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依頼


「新しい宿を探さないと……」


 前世の記憶が戻ってハイになりすぎた俺は、ついつい魔法の練習に没頭しすぎてしまった。

 そしてそのせいで宿の壁に穴を空けてしまったのだ。


 修復費用を払わされ、宿屋も追い出されたてふんだりけったりである。

 ……いや、まぁ完全に俺が悪いんだけどさ。


 このままだとすかんぴん一直線だ。

 金稼ぎがてら、自律魔法を試したいが……それよりまずは宿の確保からだな。


「師匠、おはよっす!」


「ん、リエルか……師匠呼びはやめろっていつも言ってるだろ。お前に教えたのいつだと思ってるんだよ」


 宿をたたき出すように追い出された俺がふらふらと歩いていると、親を見つけた雛のように一心にこちらに駆けてくる女の子の姿があった。


 赤みのある金髪を後ろで一つにまとめたこいつはリエル。

 現在Dランクの冒険者をしている、俺がかつて教導をしてやった相手である。


「そんなこと言っても、師匠は師匠っすから!」


「……はぁ、勝手にしろ」


「それなら勝手にさせてもらうっす!」


 冒険者はごろつきも同然なヤクザの世界だ。

 そのため古くさい仁義や礼儀なんてものが多数残っている。

 教導依頼もその一つだ。


 これは簡単に言うと、新人冒険者が死なないよう、ギルドからの依頼という形で先輩冒険者が後輩を仕込んでやるというもの。


 一応ギルドが依頼という形で出しはするんだが、こいつがとにかく人気がない。


 依頼自体ほとんど金にならないし(ギルドは基本的にはケチだ)、むしろ下手に育ててしまえば自分と食い扶持を奪い合うこともあるかもしれないと、誰もやりたがらない屈指の不人気依頼となっている。


 俺はこの教導を積極的に行う、奇特な人間の一人だった。


 ……別に大した理由があるわけじゃない。

 俺が新人の時は誰も教えてくれないせいで、死ぬような思いをすることも多かったからな。

 後輩にあんな思いをさせるのも……ほら、あれだろ。


「師匠は基本的にお人好しっすからね!」


「人の心を読むでない」


 ちなみに最初の頃俺が仕込んだやつの中には、既に俺を飛び越してBランクになったやつもいる。


 そういやぁフェイト、最近二つ名持ちになったんだったよなぁ。

 あいつ、今も元気にしてるだろうか。


「そういえば師匠、どうしたんすか? そんな大荷物で」


「……宿屋追い出されたんだよ」


「マジっすか……それならうちの『黄昏亭』に来ると良いっすよ! 今ならうちの隣の部屋も空いてるっす!」


 宿屋に穴を空けたと聞いて爆笑するリエルの頭を軽く小突きながら、彼女の勧めに従い『黄昏亭』に向かうことにした。


 荷物をさっさと置いて一週間分の宿泊代を払ったら、そのまま一緒にギルドに向かう。


 俺達が暮らしているルテキの街は、ほどよく魔物が出現してほどよく稼げる辺境だ。

 選り好みしないのなら、依頼はいくらでもある。


「久しぶりに一緒に依頼でも受けるっすか?」


「いや……俺はこいつにする」


 そう言って俺は、依頼の掲示板から一枚の紙をめくった。


「なんて書いてあるんすか、それ?」


「おお、そういえばお前文字読めないんだったな。俺が受けるのは――飛竜ワイバーンの巣の調査依頼だよ」

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