巨人族の少女 中編
【side フェイト】
種族特性の都合上薄い服を着ることの多い僕は、異性からすると魅力的に見えるらしい。
当時はまだ未成年で体格が華奢だったこともあり、僕は難度もギルドで同業者からちょっかいをかけられ、そのせいで色々と面倒を起こしていた。
荒事しかできない僕には冒険者くらいしか生きていく道は残っていないにもかかわらず、僕は既に二度の警告を受けており、あともう一度もめ事を起こせばギルドを除名されてしまうという崖っぷちに追いやられてしまっていたのだ。
それもこれも人間が弱いせいだ。
だってちょっと力を出しただけで死にかけたりするんだもん。
だから悪いのは僕じゃない。
当時の僕は、わりとこんな風に本気で思っていた。
そんな僕を見かねて受付嬢のお姉さんが助言をしてくれた。
このアドバイスのおかげで、僕の運命は大きく変わることになる。
「フェイトさん、もしよければ教導依頼を出してみませんか?」
「……キョードー依頼?」
教導依頼というものがある。
これは後輩冒険者がギルドを通す形で先輩冒険者から冒険者としてのイロハを叩き込んでくれるというもの。
けど正直なところ、僕は先輩冒険者から何かを教わる気はなかった。
巨人族としての僕の生き方が、自分より弱い人間から何かを教わることを良しとしなかったからだ。
断ろうとしたのだけど、ギルド職員の方も僕のことを思っていってくれているのはわかっていた。
なので一度だけ、我慢して受けてみようと思ったのだ。
ただし受けるにあたって一つだけ、条件をつけることにした。
それは……僕よりも強い人であること。
既にDランクまで昇格していた僕は、当時でもかなり期待のルーキーだった。
そんな新人の生意気な条件に、誰も手を挙げる人はいなかった――お人好しの、立った一人を除いて。
「よぉ、お前がフェイトか」
アルド先生はそのまま挑発的な態度を取る僕を引き連れ、闘技場へと向かっていく。
そして僕らは真っ向からぶつかり合った。
結果は――引き分け。
僕の攻撃は全て空振るが、対して先生の方も決定打を与えられることができず、泥仕合の末のドローだった。
「はあっ、はあっ……やるな、流石期待のルーキーだ」
「いえ、それほど、でもっ……」
結果は引き分けだったけれど、僕は目の前の人物が自分より強いと認めずにはいられなかった。
力は身体強化の使い手でも下から数えた方が早く、剣術の腕も生粋の剣士と比べれば劣る。 けれど先生の戦い方とその技術は、とてつもなく洗練されていた。
経験に裏打ちされ、現実をしっかりと直視しているからこそ使える実践の剣術。
彼に何一つ負ける要素はないはずなのに、僕は勝負を決めきることができなかった。
僕は先生を見て、巨人族が負けて平原を追われ、雪山に閉じこもるようになった理由を本能のうちに理解した。
技術の研鑽と、現実を直視し努力を怠らないための勤勉さ。
それは他人や異種族を下に見るだけで現実から目を背けている僕達白の巨人族に欠けているもので。
実戦で戦えば十中八九僕が勝つだろう。強さという意味合いで言うのなら、僕の方が強いはずだ。
けれど僕は自分にないものを持っている目の前の彼の言うことなら、素直に聞いてもいいという思えた。
そしてその直感は、間違っていなかったのだ。
「おい、突っかかられたからっていちいち相手をするな! 輩の声なんぞ無視してればいいんだ!」
「もしやるなら向こうから先に手を出させるんだ。お前の場合武器が要らないから、街中では正当防衛を成立させてから戦うように心がけよう」
「採取依頼を笑うやつは採取依頼に泣くんだぞ。せめてこの辺りに生えている毒草くらいはきっちりと暗記しておくんだ。毒は有効な攻撃手段だし、造詣が深ければ解毒薬だって作れるようになるからな」
口うるさくてお節介を焼かれるのに最初は辟易としていたけれど、アルド先生が必要以上に事細かく教えてくれたからこそ、僕は人間の風俗や街の仕組みをきちんと理解できるようになった。
理路整然とした説明を受ければ、納得はできなくとも理解することはできる。
本来よりかなり長いこと期間を延ばしてもらった教導依頼のおかげで、今の『不倒』のフェイトは形作られた。
アルド先生と別れた後は、一人で冒険者の荒波を渡ってきた。
ギルドという人の組織を理解できれば、後は簡単だった。
何せ僕は強い、そしてかわいい。
巨人族ではまったく武器にならなかった美貌も、人間の世界では時に何にも勝る武器になる。
頭角を現し、問題を起こさずにランクアップをするのはさして難しいことではなかった。
頑張ってCランクになった時は、これで先生に追いつけたと嬉しくなった。
それを超えてBランクになった時は、流石に申し訳なさが勝っちゃったけどね……。
なんにせよ僕は一人前になることができたのだ。
依頼を受け久々にルテキの街に向かうことになった。
こんなに立派になったのは先生のおかげだと伝えようとしたら、なんとびっくり、先生の側には別の女の子が居た。
たしかに女の子は強い男に引き寄せられるもの……でもそれなら僕だって負けない。
強い女の子は、男を引き寄せることだってできるんだから。
……って、それは巨人族の道理だった。
にしても先生、なんだかちょっと雰囲気が変わったような……?
闘争を求める巨人族の血が、先生の中にある何かに反応するのがわかる。
もしかすると先生も、Bランクに上がれるだけの何かを手に入れたのかもしれない。
そうしたら一緒に、大陸中を回ったりできるかもしれない!
そして僕は強制依頼を受け、先生を始めとする冒険者達の援護によって体力を温存したままゴブリンキングを視界に捉えることができた。
「ふうぅ……よし、やろうか」
「GUUOOOOOOOOO!!」
ゴブリンキングが背中に背負っていた黒い大剣を抜き、構えようとする。
ふふん、そんな隙は与えてやらないよ。
強化魔法を全快で発動させ――そのままゴブリンキングの顔に、全力の右ストレートをぶちかます!