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「ごめんなさい、アルド。でもやっぱり無理があったのよ、私達」


 くるりと振り返る、あいつの幻影。


 その光沢のある髪を撫でるのが、俺は好きだった。

 俺と同じ黒髪のはずなのに、俺の何倍も深みとツヤのあるその長髪は、彼女のチャームポイントの一つだ。


 ああ、俺はまた夢を見ている。

 それがわかっているのに、夢の中の俺はまた以前と同じ言葉を繰り返すことしかできない。


「それは俺が――弱いからか?」


「……違うわ。それはあなたが――」










 ガバッと上体を起こす。

 そっと胸を撫でると、身体が脂汗を掻いているのがわかった。

 カラカラになった喉を潤すため、水差しを手に取って水分を補給する。


「……どんだけ未練がましいんだよ、俺は」


 二十九年という歳月は、決して短いものではない。

 寿命が六十にも満たないこの世界では、人生既に折り返し地点に来ているといっても過言ではないのである。


 それだけ長い時を過ごせば、そりゃあ後悔の一つや二つはあるものだ。

 若い頃の過ちというのは、いつになっても胸に疼痛を残す。


 かつては届かなかった、手を伸ばすことができなかった彼女の背中。

 泣いて縋れば良かったんだろうか、自分の過ちを認めれば良かったんだろうか。

 そのどちらも、まだ年若い俺にはできなかった。


「きゅうっ!」


 スカイがパタパタと翼をはばたかせながら、こちらに飛んでくる。

 どうやら飛竜の成長はかなり早いようで、最初は頭に乗るほどだったスカイは一ヶ月足らずのうちに既に小脇に抱えるくらいの大きさに成長していた。


 そしてこいつ、デフォルメされた人形のような不思議な見た目をしているが、まだ生まれてからさほど時間も経っていないというのに、既にある程度空を飛ぶことができるようになっていた。


 見た目はかわいらしくとも、流石は飛竜の子なだけのことはある。

 最初は期待していなかったけれど、もしかするとそう遠くないうちに俺を乗せて空を飛ぶことができるようになるかもしれない。


「きゅうきゅう」


 スカイがペロペロと頬を舐めてくる。

 どうやら俺の体調を気遣ってくれているらしい。


 飛竜の中にはかなり高い知能を持つものもいる。

 どうやら特異種であるスカイもかなり頭はいいようで、こんな風に誰かを気遣うことまでえできる。


 その賢さと生来の人なつっこい性格が相まって、今では俺より交友関係が広いのではないかと思ってしまうほどに街の人気者になっている。


「大丈夫だ……どうせ考えても、詮無いことだしな」


「きゅっきゅっ!」


 スカイの顎下をくすぐってやると、気持ちよさそうに目を細める。


 無邪気に楽しそうなこいつのことを見ていると、心が少し軽くなるのがわかった。

 そりゃあ前世でも、アニマルセラピーなんてものがあったわけだ。


 現金なもので、落ち着いてくるとすぐに腹が減ってくる。

 朝飯に買ってきていたサンドイッチを頬張りながら窓を開ければ、既に朝になっていた。


 日差しを浴びながら、なんとなく外を見つめる。


「ふぅ……」


 陳腐で使い古された言葉だが……過去は変わらないが、未来は変えられる。


 今から駆け出せば、追いつけるのだろうか。

 いや、そもそもの話――俺は今でも、あいつに追いつきたいと思っているんだろうか。


 少しだけおセンチな気分になりながら、鎧を着て準備を整える。


 ――現在俺が暮らしている場所は、俺がリエルの隣部屋を借りていたあの『黄昏亭』ではない。

 以前、孵化を見守るためにリーゼロッテ様に借りたあの小屋が、今の俺の住まいになっている。


 ゴブリンキング討伐の報酬とは別に、副賞的な感じで、この小屋を相場より大分安く借りさせてもらっているのだ。


 スカイが大きくなってきたらまともな宿には泊まれなくなっていただろうから、この提案は俺としても渡りに舟だった。


 しかし、宿暮らしだった俺がこうして定住するようになるとは、思ってもみなかった。

 この小屋は一応ツボルト子爵家の持家なので、強盗なんかの心配もほとんどしなくてもいいのがありがたい。


 これだけまぁそのせいでリーゼロッテ様がスカイと遊びにやってきたりするので少し気持ちが落ち着かないが……それくらいは必要経費ってやつだ。


「よし、行くぞスカイ」


 世の中は世知辛い。

 生きていくためには金は稼がなくちゃならないし、死なないためには勘と身体を鈍らせるわけにもいかない。


 俺は冒険者ギルドへ向かうことにした。

 変わり始めた俺の変わらぬ日常が、今日も始まってゆく――。

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