巨人族の少女 前編
【side フェイト】
僕は小さい頃、父さんからこう教わってきた。
「誰かを守ってあげられる、優しい人になりなさい」
父さんは非常に優れた戦士だった。
同じ集落の中で父さんより大きな獲物を狩ってこれる人はいなかったし、実際父さんは誰よりも強かった。
けれど父さんのいう人というのは、僕達白の巨人族のことだけを指している。
その優しさは同じ巨人族であっても、たとえば赤の巨人族や青の巨人族には振る舞われない。
いわんや、純粋な人間種をや。
父さん達は酔っ払うと、人間達のことを巨人族特有のスラングで罵ることが多かった。
そんな環境で育ってきた僕もまた、同族に優しくするのは当然のことで、その優しさは全てを同族の人間に向けるべきだとばかり考えるようになった。
けれど僕はある日、行商にやってくる人間種を見てふと疑問に思ったのだ。
僕達白の巨人族は……一体どうしてこんなへんぴな地に住んでいるんだろう?
僕の暮らしている集落は、雪山の山頂付近の極寒地帯にあった。
身体強化を使えるから寒さを気にせずに過ごすことはできるんだけど、それでも身体が冷えればその分だけ動きは鈍る。
あまり物事を知らない僕でも、滅多なことでは商人も来ず、ほとんど自給自足で暮らしているこの村が田舎であることくらいはわかる。
どうして僕らはこんなに強いのに、雪山暮らしに甘んじているんだろう。
父さん達大人の巨人族の人達が言う通りなら、僕らは人間よりはるかに強い。
それならこんな暮らしにくいところに甘んじなくとも、人間達から平地をぶんどって極寒の地に追いやっていたっていいわけだ。
けれどその話をすると、皆は揃って口を噤む。
これは何かある……子供ながらにそう直感した僕は、成人するよりも前に、親の目を盗んで雪山を抜け出した。
この世界の真実を知るために。
雪山を抜けて荒野に出て、更にあるいて平原へ。
街道を見つけて街にたどり着くまで、出会った魔物達は皆鎧袖一触で倒すことができた。
たしかに父さん達の言うとおり、平原の魔物は弱い。
これならあっという間に最強になって億万長者だ。
そんな風に考えていた僕は、しかしその鼻っ柱をすぐに折られることになる。
「あーっ、もうわけわかんないよ!」
人間の暮らすルテキの街の仕組みは、巨人族として育てられた僕には非常に複雑だった。
まず戸惑ったのは、街がそもそも物々交換じゃないってこと。
わざわざ一旦貨幣とかいう金属に変えてから、物を買わなくちゃならないのだ。
なんでそんな面倒くさいことをしなくちゃいけないというのか、本当に意味がわからない。
それと、狩りの腕がすごいからといって全てが免除されるわけじゃないのも厄介だ。
狩りの腕さえあれば他人をぶん殴ろうが許される力こそ全てな巨人族とは何もかも違う。
それに……何より人間は皆弱い。
たしかに今の僕より強い人はいたけれど、それはまだまだ僕が成人すらしていないから。
しっかりと鍛えれば追い抜くビジョンは見える。
けれど、そんな風にわりと人間を舐めている僕も、たった一人だけ尊敬している人がいた。
その人こそが――
「おいフェイト、そう物にあたるな。そんなことをしても何も解決しないぞ?」
僕のたった一人の師である、アルド先生だ。
短めですので、本日もう一話投稿致します。
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