秘密
「ふむ、なるほど……そうだったのかぁ」
この世界では輪廻転生がわりと普通に信じられている。
なのでフェイトの方も、するりと腑に落ちたらしい。
「ゴブリンキングと戦ってる時に使ってたよね? 多分三つ……いや、四つ?」
「厳密に言うと五つだな」
「自律魔法を五つも!? もしかして先生の前世って、大貴族だったりした!?」
「そんな大した暮らしはしてないさ。生きるのに不自由せず、毎日風呂に入ったりはしてたくらいだな」
「何それ羨ましい!」
ちなみに、何一つ嘘は言っていない。
現代日本では普通の暮らしだったし、今世じゃなくて前世の頃には毎日風呂にも入っていた。
この世界では輸送コストなんかが上乗せされる分、木材の値段がかなり高い。
そのため湯を沸かすために大量に薪を使う風呂は、一種の高級品だ。
なのでこの世界では、風呂というと蒸し風呂のことを指したりする。
「でもなるほどなぁ、別に力を隠したりしてたわけじゃなかったんだね」
「当たり前だろ、力があったらさっさとランクを上げてもっとマシな生活してたっつうの」
フェイトのためにも、全てを馬鹿正直に話すべきではない。
この世界では相手が嘘をついていないかを確かめることのできる精霊魔法や、身体の筋肉の強張りから嘘を見抜けるイカれた武芸者なんてのがいるからな。
どっちもネームドの中でもかなり強力なキャラしか持っていないような絶技なので、普通に暮らしている限りはまず問題は起きないとは思うが……そこはほら、念のためってやつだ。
だからフェイトには正直に前世の記憶を取り戻したことを教えたが、異世界から転生してきたってことに関してはしばらくの間は誰にも秘密だ。
そこら変のゴタゴタは色々とめんどくさそうだからな。
マジキン知識を根掘り葉掘り聞かれるために貴族に飼われたりするのは、絶対に嫌だし。
あ、今回はきちんと伝えたけど、一応適当にはぐらかす場合には俺は貴族家の庶子ということを匂わせるつもりだ。
その際も嘘は言わずに、追及の手を切り抜けるつもりである。
俺とフェイトは肩が触れあうほどに距離を近づけながら、パチパチと弾ける炎を見つめていた。
「俺が前世の記憶を取り戻したことは、できれば誰にも言わないでくれよ」
「うん、言わないよ。たとえ拷問されても口は割らないから安心して」
「……いや、別にそこまでしなくていいぞ?」
今後戦っていけば、自律魔法の使い手であることはいずれバレる。
だから前世のことも何が何でも絶対に隠さなくちゃいけない秘密ってほどでもないんだが、どうやらフェイトは俺が想像していた以上に覚悟が決まっているようだった。
巨人族は信義に篤い一族だ。彼らは虚飾と嘘を何より嫌う。
フェイトがそう口にするのなら、きっとこいつは本当に拷問を受けても俺の情報を漏らすことはないだろう。
「このこと、他の人には言った?」
「……いや、言ってないな。リエルに自律魔法は見せたが、あいつには詳しい話はしてない」
「そっか、それなら……二人だけの秘密、だね?」
「ん、まぁ……そうだな」
リエルに自分の身を完全に守りきれるだけの力はない。
下手に巻き込むわけにもいかないから、あいつに詳しい話をするつもりはない。
その点フェイトは、俺より格上のBランク冒険者だな。
こいつならどうとでもなるだろうという安心感があるのも大きい。
それに……全てを一人で抱えて生きていけるほど、俺は強い人間でもないからな。
一人くらい、秘密を共有できるやつがいてもいいって思うんだ。
「きゅう……」
グレイトボアーの肉を食べきってしまったスカイが、もの悲しそうな声を上げる。
すると鳴き声に呼応するように、スカイのお腹がきゅうと鳴る。
隣にいるフェイトと二人で顔を見合わせて、どちらからともなく笑い合う。
こういう時間が、俺は決して嫌いじゃない。
「にしてもスカイ、急に大食らいになってない?」
「ああ、俺なりに考えたんだが……多分飛竜は魔力を使うと、腹が減るんだと思う」
普段のスカイは、そこまで大食らいではない。
けどあの一角ウサギと戦ってから、明らかに食欲が増進されていた。
マジキン内では空腹管理の概念がなく維持費という形でしかわからなかったが、多分飛竜は普段の燃費はさほど悪くはなく、魔力を使うと一気に大食らいになるんだと思う。
(そういえばスカイが吐き出してたあの魔力の塊はなんだったんだろうな?)
見た感じブレスともまた違うようだが、あれも要検証だ。
野性を親の腹の中に忘れてきたと思っていたスカイも、きちんと戦えるようで、正直ホッとしている。
「んじゃあ、そろそろ寝るか」
「えー、もう? まだ話してようよ」
「おっさんに無理言うな、きちんと休まないと明日キツいんだって」
巨人種は身体が精霊との親和性が高いせいか、人間よりショートスリーパーなやつが多い。
ちなみに飛竜のスカイは更にすごく、ほとんど睡眠を必要としない。
なので俺達はスカイに夜警を頼み、眠らせてもらうことにした。
次の日の朝、襲ってきた狼を食べて満足した様子のスカイの頭を撫で、出発する。
それ以降はそこまで大きなイベントが起きることもなく。
俺達は乗合馬車は使わず、そのままゆったりとしたペースで魔物を狩ったりしながら進んでいき、無事王都へと到着するのだった――。
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