにギルドでは、基本的にギルド内での荒事は禁じられている。
もし何かをやるならギルドの目のつかないところでやれという視線を、受付嬢からひしひしと感じた。
(さて……)
こいつ……俺が高嶺の花に相応しくないって言ったよな?
――そんなこと、何年も昔からとっくのとうにわかってるんだよ。
だから俺達は一度袂を分かっているんだ。
今になって再び道が交わったのはきっと、偶然起こった電波の混線のようなものだ。
正しく奇跡が起きたようなもので、俺が前世の記憶を取り戻したからとて、二人の間に広がっている隔たりは変わらず大きいままだ。
最近では少し、以前のように仲良くできるようになった。
なぜエヴァが、今になってあんな態度を取るようになったのかはわからない。
感傷なのかもしれないし、後悔なのかもしれない。
もしかすると俺が一人で舞い上がっているだけで、お互いの気持ちはびっくりするくらいにすれ違っているのかもしれない。
けどそれでも、一つだけわかることがある。
それは今エヴァが困っていて――そして俺には、それを助けるための力があるということだ。
「おいアレクセイ」
「なんだね、万年Cランク冒険者のアルド君」
「――決闘だ。俺が勝ったら、二度とエヴァに関わるな」
「受けよう。僕が勝ったら……君は二度とエヴァンジェリン君の道を遮るのをやめたまえ」
こうして俺はギルドの練兵場にて、衆人環視の下アレクセイと決闘をすることになった。
せっかくの機会だ、今の俺がどこまでできるかの試金石にさせてもらうことにしよう。
相手はBランク冒険者、今の俺からすると格上の相手だ。
更に相手を下手に殺傷するわけにいかない人との戦いでは、俺の使える手は大きく制限されてしまう。
だが負けるつもりはない。
この一ヶ月組んできた俺の自律魔法デッキの威力にひれ伏すといいさ。
――エヴァの歩く道程を誰にも邪魔させたくないと思ってるのは、お前だけじゃねぇんだよ。
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