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マジカル CITY POP!  作者: 地球と月と天王星が紡ぐロマンスを見上げて夢抱いた少年は空っぽの世界で文字だけを追い続けた
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E 無関心天使

大都会クリスタルクイーン、ギルド西方支部。

そこで受付を担当している者にキツネの半獣人がいる。

名前はヤス。

目が糸みたい。耳は綿のよう。

大きなモフモフ尻尾が同僚から邪魔に思われている。


ヤス「よ、しらせ」


しらせ「よ」


ヤス「二人も元気してたかい」


朴「気安く話しかけないで下さい」


スケキヨ「俺は元気」


ヤス「スケキヨ、これやるよ」


スケキヨ「チョコじゃん!さんきゅ!」


ヤス「朴さんは相変わらず冷たいね。僕ら同じ半獣人じゃないか」


朴「あなたはナチュラルに他人を見下す嫌な奴なので」


ヤス「それはお互い様だろう」


朴「そろそろ、まともな仕事もらえますか?あなたがくれる仕事はいつも厄介で危険なんですよ」


ヤス「厄介で危険な仕事を率先してこなすのがリクルートの役目。違うかな」


朴「それにしても限度を超えています」


ヤス「そんなことないさ。碌でもない奴にはロクでもない仕事がお似合いだよ」


朴「はい本性あらわした。しらせさん、このひと本性あらわしましたよ」


しらせ「仲良いね」


スケキヨ「マブダチじゃん」


朴「餌付けされた犬は黙ってなさい」


スケキヨ「犬じゃねーよ狼だ」


しらせ「で、仕事は?お金になるやつちょーだい」


スケキヨ「キツい仕事の原因こいつだろ」


しらせ「こら!また目上の人に向かって」


スケキヨ「こいつって言うな」


しらせ「そう」


スケキヨ「分かってる」


しらせ「いい子」


ヤス「今日は、こちらを任せよう」


しらせ「凶鬼の討伐依頼。久しぶりね」


ヤス「浄土村で行方不明届けが二つ。近くで目撃情報が四つ出ている」


朴「村に出るとは珍しい」


しらせ「そこのリクルートに任せなさいよ。こっちは、わざわざお金のために都会まで出てきてんのよ」


ヤス「浄土村のリクルートが行方不明だから、あんたらに任せるんだよ」


しらせ「なーる。ヤバ案件ね」


朴「ほらやだもー」


ヤス「十三時にホオズキさんが向こうの東支部を訪ねる。待ち合わせてくれ」


しらせ「うっわ……最悪」


朴「安請け合いするからです」


ヤス「天使と仕事をすることなんか滅多にない。これは当たり案件だよ」


朴「私達が天使と揉めているのはご存知でしょう」


ヤス「え?噂では仲良いらしいじゃないか」


しらせ「こいつだけ」

スケキヨ「こいつだけ」


ヤス「…………」じっ


しらせ「確かにマブダチよ。けど、命を狙われる可能性あり」


ヤス「がんば!」にこ


しらせ「私もこいつ嫌いかも」


スケキヨ「目上の人にこいつって言っちゃダメだぞ」


しらせ「うるせえ!」


スケキヨ「ああん!?」


ヤス「はい行った行った。後ろがつかえてるからね」


ホオズキ。

天……以下略。

三日連続、天使と殺し合いに。

彼女は光と闇の魔法を行使する。

何に対しても無関心で淡々と命令に従うだけに攻撃も的確だった。

回避不能の光子、自由剥奪の暗黒。

しらせは全ての感覚を奪われ手も足も出ないどころか手も足も一瞬でバラバラにされた。

塵ひとつ残らなくとも攻撃は止まない。

魂が完全に消滅するまで、何度でも再生を待って殺人を繰り返す。

しらせはこの情け容赦のない頑固天使を一番苦手に思う。

死が十を数えて早くも我慢の限界を超えた。


しらせ「おまえ、いい加減にしなさいよ!」


ホオズキ「威力を調整しろということ?」


しらせ「それ拷問でしょう。いっそ一思いに殺してくれた方がマシよ」


ホオズキ「では攻撃を再開する」


しらせ「待て待て待て待て待てーい」


ホオズキ「何?」


しらせは前の二人から学んでいた。

懺悔を聞く神父さんよろしく、彼女たち天使もまた話を聞いてくれることを。


しらせ「どうして私達を殺す必要があるの?」


ホオズキ「危険な存在は天使が救済の慈悲を与える。そういう命令」


しらせ「何が危険だってのよ」ぷんすか


ホオズキ「強大すぎる神の力を行使して犯罪を繰り返すことを反逆行為とみなす。すなわち君達は神に仇なす反逆者になる」


しらせ「やだあもう。そんな悪いことしてませんてばー」


ホオズキ「神は全てお見通し」


しらせ「くっ、覗き魔め」


ホオズキ「侮辱も良くない」


しらせ「はい。ごめんなさい」


ホオズキ「では攻撃を再開する」


しらせ「相談があるの」


ホオズキ「何?」


しらせ「私達に更生のチャンスを下さい」


ホオズキ「分かった」


というわけで、しらせが頭を下げた甲斐あり、三人は執行猶予みたい状況なのである。

さて、現在に話は戻る。

ここは浄土村にあるギルド東支部。


ホオズキ「同行するのは君達?」


しらせ「そうっす。どもっす。お久しぶりーっす」


ホオズキ「任務に発つ前に、楪しらせに話がある」


しらせ「え?私?」びくっ


朴「向かいのカフェで待ってます」


スケキヨ「じゃ、後でな」


しらせ「え、まって、やだやだ置いてかないでえ」


ホオズキ「どうぞ座って」


促されるままソファへ腰掛ける。

身を縮こませて。

ホオズキはなぜか密着して隣に落ち着いた。


しらせ「あの……せま……」


ホオズキ「オニバスとオニユリの二人に起きた異常が続いている。君は二人に何をしたの?」


しらせ「そうねえ……うん。心を通わせたのよ」


ホオズキ「心。それは私達にもあるものなの?」


しらせ「え?知らん」


ホオズキ「答えて」


しらせ「いやあ、ま、あるんじゃないの。て、そんなの神に聞きなさいよ」


ホオズキ「心は神ですらも唯一知ることの叶わない秘密の箱。魂とは異なる存在。ゆえに神は心を創造できない」


しらせ「へえ、よく分かんないけど良かった。それなら心の中を覗かれることはないね」


ホオズキ「私は心を知りたい」


しらせ「うん」


ホオズキ「教えて」ずい


しらせ「近い近い近いよー」


ホオズキ「君にしか頼めない。これくらいのことなら神もお許しになるはず」


しらせ「悪いけど。私には無理な相談よ」


ホオズキ「なぜ?」


しらせ「適任ではないから。仲間の二人にお願いしなさい」


ホオズキ「分かった」


しらせ「うん。とても素直でよろしい」


それから二人と合流して町外れの森へ。

気持ちのいい午前で、森に怪物がいるなんて信じられないほど清々しい。


しらせ「森林浴を楽しみながらティータイムを過ごしたいなあ」


という望みをぶち壊して怪物は現れた。

葉を散らし枝を折り木を倒して森の奥から近付く六つ足の巨大な影。

四メートルはあるだろうか。


無定形個体。

簡単にわかりやすく凶鬼と呼ばれる。


その怪物の容姿は名が表すように凶々しく、攻撃的で歪。

彼らに共通しているのは人を殺める可能性のある何かが形を得たこと。

今回は拷問器具のようだ。

アイアンメイデンらしい大顎が獲物を喰らおうと横に開いた。

鋭い針みたいな歯で噛み砕いてすり潰されたら一たまりもないだろう。


しらせ「解説ありがとう」


朴「どういたしまして」


スケキヨ「ホオズキさん。出番だぜ」


ホオズキ「戦うのは君達よ」


しらせ「え?」


スケキヨ「しらせさんが食われた!逃げろ!」


朴「それでは、ホオズキさんは何のためにここへ?」


ホオズキ「私の任務は消滅していない魂の回収と再生」


スケキヨ「ついでに倒してくれよ!」


ホオズキ「それは命じられていない」


朴「……なるほど」


スケキヨ「俺も食われたー!」


朴「ははははは!どうやら私達は神に一杯食わされたようです」


しらせ「どういうこと?こいつに私達を食わせようって?」


朴「まさか、あなたじゃあるまいし。神様はそこまでクズではないでしょう」


しらせ「んだとコラ」


スケキヨ「先にこいつを何とかしてくれ!ヤバイめっちゃ殴られてる!はやく助けて!」


しらせ「ぱっくん。無限ロケラン」


朴「分かりやすく言えば、罰ゲームですよ」


しらせ「ねーよ。だとしたらハード過ぎでしょ。性格悪すぎない?」


朴「しっ」


スケキヨ「あぶねーな。俺まで消し飛ぶところだったぞ」


しらせ「ちゃんとバリアで守ってやったでしょう。文句はなしよ」


ホオズキ「上出来」


朴「それはどうも」


ホオズキ「二つの魂を無事に回収完了。私はこれより帰還する」


しらせ「ちょい待ち」


ホオズキ「何?」


しらせ「お昼、一緒に食べよ?」


略、天使の離宮

オニユリはベッドで恋愛漫画を読み、オニバスはソファに座ってオンライン対戦ゲームを楽しんでいる。

とても優雅な午後。


ホオズキ「ホオズキ。帰還した」


オニユリ「おかえりー。お昼に何食べたの」


ホオズキ「お好み焼きを六枚」


オニユリ「たくさん食べたね」


オニバス「それってどんな料理なの?」


オニユリ「お好み焼きは、熱い鉄板の上で、調味料と卵を混ぜた小麦の液状生地を丸く焼いて、具材といっしょに頂く料理よ。余談だけれど、英語圏の人達はジャパニーズパンケーキデビルフィッシュと呼ぶらしいよ。グルメの本に書いてあった」


ホオズキ「それは誤り。きっと記憶が混ざったのね。ジャパニーズパンケーキデビルフィッシュはメンダコのことよ」


オニユリ「そうなの?」


ホオズキ「ジャパニーズパンケーキでいい。あわせて、そこにセイボリーを付けることもある」


オニバス「へ、へえ。それで美味しかった?」


ホオズキ「うん。出汁のきいた、混ぜ焼き特有のカリカリふわふわ生地。こうばしい具材の旨味。しつこくない甘辛いソースにコクのあるマヨネーズの柔らかな酸味。そして鰹節と青海苔の豊かな香り。とても美味しかったよ」


オニバス「わあ……いいなあ!」


ホオズキ「豚玉とか海鮮とか使用される具材によって種類が幾つかあって、そのなかでもミックスDXがさいつよだった」


オニバス「さいつよ?」


オニユリ「知らない言葉ね」


ホオズキ「夜の食事はタコパにしよう。必要なデータは収集した」


オニバス「タコパ?」


オニユリ「また知らない言葉ね」


ホオズキ「タコパとは、たこ焼きパーティーの略称。気が置けない間柄の複数人とたこ焼きを調理、共有、摂食することで、心労を緩和し陽気を高揚させ、幸福感を増幅する特別な食事のこと。副次的な効能もあり。士気が向上し、絆が深まる」


オニバス「少しこわくなってきた」


ホオズキ「毒性は無く危険はない」


オニバス「そっちじゃなくてホオズキのこと……」


オニユリ「天使は食事を必要としない。でしょう。本当にいいの?」


ホオズキ「いいの」


オニバス「神のお許しは?」


ホオズキ「ない。しかし、私は自由を行使する」


オニバス「君も変わったね」


オニユリ「ついでにオカパもしましょう」


ホオズキ「オカパ?」


オニユリ「お菓子パーティーの略。どうかしら」


ホオズキ「肯定」


オニバス「あまり欲張ると……神に叱られるのでは?」


ホオズキ「データによるとチートデイなるものがある」


オニバス「ん?」


オニユリ「ああーそれね」


オニバス「え?なに?」


オニユリ「特別に、好きなものをたっくさん、食べていい日のことよ」


オニバス「それはいつ?」


オニユリ「うーんと。いつでもいい!」


オニバス「ズルい」


オニユリ「ズルくない」


ホオズキ「異称、解放日とも呼ばれる。主に体重減量期間の停滞期に行われる贅沢な食事のこと。統計を参考にして七日前後が最適、と私は考える」


オニユリ「異論なし。私は三日くらいだけれど」


ホオズキ「それなら私は二日にする」


オニユリ「毎日」


ホオズキ「同意」


オニユリ「はいたっち」


ホオズキ「いえい」


オニバス「ふえぇ……頭が沸騰しそうだよう……」

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