一筆書き
「――っとまぁ、こんなもんか」
「ぶふぅ……」
地面に倒れ込んだまま完全に身動きが取れなくなっているのは、人間の身体に豚の頭をつけた魔物であるオークである。
その身体にはでっぷりとした脂肪がついているが、その下に隠されている筋肉は人間よりはるかに強靱だ。
オークの棍棒による一撃をまともに食らえば、か弱い人間の身体など簡単にひしゃげてしまう。
オークはランクでいうと、ゴブリンより一つ上のDランクに位置している。
「ぶふう! ぶふう!」
何重にもかけた俺の魔法によって、既にオークは身動きが取れなくなっていた。
大きな傷をつけることなくオークを完全に拘束することができたので、とりあえずこれで及第点だろう。
出力が高すぎるせいで殺してしまったり、逆に低すぎて拘束ができずに暴れられたりすること数度。
手持ちの自律魔法だけでは上手いこと拘束ができなかったため、幾度も脳内で魔法陣を描き、適宜出力を調整しながら試行錯誤をすること都合七回。
ようやくきちんと相手を捕縛することに成功した。
「スカイ、食べて良いぞ」
「きゅうっ!」
「ぶひいいいいい!!」
拘束されて身動きの取れないオークの喉笛に、スカイがその鋭い牙を立てる。
断末魔の声を上げるオークをしっかりと仕留めてから、中の血液や骨ごとバリボリと食べ始めた。
スカイは既に自分の体積より明らかに多くの獲物を食べているんだが、魔力を使っているからかまだまだ腹ぺこのようだった。
不思議生物であるスカイを横目にしながら、さっきの感覚を忘れてしまわないよう、ちょうどいい出力の魔法陣をしっかりとメモ帳に書き記しておく。
現在の俺の戦闘スタイルは、いわゆる魔法剣士というやつだ。
近接戦をこなせる剣士でありながら、胸ポケットに入れている布に込められた自律魔法を使うことで戦闘の補助や遠距離攻撃を可能とする。
それに加えて、現在では魔法陣の脳内速記という手札もある(いちいち魔法陣の脳内速記というのは面倒なので、この技術を『一筆書き』と呼ぶことにした)。
こちらは今のところ、戦いの主力としてというより相手の不意や意識の間隙を狙うような使い方がメインになっている。
現在では剣を降らず集中すれば、約五秒ほどで『一筆書き』の自律魔法を放つことができる。
ちなみに剣を振りながらだと、その成功率は著しく落ちてしまう。
剣に集中しながら、身体強化も使って……となると、どうしても途中で集中が途切れてしまい、成功率は三割を切るほどになってしまうほどだ。
ただ簡単な魔法陣であればその分だけ成功率は高くなるため、剣戟をしている最中に何度も使えば一度は発動はする。こいつが不意を打つのに使えるのだ。
剣をぶつけている時に突然後ろから『魔力の矢』が飛んでくれば、それだけで大きく相手の隙をつくことができる。
ちなみにポケットに入れている魔法陣の記された布に魔力を込めても、同じことをするのは難しい。
『魔力の矢』を例に取ると、この魔法は出現場所と飛ぶ方向をあらかじめ決めておく必要がある。
そのため俺が布を使って同じことをしようとするなら、俺の目の前から俺の方に飛んでくる『魔力の矢』に枠の一つを使わなければいけないわけだ。
流石にそれはもったいなさすぎるだろう?
一応自律魔法の量的に魔導書を使うことも考えたんだが……基本的に自律魔法は初見殺し、わからん殺しの魔法が多い。
たとえば俺の『五行相克毒』を知られていれば、相手はきちんと俺の攻撃全てを回避しようとするだろうし、俺の『千編の鎧』を知っていればそこに弱い攻撃をぶつけてから本命の攻撃を当てに来るだろう。
それなら基本は剣士として戦い、少しでも相手の隙をつけるような魔法剣士スタイルが一番俺には合っていると思う。
それに……この世界に生まれてからずっと磨いてきた剣の腕を、まったく使わないというのはもったいない。
どうせなら前世と今世の知識を混ぜ合わせ、より高みに上りたいと思うのは、当然の帰結だと思う。
と、まぁ俺の現在の状況はこんな感じだ。
とりあえず対人戦で効果的に相手を無力化する自律魔法の試しは一通り終えることができた。
微調整は必要だが、これで対魔物用に続く二つ目のパターンも完成と言っていいだろう。
戦闘においては、当然ながら発動に五秒かかる『一筆書き』よりも、魔力さえ込めればすぐに使えるポケットに入れた自律魔法が主力である。
適宜入れ替えは行っているんだが……この十の魔法を決めるのがなかなかに難しい。
どうせならポケットをもう少し足すのも考えるべきだろうか……?
だけど、あんまり数を増やしすぎていざという時に全然別の自律魔法を発動するのが怖いんだよな……。
「きゅう!」
ああでもないこうでもないと理論をこねくりまわしているうちにスカイの食事が終わった。
どうやらまだまだ食べ足りないようで、しきりにあたりをきょろきょろとしている。
俺の実力はおおよそこんな感じだ。
それでは次は、スカイの狩りを見せてもらおう。
せっかくだから特異種であるスカイの力の秘密を、一度きちんと考察することにしようかな。
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