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巨人族の少女 後編


【side フェイト】


「おおおおおおっっ!!」


 殴る、蹴る、吹き飛ばす。

 乱打のことごとくを命中させながら、相手に息つく暇を与えさせない。

 それが僕の戦闘スタイルだ。


 右で放つフックで吹っ飛ばし、左足が放つ蹴りがそれを地面に縫い止める。

 肘打ちを放てばゴブリンキングは地面にめり込み、一撃を食らう度にその口から胃液混じりの唾液が飛び出す。


「GURUU!!」


 ゴブリンキングが手に持っている黒い大剣が、その叫び声に呼応するかのようにドクンと脈動していた。


 恐らくは魔法効果の籠もった剣――魔剣だろう。

 ゴブリン達にやられた間抜けな冒険者からぶんどったに違いない。


「まったく、敵に塩を送るのは勘弁してほしいよ。そのしわ寄せを食らうのは僕達同業者なんだから……さっ!」


 人外の膂力に任せて振られた剣は、あまりにも直線的だ。

 身体をほんの少し動かして避け、すれ違いざまに一撃を叩き込む。


 常にラッシュを食らいながらの一撃では、十分な威力も出ていない。

 大した脅威じゃないねっ!


 大ぶりの一撃を避け、混ぜられる細かい一撃を致命傷を受けないよう上手く逸らしながら捌いていく。

 その間にも攻撃の手を緩めはしない。


 いくら人間の何倍もの身体能力を持つ巨人族と言っても、当然ながらその力強さもタフネスも、魔物には敵わない。

 傍から見れば圧倒しているように見えても、その実は逆。

 むしろ厳しいのは僕の方だった。


(しっかし、なんだよこれ……鉛でも叩いてるみたいだ)


 ゴブリンキングに攻撃はきちんと入っている。

 ダメージは間違いなく蓄積されているはずだ。


 けれどとにかく……手応えがない。

 こいつはとにかく硬いのだ。

 肉体の強度が高すぎるせいで、殴っている僕の拳の方が悲鳴を上げている。


「ふうぅぅ~~っ、でも、望むところ!」


 殴り、蹴り、反動をつけて頭突きを放つ僕の身体から、シュウシュウと煙が上がっていく。


 ゴブリンキングの剣によってつけられた傷が、殴り蹴ったことによって生じた打撲や破れた皮膚が修復されていく。


 煙が消えた時には既に傷はまるっとなくなっており、消えた側から新しい傷が刻まれていた。


 ――僕達巨人族は、その特徴から六つの種族に分かれている。

 そして僕は、白の巨人族の生まれだ。


 白の巨人族は瞬発力に長けた赤の巨人族ほどの攻撃力はなく、橙の巨人族のように防御力に長けているわけでもない。

 白の巨人族の最も優れた点は、その持続力にある。


 僕達は攻撃をすればするだけ、己の傷を癒やすことができる。

 攻撃は最大の防御という言葉があるけれど、僕らの種族特性はそれを地で行くものだ。


 だから僕は一気呵成に攻め立て続ける。

 いくら殴り倒しても、ゴブリンキングは不気味に起き上がってくる。


 ゴブリンキングがBランクの魔物なのは、その取り巻きや統率能力も含めてのことだ。

 本体の戦闘能力は、Cランク冒険者パーティーでも討ち取れる程度のものでしかない。


 戦闘の際には当然取り巻き達の妨害や助太刀が入るため、ランクが本来より一つ高く設定されているのである。


 けれど今回、僕は一度も他のゴブリン達からの妨害は受けていない。

 まるで僕とゴブリンキングの戦いを観戦しているかのように、遠巻きに見ているだけだ。


(それにそもそもの話、僕の拳と打ち合って刃こぼれ一つしない魔剣をただのゴブリンキングが得られるものなのかな……?)


 僕は剣筋を逸らすために大剣の腹を叩き、柄を折るために握っている手ごと蹴りを入れた。

 けれどそれでも魔剣はびくともしておらず、小さな傷の一つもついていない。


 いくつもの違和感が重なれば、それは確信に変わってゆく。


(こいつは本当に……ただのゴブリンキングなのかな?)


 僕は実際にゴブリンキングを見たことがあるわけじゃない。

 けれど少なくともゴブリンキングは、こんな風にBランク冒険者である僕と真っ向からやり合えるほどの力はなかったはずだ。


 だとするとこいつは、一体……?


 そんな風に戦闘と関係ないことを考えていたからかもしれない。

 ゴブリンキングがボッとその全身から炎を噴き出した。


 ――馬鹿なっ!

 ゴブリンキングは魔法が使えないはずだ!


 けど目の前で燃えている炎を見れば疑いようもない。

 あれは間違いなく火精魔法だ。


 そのあまりの熱の高さに、思わず後ずさる。

 するとその瞬間、攻守が完全に逆転した。


「GRAAAAA!!」


 ゴブリンキングが大声を発すると同時、今まで傍観に徹していたゴブリン達が一斉にこちらに向けて攻撃をし始める。


 ゴブリン達が得物を以てこちらへ駆けながら、後ろからは投擲と魔法が降り注ぐ。


 全身が切られ、炙られ、集中力を削がれそうになった。

 けれど一度意識を周囲に向ければ、その瞬間にゴブリンキングの魔剣の餌食になるのは間違いない。


 勘を頼りに周りのゴブリンを蹴散らしながら、傷をできた側から回復させていく。

 けれどそれでも収支はギリギリマイナスだ。

 深い一撃を受けてしまえば治しきれるかはかなり怪しい。


「GOOOOAAAA!!」


 炎を纏ったゴブリンキングは、ただ炎を噴き出し強引に距離を離してみせるだけではなく、先ほどまでより明らかにその速度と攻撃力を上げていた。


 この現象にはひどく覚えがある。

 これは……巨人族の使う身体強化に似ている?


 身体強化と火精魔法を使いこなすゴブリンキングだなんて聞いたこともない。

 こいつは間違いなくゴブリンキングの特異種。


 となると討伐ランクは更に一つ上がってAランク……たはは、かなり厳しい戦いになりそうだ。


「けど僕は負けない……負けられないっ!」


 巨人族にとって、強者と戦うことこそ何よりの誉れ。

 僕の意識は研ぎ澄まされ、攻撃は自分でもわかるほどに威力が上がっていく。




 とうとう僕の治癒力を、与えられるダメージが超え始めた。

 癒えきらない傷をゴブリンキングの炎で強引に止血しながら、飛び膝蹴りをぶちかましてやる。


 大剣を使って防がれるが、とうとう大剣の耐久度に限界が来たようでぴしりとヒビが入る。

 それを見たゴブリンキングは、小さく唸ると後ろに下がる。


 そして後方に下がった状態で、大量のゴブリン達を僕に向かわせて時間を稼ぎながら、火精魔法行使のための発動準備を始めている。


 おいおい、せっかく楽しくやり合ってたのに、得物が壊れたらすぐに終わりかい。

 なんだよ、つまらない。


 ほら、こっちを……もっとこっちを見ろよ!


「ガアアアアアアアアアッッ!!」


 獣のような声を吐き出しながら、僕に群がってくるゴブリン達を引きちぎり、壊し、潰していく。

 ゴブリン達が仲間の血を浴び、一歩下がった。

 ふぅん、ゴブリンにも恐怖とかってあるんだね。


 邪魔なゴブリン達を潰して回っていると、後ろから炎の蛇が僕に絡まりついてくる。

 ゴブリンキングの火精魔法だ。


 振りほどこうと掴むと、一瞬で僕の手のひらの皮膚が炭化する。

 とてつもない熱量だ……でも負けないよっ!

 身体強化、全開ッ!


 僕は強引に蛇を引き剥がしてみせた。

 全身にはミミズ腫れができており、手のひらの回復は追いついていない。

 握りこぶしを作ると、火傷がじくりと痛み、血が滲んだ。


 これは……ヤバいかな。


「けど巨人族は誰を相手にしても臆することはない! 差し違えてでも、殺してやる!」


 僕はゴブリンをなぎ倒しながら、こちらへ再度魔法を放とうとするゴブリンキングへと突き進んでいく。

 全身からは血が流れ出し、意識がもうろうとし始めた。


 そしてゴブリンキングの目の前までやってきた瞬間……ふっと全身から力が抜けるのがわかった。

 身体強化を使いすぎたことによる魔力の限界と、酷使しすぎたことによる肉体の限界。


 僕は一瞬のうちに残っていたゴブリンリーダーに取り押さえられる。


 弱い自分が情けない。

 戦い、そして負けることは何も恥ずべきことではないけれど……やっぱり悔しい。

 それに……こうして死ぬとわかると、後悔が頭をよぎった。

 こんなことなら、さっさと先生に……


「GUAAAAA!」


 ゴブリンキングは火精魔法を放つと同時、その大剣に再び手をかける。

 そしてゴブリンリーダーごと断ち切ろうと、剣は振り下ろされ――。


「隙だらけだぜ」


 聞こえてきたのは、妙に聞き覚えのある声。

 少し低めで、聞いていると落ち着く僕の大好きな人の声。


「GU……OOOO!?」


 ゴブリンキングの胸の先から、一本の真っ白な光の矢が生えていた。


 そして次の瞬間、僕を押さえつけていたゴブリンリーダー達は吹き飛ばされる。

 すぐ目の前に影が現れると、僕の全身に何かが振りかけられた。


 先ほどまで流れていた血が止まり、尽きていたはずの活力まで湧いてくる。


 グッと力を入れて、起き上がる。

 そこには――油断なく剣を構えながら、僕のことを守ってくれているアルド先生の姿があった。

 思わずトクンと、胸が高鳴る。


「チッ、マジかよ。五行相克毒(カンタレラ)を食らっても動けるのか……」


 あの魔法を……アルド先生が?

 あれってもしかしなくても……自律魔法だよね?


 どうやら先生は僕が知らないうちに、ずいぶんと強くなっていたらしい。

 こりゃあ……僕も無様な姿は見せられないな。


「行くぞフェイト。二人がかりであいつを倒す」


「――任せてッ!」


 こうして僕は再び拳を握る。

 先ほどまで感じていた不安は消えていた。


 大丈夫だ、何も問題はない。

 だって先生と二人でなら……誰が相手でも、負ける気がしないから!


【しんこからのお願い】


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