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マジカル CITY POP!  作者: 地球と月と天王星が紡ぐロマンスを見上げて夢抱いた少年は空っぽの世界で文字だけを追い続けた
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M 情熱頽落

試験官があっさりモンスターにやられてしまった。

かつて大活躍を果たし、後に英雄と謳われるほどの男が一撃で。

彼はスーパーの中へ吹っ飛んで、カートに乗って滑った後、レジを囲む鉄格子に見事ハマってしまった。

棒になったまま動かないので意識はないと思われる。


そばよ「あわわわ……!」


ヤス「これじゃギルドに避難できないね」


巨大なビルが横倒れになって行手を、今は退路を阻んでいる。

背後には、ハサミ、ドリル、鉄球の三つの頭を持つ重機のような巨大モンスターが立ちはだかる。

逃げ道はない。

敵が鎌首をもたげた。攻撃がくる。

それならば、やられる前にやるしかない。


呑兵衛「ウォッカ!」


ヤス「どうして攻撃すんの!?」


そばよ「無詠唱で魔法を行使した!?」


ヤス「それくらい、しらせでも出来るじゃないか」


そばよ「彼女は魔法少女です!彼とは違います!」


この世界には魔法少女がいるのか。

一度会ってみたい。

っと、あまり効いていないようだ。

結構すごい爆発だったんだけどな。

無傷とは手強い。

いや、面白くなってきた。


呑兵衛「二人は下がっていてください。俺が引きつけて相手します」


そばよ「無茶しないでください!」


ヤス「いや、ここは彼に任せよう」


そばよ「こんな時にまで人任せにしないで」


ヤス「僕は彼を信じる」きりっ


受付の狐さん……!


そばよ「うさんくさい」じとー


ヤス「僕らの命、あんたに預けるよ。未来の勇者さん」


呑兵衛「はい!頑張ります!」


ヤス「うん。がんば」


そばよ「おべっか使って。ずる賢い人」じとー


お世辞でも構わない。

こいつを倒して本物の勇者になればいい。

いまの俺ならなれる。

これまで何の取り柄もない俺だったけど、やっと特別な力を手に入れた。

憧れた勇者になる。

誰かを守るための力を手に入れたんだ。


呑兵衛「ジン・トニック!」


そばよ「いまのはまさか超電磁砲!?あの巨大な凶鬼が軽々と吹き飛ぶなんて!」


ヤス「まったく神様も気まぐれだね。それに優しすぎる」


呑兵衛「うおおお!!」


そばよ「身体能力も向上している!あの跳躍力は人間のものじゃない!」


呑兵衛「スクリュードライバー!」


そばよ「シンプルな投げ技で叩き落とした!でも回転を加えることによってその威力が何倍にも増している!」


ヤス「技名ぜんぶお酒だね。それ正直言って安直でダサいよ、ねえ」


そばよ「きゃー!センスいい!」ぱちぱち


ヤス「やれやれ」


呑兵衛「これでっ最後だ!オニコロシ!!」


ヤス「ただのビームだろう」


そばよ「最強……!」きらきら


ヤス「倒したのは確かに凄いけれど、簡単に認めたくはないね。選ばれた人が超能力で無双とかほんと萎えるんだよ。もっと苦戦して苦労を経験してほしいものだ」


そばよ「うるさい!ジェラシーコンコン!」


ヤス「悪口のセンスだけは可愛いね」


呑兵衛「俺やりましたよ、そばよさん!」


そばよ「素敵でした!あなたはやっぱり本物の勇者です!」


呑兵衛「ありがとうございます!」


そばよさんの好感度爆上げ。

これは残り二話待たずして恋愛イベントに突入かも知れない。

ようやく運が向いてきたぞ。


ヤス「ぽん子ちゃん。勇者には」


そばよ「さっきからうるさいっての!黙っていて下さい!」


ヤス「あんたも恐ろしい人だ」


呑兵衛「威力を調整して……オニコロシ!」


そばよ「助かりました。道が開いて、これでギルドへ避難できますね」


と、落ち着いている場合じゃない。

新しいモンスターがビルの陰から湧いて出た。

数は三体。


ヤス「相手にしなくていいですよ。今ならスーパーへ戻れます。地下へ避難しましょう」


呑兵衛「きっと追ってきますよ」


そばよ「彼の言う通りです。ここで食い止めなくては」


ヤス「僕らに戦闘力はないんだよ?」


そばよ「私達には……ね」ちら


ヤス「いやいや期待し過ぎ」


呑兵衛「倒しました」


ヤス「ひゅう。仕事はやいね」


そばよ「優秀なのは良いことです!周りにも良い影響を与えますから!」


ボールド「お待たせ致しました。お待たせし過ぎたでしょうか。ここで強敵の登場となります」


なっ!一体どこから現れた!?

鑑定……レベル十二!?


呑兵衛「攻撃力は四千五百で守備力は三千八百!?」


そばよ「きゃ……!」ぷるぷる


ボールド「おやおや、まさか誰も僕を待っていない?待っていない待っていない待っていない、一人飛ばして待っていない」


呑兵衛「え?何でこっち見てんだ」


ボールド「ああ、僕を待っていたのはあなたでしたか。あなたが選ばれし勇者なんですね」


呑兵衛「その通りだ」きりっ


ヤス「違います」


呑兵衛「その通りだ!」


なんだこの愉快な怪人は。

どう見たって人じゃないよな。

人の形をしているけれど異形だ。

一昔前の石油ストーブみたい。


そばよ「あなたは何者ですか?」


ボールド「号はボールド。格は魔王の左足です」


ヤス「その席は欠落していたと勇者から直々に報告がありましたけど?」


ボールド「一昨日ね。ぼく志願したんですよ。いやあ、面接の時とても緊張しました」


ヤス「なんか可愛いね」くすっ


そばよ「どこがですか!あいつも立派な人食いの凶鬼ですよ!」


ヤス「勇者さん。どうぞ願ったり叶ったりの出番です」


呑兵衛「ああ。俺に任せて下がっていろ」


ヤス「わあ生意気」


そばよ「自信がついたのは良いことです」


あいつは長い火かき棒をステッキのように扱っている。

棒の頭に付いている、燃えて赤く発光する大きな炭を握って。

間違いなく常識の通用しない武器だろう。

こっちも何か武器があれば……。


呑兵衛「……あった!」


そばよ「空間から一升瓶を取り出した!今のはもしかして収納魔法ですか!」


呑兵衛「そうみたい。アイテムボックスに武器が一つあって良かった」


ヤス「そんなもので」


パリィン!!


ヤス「頭かち割った」


そばよ「でも、今ので武器を失ってしまいました」


ヤス「そもそも勝ち目が万に一つもない。わざわざ喧嘩を売ってほしくなかったよ」


呑兵衛「やられた!」


ヤス「ほらね」


魔法障壁が無ければ死んでいただろう。

やはり非常識な武器だ。

速度、重さ、衝撃、そして高熱の炎。

威力もさることながら、一瞬の間に八つも攻撃を食らってしまった。

まったく見えなかった。

奴の全身が、放熱で生じた陽炎によって揺らいで見える。

あれも一つの原因か。

動きが読みにくい。


呑兵衛「それなら……ウォッカ!」


爆発が激しい。

妙だ。

手応えがない。

二人が爆風で転んだけど無事なようだ。

この熱風。

高温の環境。

奴はまだ生きている!


ボールド「んー物足りないですねえ」


呑兵衛「無傷か」


ボールド「その程度の魔法なら爆発で打ち消すことは簡単です。もう少し頑張らないと。あなた、毛の一本も残らず燃えてしまいますよ?」


魔力量が半分を切った。

オニコロシの消費が激しい。

あと二発、いや全力の一発で決めるべきか。


ボールド「おやおや。そちらが来ないのであれば。こちらから行かせてもらいますが、よろしいんですね?」


やはり速い!

ジェット機みたいな加速だ!


呑兵衛「負けてたまるかよ」


ボールド「お馬鹿さん。武器も魔法もなしに僕に挑んだら火傷してしまいますよ。まあ、それで済めばいいんですけど」


魔法障壁がほとんど意味をなさない。

まあいい。どうせ一回死んでんだ。

灰になるまで戦ってやるよ。


呑兵衛「二人は逃げてくれ!俺が時間を稼ぐ!」


ボールド「どうぞご勝手に。あくまでも僕の狙いは勇者のお片付けですからね」


呑兵衛「なに!?」


ボールド「仲間が来る前にあなたを始末しなくては。勇者を魔王の座へ据えようなど僕は絶対に認めませんよ!」


ヤス「魔界で何が起きているんだ?」


そばよ「さあ?とにかく今は、呑兵衛さんを逃すためにも、足手まといの私達は早く逃げましょう」


ヤス「うん。そうしよう」


呑兵衛「俺は逃げない!」


ボールド「おやおや。体が焼けてきていますよ」


呑兵衛「構わない。命が燃え尽きるまでお前をぶん殴り続ける!」


ボールド「残念です。そんなことをしても無駄です。僕の体には傷一つ付きませんから」


呑兵衛「かはっ……!」


全身の骨が砕けたみたいな苦痛だ。

熱い痛い泣きたい。


ボールド「これはこれは。無駄に頑丈。しぶといですね。なにより面白くない」


呑兵衛「くっ……」ふら


そばよ「もうやめて……もうやめてっ!!」


呑兵衛「そばよさん。逃げないのなら、そこで見ていてください」


そばよ「え?」


呑兵衛「俺、勝ちます」


そばよ「呑兵衛さん」


呑兵衛「ウオオオオオ!!」


ボールド「この力は……!」


天の声が聴こえる。

俺に生きろと。

生きて戦い護り抜けと。


そばよ「あの大きな狼はまさか……フェンリル!」


呑兵衛「神の使い。力を貸せ」


ヤス「あーあ。咬まれちゃった」


そばよ「違う。あれは契約よ」


ボールド「契約?それは一体どういうことでしょう」


そばよ「彼の中へ力が流れていく……神の力……神様ボーナス!」


覚醒、ゴッドラベリング。


ボールド「これは興味深い。突然現れた聖剣、そして傷の完全治癒。些か面白くなってきました」


呑兵衛「酔いしれろ……ここからが神展開だ!!」


ドンッ!


ヤス「あついあつい」


呑兵衛「勝ったー」ふら


そばよ「呑兵衛さん!」


呑兵衛「ありがとう。支えてくれて」


そばよ「どうして逃げなかったんですか?どうして私達のためにそこまで?」


呑兵衛「それは誤解だ。逃げなかったのは自分のためだよ」


そばよ「?」


呑兵衛「勇者になることが夢だから。せっかく叶う機会から逃げたくなかった」


そばよ「呑兵衛さん……」


呑兵衛「それに。その先で誰かを護れるなら、なおさら逃げるわけにはいかないっしょ」


そばよ「ふふ、そうですね」


呑兵衛「あれ?体が光って……薄くなってる!?」


そばよ「帰る時が来たようです」


呑兵衛「そっか。元の世界に帰るのか」


そばよ「これまでのこと、そのほとんどを忘れてしまうことでしょう」


呑兵衛「それは残念」くすっ


そばよ「ですね」にこ


呑兵衛「あなたのことを忘れるなんて」


そばよ「え?」


呑兵衛「また会えると嬉しいな、なんて」


そばよ「待ってます」


呑兵衛「え!」


そばよ「こんなこと、本当は言ってはいけないんですけどね。それでも待っています。はい」


呑兵衛「ありがとう、そばよさん」


さようなら。

楽しかったよ異世界。


ヤス「俺は邪魔者かな」


そばよ「生まれた時からずっとね」


ヤス「本性あらわしたね」


そばよ「呑兵衛ー!戻ってこいやー!」


ヤス「無理を叫んで。その声は届かないよ」


そばよ「あなたは悔しくないんですか?」


ヤス「何で?僕はいま肩の荷が降りてスッキリしているよ」


そばよ「CQギルド西方支部は変人奇人出来損ないの集まりと言われています」


ヤス「そこまで酷い言われようだっけ」


そばよ「そこへ二人目の勇者が現れたんです。しかも犬じゃなく人間で神の使いと一体化できるマジモンが。ああー名誉挽回のチャンスだったのにー。支部は助成金が貰えて教育係を担当すれば特別手当が貰えたのにー」


ヤス「ああ……そういう算段だったのね」


そばよ「取らぬタヌキの皮算用ね。しかも無駄骨折ったからしばらく休養しなきゃ。はは、こんちくしょうめやってくれた」


ヤス「あんた本当いい性格してるよ。ぽん子ちゃんに化かされる人達が可哀想」


一方で……。


呑兵衛「あーあ。本物の勇者になれるチャンスだったのに夢から覚めちった」


看護師「目が覚めてよかったです。間もなく御家族の方が来られますからね」


呑兵衛「あい」


藪医者「いまはとにかく安静にして。クソして寝てください」


俺の怪我は崖からダイブしたにしては奇跡的に大したことはなかった。

全身擦り傷だらけに、少しの打撲、問題は意識が戻らなかったこと。

目が覚めたら一週間あまりで退院となった。

そして今現在、また退屈な大学生活に戻ったというわけ。


慶輝「おい大変だ。楪しらせが亡くなった」


呑兵衛「誰だって?」


慶輝「俺の推しのブイチューバーだよ。昨日、配信中に倒れてそのまんま死んじまった。ああーしらせロス半端ねえ。辛い悲しい慰めてくれ」


庄戸慶輝。

ブイチューバーの配信を見まくってるミーハーの友人。

若いのに髭が濃い。


呑兵衛「お前の推しは、カンブリア紀子ちゃんじゃなかったのかよ」


慶輝「彼女はデビューしてまだ一ヶ月だぞ。ほら、この近くで子供と犬が車にはねられて死んだ日が彼女のデビューの日だよ」


呑兵衛「うわ不謹慎。そんな悲しいこと思い出させんな」


慶輝「しらせさんはな。二年前から頑張って頑張ってほぼ週六で配信していた凄い方なんだ。デビューした初配信の日は忘れられない。開始五秒で顔バレしたからな」


呑兵衛「つまり中の人が好きなんじゃねーか!」


慶輝「いやいやいやいや中の人とかいないからやめてー」


呑兵衛「だからお前はミーハーなんだよ」


慶輝「お前ミーハーの意味分かってんの?」


呑兵衛「いや。てけとー」


慶輝「適当なこと言うな。こっちはマジでショック受けてんだよ」


呑兵衛「ふーん。中の人かなり地味だな。薄い顔ってやつ?」


慶輝「検索しちゃったかー惚れちゃったかー。綺麗だろう?」


呑兵衛「なんだ三十超えたバツイチのおばさんかよ」


慶輝「それの何がいけないってんだ!故人を侮辱するな!」


呑兵衛「今のは俺が悪かった。ごめん」


慶輝「お前さてはアンチだな」


呑兵衛「いや、その人のこと何も知らねーって」


慶輝「そう言えば一週間くらい前にアンチが一人死んだらしいぞ。どうも誹謗中傷の裁判から逃げるためにマンションから飛び降りたらしい。ネットにそいつの最後の書き込みがあって、その日に起きた事故と照らし合わせると……」


呑兵衛「もういいって。朝から人が死んだ話ばっかりやめてくれよ」


慶輝「それもそうだな。良くない良くない」


呑兵衛「あ、あと一分で授業始まる。うあー怠いー異世界転生してー」


慶輝「それ夢の話だろ?」


呑兵衛「あい」


慶輝「俺も異世界転生してー」


呑兵衛「へへ、してどうすんだよ」


慶輝「しらせさんとイチャイチャすんの」


呑兵衛「それなら、あの世に逝くことになるぞ」


慶輝「あー確かに。でもそれこそ天国だろ」


呑兵衛「うまいこと言いやがって」

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