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依頼と……


 貴族の護衛依頼を受けるのなんて、当然ながら初めてのことだ。

 そもそも護衛依頼自体、片手で数えられるほどしか受けたことがない。

 したっていっても、隊商の護衛だしな。おまけにその時はリーダーでもなんでもなく、平のメンバーの一人だった。


「そんなに気にすることはないぞ。王都の治安はルテキよりいいし、問題らしい問題も起こらないはずだ」


 護衛依頼を始めたその日にリーゼロッテから言われた言葉は、誇張なく事実だった(心の中でも様付けをやめろと言われたので、もう普通に呼び捨てで呼んでいる)。


 そもそもツボルト子爵家には、当然ながらあのツボルト子爵がいる。


 彼子飼いの武闘派の衛兵も何人も詰めているし、たとえ屋敷に強盗が押し入ったとしても銅貨一枚盗ることもできずその屍をさらすことになるだろう。


 なので俺はリーゼロッテの後ろに控えてこそいるものの、別に何をするでもない。

 俺がここにきてから何をしたかというと……同伴を許されたスカイと一緒に、庭でリーゼロッテと駄弁っているだけだ。


 これで評価が上がるっていうんだから、命がけで魔物を狩っている同業者に少し申し訳ない気持ちになってくるな。

 ちなみに今日もまた、俺はひなたぼっこをして横になっているリーゼロッテの話し相手になるのだった……。





 俺は一つ、気になっていることを聞いてみることにした。


「一つ聞いてもいいか?」


「うむ、なんでも答えるぞ」


 リーゼロッテはひなたぼっこをしながら、整備された芝の上で横になっている。

 ラフな格好をしながら、どこからか取り出してきた愛用の枕を使って気持ちよさそうに目を細める。


「これ……俺が王都に来る意味あったか?」


「意味があるかと言われれば、あるぞ。簡単に言うと唾をつけておくためだ」


 彼女の説明を聞いて、今まで疑問に思っていたことがようやく腑に落ちた気がした。

 そして俺は、またも彼女に助けられたのだということを知った。


 ゴブリンキング討伐の時に俺が活躍した姿は、色々な人間に見られている。

 何人かの人間には、俺が急に自律魔法を使えるようになったことも知られているわけだ。

 となるとそこで要らぬ邪推をしてくる人間がいてもおかしくはない。


 そこでわざわざギルドを通してツボルト子爵家と仲の良いところを見せつけることで、周囲を牽制するという目的があったらしい。


 ツボルト子爵のお抱えなら何があってもおかしくない。

 そう思えるくらいにあの人の威光はとんでもないらしい。


「後はまぁ……スカイと一緒に居たかったからだな!」


「きゅっ!」


 飛んでいったスカイを抱きしめるリーゼロッテの顔を見ると、「そちらが本命では?」と聞きたくなってしまうほどだらしなくなっていた。


 ゴブリンキング討伐の際にしばらくの間預けたことで、どうやらリーゼロッテはスカイのことが完全に気に入ってしまったらしい。


 たしかに見た目は完全にぬいぐるみだし、触るとひんやりして気持ちいいし、どこからどう見ても愛玩動物にしか見えないよな。


 ちなみにスカイの方もまんざらでもないらしく、リーゼロッテと一緒に横になりながらゴロゴロと地面を転がっている。


 俺は草の根を結んで遊び始めたリーゼロッテを視界に入れながら、ポシェットからメモを取り出す。


 そして今後セットする対人向けの自律魔法をどうするか考えたり、魔法陣にどのような回路を使うか考えたり、脳内で魔法陣を描いて自律魔法が発動できるように訓練を始める。

 これはリーゼロッテの護衛をしている間の、俺の日課になりつつあった。


 俺が一つわかったのは、基本的に護衛は暇な時間が多いということだ。

 ある程度時間を潰せる手慰みがないと、流石に時間を持て余してしまう。


 リーゼロッテからもお許しをいただいているため、護衛の片手間で好きなことをしていいことになっている。


 当然ながら『光点探査』を使ってしっかりと監視もしているぞ。

 書き物に集中しているようにしか見えないだろうが、不審者がやってくれば多分この屋敷の誰よりも早くわかるはずだ。

 手を抜いているように見えて、これでもしっかりと任務は果たしている。




 一応俺の護衛依頼は、朝方から夕暮れになるまでだ。

 日が暮れ始めると、お役御免で屋敷を出る。

 『止まり木亭』に帰ると、既にフェイトの姿はない。


『僕がしたいのは血湧き肉躍る戦いだからね! というわけで行ってきます!』


 彼女は高ランクの依頼を受け、既に王都を発っている。

 受けたのはアンデッドの湧き出る墳墓の調査らしい。


 白の巨人族である彼女の拳はアンデッドにも効くからな。

 恐らく苦もなく依頼を達成してくるだろう。


「ふぅ……」


 護衛依頼中に書き出し、頭に浮かべた自律魔法を一通り試し、改善していく。

 これもまた、最近の日課だ。


 それが終わると既に日は暮れていた。

 ぐう~と鳴る腹の音。


 腹が鳴ったのは、俺……ではなくスカイだ。


「きゅ……」


 ちょっと恥ずかしそうに頭を掻くスカイ。

 そんな仕草、一体どこで覚えてきたんだか。


 俺は自他共に認める無精なので、飯を抜いたまま寝ることがままある。

 だが流石にスカイに同じことをしろとは言えない。

 そんなことをして通行人でもかじられたらたまらないからな。


「……飯買ってくるぞ。肉料理で良いか?」


「きゅうっ!」


 スカイと俺の夜飯を買いに行くために、夜の街へ繰り出すことにしたこの時の俺は、まさか思ってもみなかった。







「――アルド」


「――エヴァ」


 会いたいとも、会いたくないとも思っていたあいつと……再会することになるなんて。


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