王都
「アルドさん、おはようございます!」
「おおアルド、元気でやってるか?」
ゴブリン討伐が終わったことで、ギルドの中での俺の立ち位置が少し変わった。
以前は俺から積極的に声をかけにいかなければコミュニケーションも取れなかったんだが、最近ではぼつぼつとあちら側から話しかけられることが増えたのだ。
今までの俺への視線は、お世辞にもあまりいいものじゃなかった。
万年Cランク冒険者というのは、立場としては微妙だ。
なんだろう、前世知識を参考にするなら……同じ職場に居る係長止まりの年上の上司みたいな感じだろうか。
俺達も何も成せないと、あそこに行くのか……みたいな哀愁漂う視線を向けられたことは一度や二度ではない。
正直、向けられる側からしても困るんだよな。
けど今ではそこにいくらか、尊敬の視線が混ざっている……ような気がする(俺の希望的観測だったらめっちゃ恥ずいけど)。
やっぱりフェイトと力を合わせて特異種のゴブリンキング討伐をしたのが大きいんだろう。
アルドはフェイトにおんぶに抱っこで功績だけもらっただけだなんて揶揄したやつもいたが、そういう奴らはフェイトに模擬戦でボコボコにされたことでもれなく黙ったからな。
おかげで今では、最近実力上昇中のいぶし銀のCランク、みたいな扱いを受けるようになった。
実際ギルドからの評価も一気に上がったらしく、このままある程度強力な魔物の討伐ができるようになったらBランク昇格も現実的なラインまで来ているらしい。
できれば俺と相性のいい高ランク魔物が出ればいいんだけどな……などという怠惰な考えを頭に抱きつつ、適当に掲示板を見て回る。
冒険者生活が長いせいで毎日ギルドに来るのは癖になってはいるものの、今は別にそこまで金に困っているわけではない。
受けたいと思う依頼が出ていなければ、何も受注をせずに帰って自律魔法の魔法陣作りに励むつもりでいる。
強制依頼のおかげで懐はかなり温かいからな。
掃討戦で大量のゴブリン達を倒したのも結構な金になったが、何よりゴブリンキングの特異種の討伐金がとてつもなかった。
なんでも王都にいる魔物学者に高値で売れたらしく、金貨50枚近い値がついたのだ。
二人で倒した魔物はきっちり二等分とフェイトが頑なだったおかげで、今回の依頼だけで金貨40枚近い報酬になった。
あんなに大量の金貨を見たのは、今世では初めてかもしれない。
盗難が怖くなったので、大半はギルドの銀行に預けている。
利息がつかないのがちと渋いが、それでもパクられないというだけで安心度が違うからな。 ちなみにギルドはケチなので、親族の居ない冒険者が遺言を残さずに死んだ場合、遺産は全てギルドが接収することになっている……っと、今はそんなことはどうでもいいか。
依頼、依頼っと……やっぱりここ最近はゴブリンが色々と荒らし回ったせいか、比較的魔物が沈静化している。
これなら何も受けないで帰るか……と思った俺がギルドを出ようとすると、受付にいるルビーがちょいちょいっと手招きしてくる。
「どうかしたのか?」
世間話でもするのかと思ったが、予想の斜め上の答えが返ってくる。
「実はアルドさんに指名依頼が来てるんです」
「……人違いじゃないか?」
指名依頼というのは、簡単に言うと依頼主が依頼を受注する冒険者を選ぶ依頼のことだ。
たとえば貴族の令嬢を守る時には女性だけの冒険者がいいとか、今すぐ討伐する必要があるため絶対に失敗することがない高ランク冒険者を雇う……といった具合に、基本的に依頼主が必要に駆られて出すことの多い依頼だ。
その分だけ報酬が割り増しになるため美味しいものであることが多いが、基本的に名前の売れた冒険者にしか出されることがない。
「いえ、間違いなくアルドさんに来てますよ」
そう言って見せられた依頼書には、たしかに俺の名前が記されていた。
一体誰が……と思って見てみると、その名前には妙に見覚えがあった。
「ツボルト子爵からか……」
依頼の内容は、子爵の護衛だった。
なぜリーゼロッテ経由ではなくギルドを通して指名依頼という形で出してきたのかはわからない。
正直面倒だが、子爵にはスカイのことでいくつか貸しがあるからな……断るわけにもいかなそうだ。
どうやら子爵は今は王都にいるらしいので、受けるなら王都に行く必要がある。
(王都、か……)
今朝見た夢が、頭をよぎる。
たしかあいつは――エヴァは今も王都を拠点にして冒険者をしているはずだ。
……まぁでも、会うことはないだろう。
今じゃあAランクになって大陸中を飛び回ってるって話だし。
「わかった、受けよう」
せっかくだし久しぶりに、王都まで出てみるとするか。
馬車に揺られながらとなると魔法陣を描くのもキツそうだし……そうだ、いい機会だし、脳内魔法陣の自律魔法発動の練習を本格的に始めてみてもいいかもしれない。
ついでにスカイに狩りの練習もさせてみるか。
野生を忘れたこいつには、自分が飛竜であることを思い出してもらう必要がありそうだからな。
というわけで俺は子爵の指名依頼を受けるため、王都へと向かて出発することにしたのだった――。
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