力を合わせて
俺はフェイトの反応が弱くなるのを確認してから、脇目も振らずに全速でゴブリンの群れの中央へとやってきていた。
ちなみにここに来るまでに、ほとんど戦闘をせず魔力を温存している。
万全の状態でやってくることができたのは、『偽りの幻影』という自律魔法を使ったからだ。
こいつは簡単に言えば己の姿を偽装する魔法である。
腰を曲げ、大量にいるゴブリン達に紛れ込み同胞のフリをしながら近付かせてもらった。
フェイトが最大限注意を引いてくれていたおかげで、警戒されるされることなく至近距離から『魔力の矢』を打ち込むことができた。
にしても……かなりきわどいところだったな。
俺が近くまでやってきた時、既にフェイトは生きているのが不思議なほどにボロボロになっていたのだ。
巨人族の身体強化……しかも白の巨人族の回復効果つきでこれって……どんだけヤバいんだよ。
改めてゴブリンキングを確認すると……なぜかメラメラと燃えていた。
急いで来たからまったく気付かなかったが……こいつ、魔精魔法を使ってるのか。
マジキンにおいて、精霊は人や亜人といった人間側のユニットしか使うことができない。
魔物が使うのは魔物用の精霊魔法である魔精魔法だ。
魔精魔法は厳密に言うと精霊魔法ではなく、精霊と同じ道理で魔物が魔法を使っているに過ぎなかったりするんだが……まぁそのあたりの細かい話はおいておこう。
魔精魔法を使える魔物は、ランクが一つは上がる。
Bランクのゴブリンキングが魔法を使うとなれば……フェイトのこの様子にも納得だ。
あのゴブリンキングが使ってるのは……肉体に纏うタイプの魔法だな。
効果は身体能力と回復能力の底上げといったところか。
じゃなくちゃワイバーンすら気絶する『五行相克毒』を食らって意識を保ててるはずがないからな。
「GUUUUUU……」
ゴブリンキングは突如として現れた俺を警戒しているからか、左右に配下であるゴブリン達を並べながら胸に手を当てている。
ふらついているものの、意識はしっかりと保っている。
『魔力の矢』を引き抜こうとしているが、今回はしっかりと時間をかけて魔法陣を描いている。
身体を貫通すると同時に四方に複雑な形のかえしを張り巡らせる形にしているため、矢が消えるまでは無理矢理抜くのは不可能なはずだ。
このまま持久戦を仕掛けてもいいが……それは得策じゃない。
流石にこの数のゴブリンに人海戦術をされると、俺とフェイトが頑張ってもかなり厳しいと言わざるを得ない。
けれど、この世界では魔物にある特徴がある。
彼らは統率している上位種を倒すと、群れが散り散りになるのだ。
つまりゴブリンキングさえ倒すことができれば、このゴブリン包囲網から逃げ出すこともできるだろう。
さて、どう詰めていくか……。
頭の中でそろばんを弾き、勝つための手を浮かべては修正していく。
「フェイト、魔力の残量と身体の状態を教えてくれ」
「万全とは言いがたいかな……防御を考えずに全力の一撃を放てば、今のゴブリンキングならなんとか仕留められるかも」
流石だな。
劣化エリクサーを使ったとはいえ、万全にはほど遠い状態でそこまでいけるか。
「上等だ、道筋は俺がつける」
「ねぇ先生、あとで色々と教えてね?」
「細かい話は、この場を切り抜けてからな」
「約束だからね」
俺はフェイトの言葉には答えず、胸ポケットにある魔法陣へと魔力を流す。
発動させるのは、新たな自律魔法。
ゴブリンキングまでの道筋を生み出すその魔法の名は――
『千編の鎧』
魔力によって生み出された、光の鎧。
周囲からの干渉を拒絶する小さな魔力障壁を多重に重ね合わせることで発動させる、文字通りの魔力の鎧だ。
「行け!」
「うんっ!」
フェイトは迷いも疑いもせずに、真っ直ぐに進み続ける。
つまりはそれだけ俺のことを信じてくれているのだ。
だとしたら俺も――その期待に応えなくっちゃな!
「『偽りの幻影』」
ゴブリンキング目掛けまっすぐに駆けていくフェイトの姿を、風景と同化させる。
ゴブリン達はすうっと背景に溶けていくように消えてゆくフェイトのことを見失った。
それに対応ができたのは、胸に手を当てながらも闘志を衰えさせていないゴブリンキングだけ。
「GURAAAAA!!」
ゴブリンキングがその身に纏う炎を鳥の形に変化させ、真っ直ぐにフェイト目掛けて魔法を放つ。
攻撃を受ければ『偽りの幻影』は解除されてしまう。
フェイトの姿が露わになる……が、その身体に触れる前に炎鳥はかき消されていった。
『千編の鎧』の効果は単純だ。
一度だけ、どんな魔法攻撃も無効にしてみせる。
たとえ龍すら殺す必殺の一撃であっても、それが魔法攻撃であれば無効化してみせる。
フェイトとゴブリンキングへの距離が近付いていく。
けれどまだその前にはゴブリン達が肉壁となって並んでいた。
あとはあいつらをどかすだけだ。
大量のゴブリン達をどかすための魔法も、きっちりと用意してある。
「『茨の棘』」
フェイトへと向かおうとするゴブリン達の足下に『茨の棘』を出現させる。
走り始めたゴブリン達は突如として現れた透明な茨に足を取られ、転んでいった。
今回は大勢のゴブリンを足止めできるように、攻撃力の部分の記述を削り、その分だけ効果範囲を広げている。
効果範囲をギリギリまで広げていたおかげで、なんとかゴブリンキングの前に並んでいたゴブリン達をまとめて引っかけることくらいならできた。
自律魔法には、精霊魔法のような派手な威力はない。
けれどこうして誰かと力を合わせることさえできれば……
「その力は、王にも届く――」
足を取られているゴブリン達の頭上に影がかかる。
大きく助走をつけたフェイトが、ゴブリン達を飛び越えゴブリンキングへと飛びかかったのだ。
反動をつけ、勢いをつけ、身体のバネと推進力を加えて放つ全力の一撃。
「どっっっっせええええええええええいいっ!」
フェイトのこぶしが、ゴブリンキングの胸を強かに打ち付ける。
そしてゴブリンキングは――攻撃をもらい、そのまま勢いよく後方へと吹っ飛んでいった。
一瞬の静寂。
本来なら王を守るはずのゴブリン達も、呆気にとられたように動きを止めている。
そしてゴブリンキングがわずかに身体を動かすと、そのまま地面に倒れ込み……そして二度と起き上がることはなかった。
「――ブイッ!」
フェイトがこちらにピースサインを向けてくる。
俺は少し気恥ずかしく思いながらも、彼女にピースを返す。
おっさんにやらせるんじゃないっての。
「ギッ、ギギャアッ!」
ゴブリンキングが敗れたことで、ゴブリン達が千々に散っていく。
ここから先は掃討戦だ。
今後の治安のことを考えれば、一体でも多くゴブリンを倒しておいた方がいい。
俺達は息つく暇もなく、戦闘を再開した。
俺が改造した『茨の棘』を使って足止めをし、その間にフェイトがゴブリン達を一網打尽にしていく。
二人の相性は驚くほどにぴったりと合い、みるみるゴブリンの死体が築き上げられていった。
それを見て驚く冒険者達を見てフェイトと笑い合いながら、ゴブリン狩りを続けていく。
こうして俺達は無事強制依頼を達成させ、街の平和を守ることができたのだった――。
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