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少年、勇者パーティーを追放される

「あの子この前勇者の仲間として街に来てた子だよな……」


 森に生息する魔物の討伐の依頼の帰りにボロボロになって気絶している男の子を見つけた。とりあえず宿に連れて帰り話を聞こうと思ったがなかなか目を覚まさない。


「どうしようか……」


 一向に起きないので一旦放置で依頼の達成を報告しに行くことにした。


「あれ?僕は確か……」


 あれから報酬を受け取ったりなどして、部屋に戻るとちょうど目が覚めたのであろう男の子が辺りを見回していた。


「やっと起きたのか」


 俺の言葉にビクッと反応する男の子。


「あ、あなたは?」


「俺か?俺はロウだ。お前が道端で倒れていたからな、俺が普段使っている宿に運ばせてもらった」


「ありが……痛っ」


 俺にお礼を言うために立ちあがろうとしたが怪我のせいで上手く動けないようだ。


「ポーション買ってきたから使いな」


 俺はそう言って報酬受け取るついでに買ってきたポーションを渡す。男の子は遠慮しようとしていたが無理矢理ポーションを持たせる。


「本当にありがとうございました」


 ポーションで治療した後に男の子は俺に頭を下げる。


「この恩は必ず返させてもらいます」


 そう言って男の子は立ち上がった。このままここを出ていくつもりだろうか。先程まで眠っていたとは言え疲労の色が見て取れる。最低でも今日はこの宿にいてもらおう。


「この時間帯なら人はいないし風呂に入ってきちゃいな。ポーションで傷は無くなったけど血の跡とかは残ってるし。先にお金は払ってあるから入らないと損だぞ」


 どうせ遠慮するだろうしお金は払ってあると伝えて入らない選択肢を無くす。


「あの、ロウさんは……」


 俺も入るのかということだろうか。見知らぬ人が一緒に入るのはリラックス出来ないだろうから遠慮させてもらおう。


「俺は後で入るから良いよ。戻ってきたらご飯にしよう。ここ広いし地図もらっといたから使って」


 地図を渡して男の子を風呂場へと向かわせる。もう既に太陽が沈んだ後だし風呂から出てご飯食べれば出歩ける様な時間じゃなくなるか。そしたら今日はここに泊まっていくはずだ。



 男の子が風呂から帰ってきた後、そのまま飯へ行こうとした俺を引き止めた。


「僕の話を聞いてください」


 男の子の真剣な表情に俺も向き合う。内容は薄々勘付いている。


「僕はエルって言います。僕の方から名乗らなきゃいけないはずなのにごめんなさい」


「別に気にすんな」


「僕は元々勇者パーティーにいました……」


 そこからエルの話が始まった。要約すると幼馴染が勇者として選ばれ、なんやかんやあって自分もパーティーに参加することになったが実力が足りおらず足手纏いに。少しでもみんなを手伝える様にと雑用をやっていたが先日ついに仲間の一人に出ていけと言われたと。


「まあ、合理的な判断ではあるな」


 雑用をやっているとはいえ足手纏いなのは変わらない。普通のパーティーならまだしも魔王との最前線で戦う勇者パーティーならなおさらだ。


「僕は雑用をやっているから手伝えていた気になっていた自分に腹が立ちます。僕は強くなりたい」


 強い瞳でそう宣言するエル。


「だから全部1からやり直そうと思って最初の街まで戻ろうとしてたらお金がなくなっちゃって……」


「それで、あそこに倒れてたってわけか」


「あはは……」


 俺は溜め息を吐く。正直もうちょっと重い話かと思ったら全然違った。勇者パーティーを追い出されたところまではともかくそれ以降は完全にエルがポンコツだったせいだ。


「まあ、大体わかった」


 そうか強くなりたいか……


「俺が教えられる範囲のことなら教えようか?」


 エルの強さがいまいち想像つかないが俺は前に街に来た時の勇者よりは強いし教えられることもあるだろう。そんな軽いノリで言ったらエルが黙り込んでしまった。


「どうして……」


 エルが言葉を紡ぐ。


「どうしてロウさんはそこまでしてくれるんですか?」


「特に理由なんて無い!」


 俺は本音で答える。


「えっ」


 エルが驚いた様子でこちらを見た。そりゃそうだよな。何の見返りも無しにここまでするとか俺でも疑うし。


「実際ないものは無いしな。強いていうならここまでやっといて突き放すのも無責任だからかな」


「そんな、こんなに良くして貰ったのに感謝することはあっても文句を言うことなんてありませんよ!」


 そう言われてもこれは俺の価値観だからな……


「じゃあ仲間が欲しかったからで」


「仲間が?」


「そう。もう10年近く冒険者やってるけど流石に一人は厳しくなってきたからな」


 主に寂しいという面で。


「元とは言え勇者の仲間だったやつが仲間に加われば希望者増えそうだし」


 まあ、今パッと思いついたやつだけど。


「というかそんなことエルが気にする必要ないだろ。エルには多分損ないし」


「でも、申し訳なくて……」


「何を言おうともうエルは俺の仲間な。恨むんだったら俺に気づかれる様なところで倒れてた過去の自分を恨むんだな」


 俺の言葉に観念したのか諦めた様子のエル。


「とりあえずロウさんが底なしのお人好しだってことだけはわかりました」


 お人好しの自覚はあるけど治そうと思って治るものでもないし別にそれで損をしたと思ったこともないからな。


「俺の目にはお前も同類に見えるけどな」


 普通だったら断る理由なんて特に無いのにわざわざ申し訳ないからって断ろうとするエルも大概だろう。


「類は友を呼ぶってやつですかね」


「何だそれ?」


「勇者が前に言ってたんですよ。意味は『似たような人は自然により集まる』だったはずです」


「ははっ。違いねえ」


 話をしていたら大分時間が経ってしまった。お腹も空いたので食事にしよう。


「飯食いに行くぞ。言っとくが遠慮はするなよ。明日からはきつ〜いトレーニングが待ってるんだからな」


「わかりました。久々のご飯だからいっぱい食べちゃいますね」

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