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マジカル CITY POP!  作者: 地球と月と天王星が紡ぐロマンスを見上げて夢抱いた少年は空っぽの世界で文字だけを追い続けた
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D 根暗天使

ところは極楽町。

一台の軽トラが河川敷の堤防をゆっくり走る。

各々がのびのびと過ごす黄昏時の河川敷は平和なムードで満たされていた。


しらせ「ちょっと車停めて」ガンガン


朴「後ろから蹴らないでください。何ですか?」


しらせ「ほら、あそこ。天使みっけ」


朴「特徴的な輪や羽がないと、見た目には分からないものですね」


しらせ「寄せて」ガン


朴「気が進まないなあ……」


しらせ「おーい!オニバスー!」てをふりふり


オニバス「ひぃ……!」


朴「怯えてますよ」


しらせ「逃げたらころすー!」


スケキヨ「ひでえ。笑顔で脅してる」


オニバス「な、な、な、な、ななに?」


しらせは軽トラの荷台から軽やかに飛び降りて怯える友のもとへ駆け寄る。

その後にスケキヨも続いた。

そして二人で囲んだ。

オニバスは身を守るようにしゃがんだ。


しらせ「そこまで恐がられたら私ショックですよ」


オニバス「カツアゲ?」


しらせ「しません。この二人とは違うから」


朴「やったことないです。嘘言わんでください」


スケキヨ「今はしてない」


オニバス「今は!?」びくっ


しらせ「ややこしくなるから黙ってて。この子、めっちゃ根暗なのよ」


朴「ああーはいはい、え?天使が?」


しらせ「そ、天使なのに」


オニバス「私は失敗作だから……うう……ひっぐ……」


しらせ「やめてやめて。こんなところで泣かないで、人が集まってきちゃう」


朴「オニバスさんは任務を受けて極楽町までいらしたのですか?」


オニバス「ううん。ホオズキとオニユリと一緒に温泉に入りに来たの」


朴「あれ?天使は仕事か待機の二択でしたよね」


しらせ「よく分かんないけど自由行動に変わったみたい」


スケキヨ「お二方はどちらに?」


オニバス「ホオズキは帰った。オニユリはスイーツ食べに行くって。私はおさんぽしてた。オレンジの川と小花が綺麗だったから」


しらせ「おとめー」


スケキヨ「じゃ、俺らと遊びに行こうぜ!」


朴「こらこらスケキヨ。ダメですよ。天使は忙しいんです」


オニバス「何をするの?」


スケキヨ「興味あるって」


朴「私は神を敵に回したくないんですけど」


しらせ「大げさな。別に何もないって」


朴「彼女は神の所有物ですよ」ひそ


しらせ「それは違う!いまの彼女達には自由がある!」


オニバス「私、遊んだことないから何をするのか分からない」


スケキヨ「ボウリングに行こうぜ!」


オニバス「それはスポーツでしょう」


しらせ「スポーツでもあるし遊びでもあるのよ。さ、一緒に都会へ行こう」


陽がすっかり沈んだ夜の大都会はビルや店舗のネオンが放つ眩いばかりの輝きで溢れていた。

恐喝も、窃盗も、食い逃げも、交通事故も、繰り広げられる犯罪の全てが煌びやかな日常に変わる。


オニバス「みんなに罰を与えなきゃ」


朴「それは警察の仕事です。危ないから動かないでください。シートベルト外そうとしないでください。おいちょっとしらせさん!」


しらせ「あーん?自分で何とかしなさいよ。助手席にいる彼女を荷台からどうしろっての。ばーかばーか頭よわよわ♡」


朴「オルァ!!」


しらせ「あぶない!蛇行運転はやめなさい!」


スケキヨ「あっはっはっ!おもしれー!」


オニバス「降ろして……降ろして……」泣


オニバスも天使であり魔法少女。

彼女はオニユリとの対決の翌日に勝負を申し込んできた。

どうしても、しらせ達を罰したい様子である。

これは逃げられないなと覚悟を決めたしらせはパジャマのまま勝負を受けた。

昨日と同じく天使の力で謎の異空間へ転移して、合図もなく殺し合いが始まる。

彼女は根暗だった。

ゆえに考えすぎなほど数多の危険を先の先、裏の裏まで予測する。

砂岩による膨大な物量、広範囲に及ぶ風の刃。

それらによる隙のない攻めは、しらせの動きを完全に封じて反撃も許さず千を超えるほど殺し続けた。


朴「そんなバケモノに一体どうやって勝ったんですか?」


しらせ「こいつ根暗でしょ?だから言葉責めでメンタルを潰したのよ」


朴「うわ、やっぱり性格悪いなあ」


しらせ「やっぱりって言うな」


オニバス「ねえ、足のサイズ分からない」


しらせ「そんなことある?」


言葉責めは得意だった。

それは効果てき面。

攻撃がぴたりと止んで、それからオニバスはさめざめと涙を流し、次に初めての涙に驚いて、間もなくパニックになって大声で泣き崩れた。


しらせ「ざーこ♡天使の癖してよわよわ♡天使の中でも最弱♡人間ひとりころせない落ちこぼれ、かわいそー♡」


オニバス「うわあああん!!」


しらせ「神様に捨てられて私の犬になっちゃえ♡」


オニバス「ごめんなさいごめんなさいごめんなさあああい!!」


しらせ「お手♡」


オニバス「わん……わん……」


しらせ「きゃはは、みじめー♡」


スケキヨ「いじめー」


しらせ「イジメじゃありませーん。こっちも勝つために必死だったの」


スケキヨ「イジメだけは良くねーよ。な、朴さん」


朴「その通りです。偉いですよスケキヨくん」


しらせ「お前らこそ私を散々イジメてたアンチでしょーが」


ガシャアン!!


朴「また壊しましたよ」


オニバス「ごめんなしゃい……」


しらせ「仕方ないよ。誰だって最初はそんなものよ」


朴「そんなものであってたまるか。ボウリング場大破壊ですよ」


床、設備、天井、備品、壁、しらせが思い出を語る間に部屋いっぱい凸凹だらけである。

その場にいた者は皆、逃げて一人も帰ってこない。


スケキヨ「誰も来ねーのな。警察くるかと思ったのに」


オニバス「いや!違う!私は犯罪者じゃない!」


しらせ「心配ないって」


朴「天使だから誰も注意できないようですね」


しらせ「しゃ!無料で遊び放題じゃん」


スケキヨ「マジ!?やったぜ!」


朴「あぶねっ!」よけっ


オニバス「あ、ごめんなさい」


朴「へるぷみー……」


しらせ「美少女の背中に隠れて情けないねえ。男が廃るよ」パシッ


朴「あなたみたいに豪速球で飛んできたボウリング球を片手でキャッチするなんて普通できませんからね。バケモノはバケモノ同士ころし合ってください」


しらせ「オニバス。投げ方教えたでしょう」


オニバス「うまくいかないの」


しらせ「それなら最終手段ね」


両手で持って、力を抜いて、そのままポイしてコロコロ。


しらせ「やってみて」


オニバス「えい」


シャ……ズガアン!!


スケキヨ「ストライク!すっげ!ピンも壁も粉々だ!」


しらせ「これじゃ、もう遊びにならないね」


朴「気付くの遅いですよ」


遊技場ビルを占拠した一行は遊びに遊んだ。

卓球は球が溶けて、ビリヤードは摩擦で焚き火になり、ダーツは異空間へ消えた。

ロデオは抱き潰され、ミニバイクごとビルから落下して、サーフボードは天井を突き破って星になった。

などなど……。


しらせ「こりゃダメね。天使じゃなくて破壊神よ」


オニバス「ひどいよう」


朴「ゲームセンターに行きましょう」


スケキヨ「ぜってー壊れるぞ」


否、オニバスには才能があった。

特化した先を読む能力、それに伴う観察眼が才能を開花させた。

シューティングゲームは満点を取り、ユーフォーキャッチャーは景品を最短で獲得、レースゲームは圧倒的な差で一位、音ゲーも難なくフルコンボ。

どのゲームにおいても最高記録を叩き出し、しかしそれでも唯一、ワニだけが一匹残らず顎を砕かれた。

ワニの方こそパニックになったに違いない。


オニバス「たのしいね」にこにこ


スケキヨ「マジすっげー!なあ俺を弟子にしてくれ!」


オニバス「弟子?私の弟になるの?」


スケキヨ「頼む!」


オニバス「いいの?」


しらせ「私に聞くことじゃないよ。自分で決めなさい」


オニバス「なら……うん。いいよ」てれ


スケキヨ「やったぜ!」


朴「ガキは無責任だから、ほんと恐れ知らずですね。後々面倒があっても私は関わりありませんよ」


しらせ「へたれ♡」ひざかっくん


朴「ああん!?」


しらせ「かわい♡」ほっぺつん


一行はプリントクラブを楽しんで、最後に空オーケストラへ向かった。

かなり遅くなった夕食はピザマッチョの出前で済ますことにする。

時刻は零時を過ぎていた。

しらせがシティポップを歌い、スケキヨと朴でアニソンのデュエットを披露する。

そして順番はオニバスへ回ってきた。


スケキヨ「決まった?」


オニバス「うん。でも、じょうずに歌えるかな……」


しらせ「そもそも歌を知ってる?」


オニバス「知らないものはない。その中から讃美歌を借りようと思う」


しらせ「いいじゃん」


オニバス「ふう……」


しらせ「無理して歌わなくていいからね」


オニバス「平気。歌う」


スケキヨ「いえーい!ふっふうー!」


しらせ「讃美歌はそんな盛り上げるもんじゃないよ」


朴「ほう。アメージンググレースですか」


それから目が覚めたのは翌朝だった。

清らかな歌声はまるで夢心地で、まるで魂が抜けたように身体がスッと軽くなったことまでは覚えている。

そしてまた彼女も夢が作り出した幻だったのか。

オニバスの姿はなかった。


オニバスが天界にある離宮へ帰ってきたのは何曲も歌って満足した、朝陽が顔を出した頃。

天界にも、まだ薄く闇が広がって、室内は灯りもなく暗かった。

天使には全てが見えるので明かりは必要ない。


オニバス「たのしかった……」


ホオズキ「どうだった」


オニバス「ひゃ!わ!びっくりした」


ソファに座るホオズキの影は不気味で怖い。

オニバスは恐る恐る避けるように回り込む。


ホオズキ「任務はどうなったの?成功したの?」


オニバス「あ、それなら成功したよ。昇天したから肉体はもうすぐ消える」


ホオズキ「そう。それでは次の命令あるまで待機」


オニバス「ふわあ……何だろう」ふらふら


オニユリ「ん?おかえりーオニバス」


オニバス「ただいま」


オニユリ「えへへ、初めての挨拶ね」


オニバス「そうね。なんだか恥ずかしいね」


オニユリ「ベッドにおいで。眠いでしょう」


オニバス「これが眠いかあ」


オニユリ「報告は届いてるよ。めちゃくちゃしたってね」


オニバス「うう……思い出したくない……」


オニユリ「後で楽しかったことを教えてよ」


オニバス「うん、それならいいよ。まずね、ボウリングをしたの」


オニユリ「眠いなら寝ていいよ」


ホオズキ「いいえ。待機よ」


オニバス「時間はかかったけれどストライク。ピンをぜんぶ倒したのよ。それって凄いことなの。嬉しかった」


オニユリ「そう。良かったね」


オニバス「しょれから……すう……」


オニユリ「あらあら。私も、もう少し寝ようかしら」


二人は寄り添って夢を見る。

まるで仲の良い姉妹みたいに。


ホオズキ「待機……待機……待機……待機……」

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