指名依頼
依頼の受注をしたので手続き上はこのまま子爵の家に行っても問題ないんだが、一応ギルドには顔を出しておく。
一度も拠らずにそのままルテキに戻って依頼を終わらせたら、王都のギルドが威信を傷つけられたと思ってもおかしくない。
恐らく依頼達成の報告をするのは王都のギルドになるだろうし、機嫌を取っておいて損はない。
こういう時にとりあえずギルドの顔を立てておくのが、どこでもそつなくやっていくためのコツだ。
歴が長いせいか、こういう時いちいち顔色を窺うことも増えた。
冒険者って潰しが利かないからなぁ……こっちも下手に地雷を踏んだりはできないのよ。
年を取ったなって、実感するよ。
とりあえずギルドへとやってくる。
ルテキの街と比べると二回りほど大きな様子は、さながら冒険者達が集う要塞のようだ。
王都とルテキでは経済の規模が違う。
王都には貴族や大商人といった、大枚をはたける大金持ちが大勢居るからな。
だから必然的に金のかかる高難度依頼が集まるようになり、それを受けるために高位の冒険者達が集まり、多額の手数料をが稼げるのでギルドの懐も潤うという寸法だ。
三階建てのギルドへ入ると、喧噪がやかましい。
併設されている食堂の声がここからでも聞こえてきた。
ちなみに一階が一般冒険者用、二階がBランク以上の冒険者用、三階は各種資料室や高位の人物が依頼を行うためという風に住み分けができている。
いつか二階に上がってやるとくだを巻いた数は一度や二度ではない。
受付に行ってみるが、既に俺が知っている受付嬢は一人も残っていなかった。
とりあえず指名依頼を受けに来た旨を伝える。
「子爵家の場所を教えてもらえるか?」
「はい、北東区の七番地ですね」
王都は方位と番地によって管理がされている。
現代日本のように細かいわけじゃないが、ある程度区画整理がされているのだ。
頭の中に地図を思い浮かべながら、ギルドを後にする。
なんとなく一度振り返り、ギルドの中を見渡した。
(……馬鹿だな、俺は)
居るはずもない幻影を追いかけたことを恥じながら、ギルドを後にする。
そして子爵家へ出向くと――そんなザルなセキュリティで大丈夫かと思えるほどあっさりと、子爵との謁見が叶うのだった。
「ほう、お前がリーゼロッテが言っていた英雄殿か……」
「過分な評価です」
俺の目の前には、ものすごい筋肉だる……もとい筋骨隆々の大男の姿があった。
肉体が仕上がっているだけではなく、持っている魔力量もとてつもない。
『光点探査』の反応が物凄いことになっている。
フェイトより大きな身体をしている、頬に傷のある彼が他ならぬツボルト子爵だ。
自分でも不安になってくるが巨人族ではなくて純粋な人族……のはずだ。
「たしかに魔力は多いな……どうだ、一戦やるか?」
「ご冗談を、五秒と持ちませんよ」
「ゴブリンキングの討伐戦の資料は既に読んでいる。案外いい勝負になるかもしれないぞ?」
「お戯れを」
俺の方はしきりに戦いたがる子爵からの誘いをなんとかかわすので精一杯だ。
まったく、誰だここの警備がザルだとか言ったやつは。
そりゃ警備の必要ないわ。
だって明らか、この人が一番強いんだもの。
事前に調べた情報で、ツボルト子爵はエンゲルド伯爵からその武威を見込まれて叙爵されたという噂がだったけど……多分誇張でもなんでもなく事実なんだろうな。
目の前の人物からは、己の実力一本でのし上がってきた強烈な自負と覇気があった。
というか……え、ちょっと待って?
この人に護衛、必要ある?
そんな内心の疑問を見透かされたらしい。
くっくっくと押し殺したように笑いながら、椅子に腰掛けた子爵は葉巻の煙をくゆらせる。 そしてほうっと煙の輪を吐き出してから、
「護衛対象は俺ではない。俺の子……近々王都にやってくるリーゼロッテだ。色々と便宜を図ったんだ、まさか断らないよな?」
と告げられてしまう。
実際便宜を受けている俺としては、首を縦に振ることしかできず……こうして俺は数日後に王都入りを果たしたリーゼロッテ様の護衛をすることになるのだった。
俺を護衛役に推挙したのは、他ならぬリーゼロッテ様らしい。
言いたいことがないでもないが、彼女からしてもこの護衛依頼は俺への厚意に違いない。
話を聞いた感じ、そこまで危険度も高くないようだ。
わざわざギルドを通したのも、そうした方が俺の評価が上がると言われれば、断る理由もない。
王都での護衛ならそこまで危険性もないだろうし……どうせなら制圧用の自律魔法のセットも作っておこうと思っていたし、いい機会と思うことにしようかな。
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「アルド、頑張れ!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
ブックマークもお願いします、
あなたの応援が、作者の更新の原動力になります!
よろしくお願いします!