残り香
「ああ……とりあえず座れよ」
「失礼するわ」
二人で備え付けのベッドに座る。
ちなみに向かいでは既にぐっすりと眠っているスカイがいるため、声量は比較的抑えめだ。
完全装備の彼女を見るのは出会った時以来なので、思わず頭からつま先までジッと観察してしまう。
「何か文句でも?」
「いや、見事なもんだと思ってな」
エヴァは精霊魔導師でありながら、同時に強力な身体強化の使い手である。
光の精霊魔法を使い雷光を発生させ、己の身体に賦活させることで『迅雷』の二つ名に違わない俊敏さを発揮させる。
腰に提げているのは速度を重視した細剣であり、その鞘拵えにすらかなりの金がかかっているのが一目でわかった。
防具は身体の動きを阻害しないよう軽い金属製の鎧だ。
色からしてミスリルやオリハルコンのような魔法金属を使っているのは間違いない。
これ全部揃えるのに、果たして金貨が何百枚必要になることか。
流石Aランク冒険者だなぁと思わずにはいられない。
一体いくら稼いでいるんだろうと、少し下世話な話を聞いてみたくなる。
「ふぅ……鎧も外すわね」
「だったら自分の部屋でやればいいんじゃないか?」
「細かいこと言わないの」
一人で着脱できる鎧を外していくと、その下からぴっちりと身体のラインに沿った鎧下が露わになる。
下に着ているのは、身体に張り付くようにあつらえられたシャツだった。
使っているのは……オキサイドワームの絹糸だろうか。
この世界では魔物由来の蜘蛛糸や絹糸素材はとてつもない値段で取引される。
触れれば沈み込みそうなほど滑らかな生地だ。
「開放感」
馬鹿なことを言っているエヴァを見て、黙って立ち上がり毛布を持ってくる。
「ほれ、流石にそれ一枚だと寒いだろ」
「気が利くのね、ありがとう」
肩からかけた毛布が、はっきりと出ていた凹凸の輪郭を隠す。
こうして隠されると少しもったいないような気がしてしまうのは、悲しい男の性というやつだろう。
そのまま湯を沸かして出してやる。
茶なんて上等なものはないが、とりあえずハーブを入れてハーブティーモドキに仕上げてみた。
ほぅと温かい息をこぼしながら落ち着いたのを見計らって、俺は聞いてみることにした。
「で、何かあったのか?」
「……うん」
何度も寝酒をして、少なくない時間話しているからか、俺達二人の距離感は少しだけ昔の頃に近付いていた。
エヴァは強い女だが、当然ながら彼女はいつも全方位に対して攻撃を加えるバーサーカーではない。
人間は誰彼構わず噛みついて平気でいられるほど、強くはない。
こいつは気取って人前では強いフリをしているが、二人きりの時は甘えてくることが多かった。
強さは脆さの裏返しでもあるからな。
「もう嫌になっちゃうわ、本当に。こなしてきた護衛依頼で……」
「前も言ったが、守秘義務に反しないようにぼかして話してくれよ?」
「当然じゃない。で、そこで貴族の護衛をしていた冒険者がね……」
エヴァは気付けば手に持っているグラスで酒を呷りながら、依頼の愚痴をこぼし始めた。
これは相当頭にキてるみたいだな……。
どうやら彼女がお冠の原因は、同業者に色目を使われたことにあったらしい。
新進気鋭のBランク冒険者のリーダーから、かなり積極的にアプローチを受けているんだと。
ただエヴァがくだを巻きながら酒を呷っていることからもわかるように、残念ながらその気持ちは完全に一方通行。
にもかかわらずめげずに話しかけてくるその男のことが、うっとうしくて仕方がないようだ。
王都全体で見回しても、高ランクの冒険者の数はさほど多くはない。
王都ではギルドで使うスペース自体Bランク以上か未満かで分けられていることもあり、鉢合わせする機会がどうしても多くなるようだ。
その度に話しかけられるのが、彼女的には我慢ならないらしい。
ただ正直、そんなことを俺に言われてもな……一体俺にどうしろと?
「ふぅ……すっきりしたわ。それじゃあまた明日ね!」
「ああ、また明日な」
ただエヴァの方はひとしきり愚痴を言って満足したのか、憑きものの落ちたような顔をしながら出ていった……酔っ払っているからか、鎧は置きっぱなしで。
彼女の部屋に行って届けてやるべきだろうか?
……いや、基本出るのは俺の方が早い。
多分何もしなくても、俺がいなくなった後で部屋に取りに来るだろう。
俺はしばしエヴァの鎧を見つめてから、そのままベッドに横になることにした。
いつもより濃いエヴァの残り香が鼻をかすめ、思わず猛りそうになる自分を必死で抑える。
……飲み過ぎなくて良かったよ、ホントに。
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