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サバに愛を込めて

アホ毛三人が揃って戦国キッチンでサバをサバく、の巻きです。

「うーん、無人島と違って人がいると何でも力任せにはいかないわね」

「にゃにゃー」

「シクシク、ハルちゃんにとってはさっきのアレは力任せじゃないんだ?」



 つぐみちゃんがアホ毛之館の厨房でサバをエンドレスでサバく。


 ここの厨房って凄いわー、モテル君の言う通りこの土地は井戸の中にサバがウジャウジャと泳いでいて、厨房にはその井戸が完備されちゃってる。


 つまり厨房にいるだけで新鮮なサバが手に入る。


 このシステムならノーリスクの為替投資感覚で気軽に漁師になれるじゃん。


 本当にこの時代のサバって何者なの? むしろ自分から食べられにやって来るとか戦国時代のサバは頭が悪いとしか言えないと思う。サバってDHAが豊富なくせに自分はバカなんだ。


 完全に自然の摂理を放り投げてるじゃん。


 そしてここの領主もちょっとだけ頭がどうかと思うけど。こっちもサバでDHAを摂取してるのにおバカだった。


 手際よくサバ折りでサバを次々と活け締めして厨房のまな板に刺した二本のアホ毛でじゃんじゃん三枚に下ろしていく。スライスしていく。自分のアホ毛を電動ノコギリみたいに使って釣りたてのサバをここまで効率よくサバく戦国大名が実在しただろうか?


 因みに一本は私のアホ毛です。


 さっきミソニちゃんに強引に強奪されちゃったの。


 公卿の身分の女の子がサバを三枚に下ろす。妙な歌を歌いながらサバを次々と解体していくその姿はチェーンソーで殺人を繰り返す何処ぞの怪人に見えてきちゃった。


 まあミソニちゃんに関しては私のご先祖様なのがツラいところなんだけどね。



「サバアゲくんサバアゲくんサバアゲくーーーーー……ん」

「……ミソニちゃん、お願いだからアイスキャンディのコマーシャルみたいなリズムであおらないで欲しいなあ」



 どうしてミソニちゃんは『あのコマーシャルソング』を知ってるんだろう? そこに私と同じ現代人のつぐみちゃんは容赦なくツッコむのよねー。


 ふと、その理由を考えてみた。


 理由その一、実はミソニちゃんもタイムトラベルの経験者で現代に行った事がある。……絶対に無いわね。


 ミソニちゃんだったら間違いなくニュースになるくらいの大事件になってるだろうし、彼女に現代日本で生きていけるだけのバイタリティは無いと思います。



 ミソニちゃんは絶対に迷子になって交番のお世話になると思うのよね。



 理由その二、彼女の体に流れる鯖井の遺伝子にコマーシャルソングが刻まれていた。これも無いわね。


 むしろ逆じゃない? 彼女の遺伝は私の体に受け継がれてのだから。うーん、このご先祖様を見てると、それ自体が恐ろしくなっちゃうんだけど?


 あ、ミソニちゃんがサバのサバきすぎでテンションがハイになってる。興奮しすぎで彼女のアホ毛が提灯アンコウみたいに点滅してるわ。



「にゃー」

「そうね、ミソニちゃんってミケの言う通りパチ◯コ屋みたいだわ」



 あれ?


 今、私のセリフに伏せ字が使われちゃったけど、何処かで放送事故でもあったのかな?



「にゃにゃー」



 ミケは「まるで暴走族ご用達の装飾ヘッドランプみたいだにゃ」と言ってます。ミケも上手いこと言うじゃない、確かにミソニちゃんは精神的に暴走しがちなのよね。きっと彼女が心の暴走族なんだわ。うますぎてミケにザブトンを上げたいくらい。



 サバアッ!!



 ぎゃーーーーーーーー!!


 油断してたらサバが井戸から飛び出してきたーーーーーーーー!? どうしてこの時代のサバはこんなに活きがいいんじゃい!! 飛び出してきたサバが目の前でピチピチと跳ね回ってるの!!



 ……しかもこのサバ、妙にヌメリがあるのよねー。


 このヌメリは女子高生にとってNGな奴だわ。



 しかもサイズもマグロみたいにデカいのだ。うーむ……、それこそ無人島で叶えられなかった巨大魚の焼き魚の夢を叶えられるくらいのサイズ感。


 無人島で出会った全身テッカテカの足が生えた巨大魚を彷彿とさせるわ。しかも跳ね回るたびにこっちにヌメリが飛び散るのだ。



 ええ?



 ミソニちゃんはこんなにヌメヌメしたサバをサバき続けてるの? 無人島生活でヌルヌルとかニュルニュルがトラウマになってるから、私もサバは大好物だけど積極的には触りたくないなー。


 そしてサバき続けてギットギトがこびりついたミソニちゃんにも触れられたくない。


 ま、美味しいサバ料理が食べられれば私はなんでも良いけどね。


 ビジュアルさえ問題なければ意外となんとかなるものよ。



「ハルちゃんがカバンから出してくれた調理器具のおかげですっごく料理しやすくなって大助かりだよお。ありがとうございます」



 つぐみちゃんが調理しながら背中越しに私に話しかけてくる。


 サバの調理のために私が出した道具はIHコンロにフライヤーと餃子焼き機に食洗機など、美味しいサバが食べられるなら私だって出し惜しみはしません。


 ふふん、むしろ敵にだって塩を送るんだから。



「後は遠心分離機にレジでしょー? ラーメン屋によくある食券機と両替機と給茶器なんかもあるけど使う?」

「にゃにゃー」



 ミケが「調子に乗るタイプだにゃ」と呟いてます。


 ミケが何を言ってるのかちょっとよく分かりません。


 とりあえず思いつく限りの調理器具をカバンから出しておこーっと。つぐみちゃんの顔がドンドンと引き攣っていくような気がするけど気にしなーい。



「そ、それは今はいいかなあ?」

「ハルちゃん、ジャンジャン出しちゃって!! 私もサバ揚げのためなら何だってしちゃう!!」



 うーん。


 普段なら私が暴走する側なんだけどミソニちゃんといると、迂闊にボケーッとしてらんないわ。この子は本当に何でもしそう、と言うかサバのメンチカツはもういいの?


 天然でとんでもガールの私にブレーキをかけさせるとかミソニちゃんは本当に侮れないじゃん。



 思わず私もミケも表情を劇画タッチにさせちゃうわ。



「にゃにゃにゃにゃーーーーーー!!」

「あ、ミケってばサバは生で食べたらダメだよ?」



 ミケがつぐみちゃんの料理の匂いでお腹が空いたのか、突然サバをそのままがっつき始めちゃった。



「にゃにゃにゃにゃーにゃ!!」

「え? このヌメリが美味いって? 本当に?」



 ミケ、アンタはヌルヌルは大丈夫だけどギットギトは無理だって言ってたじゃん。え? 知らない間にヌメリに慣れちゃったって?


 ミケは知らずのうちにヌメリ耐性を獲得しちゃったみたい。私が言うのもなんだけど、ミケって私と一緒に幾多のタイムトラベルを経験した猫だから割とたくましいのよね。



「それはそうだよー。だってこの前の合戦の戦利品に池面介いけめんのすけが持ち帰ってきたギットギトの油をエサに混ぜてるんだから」



 ……何ですと?


 ミソニちゃんは今サラッととんでもないことを口にしたのでは? え? このサバってナマズ顔のオッサン由来のギットギト油をエサにして育ってたのーーーーーーー!?



 ぎゃーーーーーーーーーーー!!



 私もこのサバを使った料理を何度も食べちゃってるんですけど!? 女子高生がギットギトを食させるとか、どんな深夜番組の罰ゲームって話じゃい!!



 って!!



 ミソニちゃんの強奪された私のアホ毛がギットギトになってますがな!! ヒョエーーーーーーーー!! 自分のアホ毛の状況に思わずムンクの叫びみたいなリアクションしかできません!!



「うーん、この時代って甘味が貴重だから料理の味付けがボヤけるのよねえ? ハルちゃん、何かいい調味料とか持ってないかな?」



 つぐみちゃんもマイペースに顎に指を当てて「うーん」とか言ってる場合か!! アンタは夕飯の献立に悩む主婦か!! まあ、実際に主婦なんだろうけど?


 こっちは大事なアホ毛が大変なことになっとるんじゃい!!



「ティッティリー、ハチの巣ーーーーーーーー!! これをあげるから適当に味付けしといてーーーーー!!」

「ひょえええええええええ!! カバンからハチの巣出されたってどうにもならないんだけど!? 今からハチミツを採取しろって事なのかな!? イタタタタタタタ、お願いだからハチも私を刺さないでーーーーーー!!」



 知るか!!



「あっはーん。ハチたち、ハルちゃんフェロモンよー。とっととハチミツを集めて来るのよー」

「ええ!? ハチたちがハルちゃんの命令を聞いちゃったの!?」



 ふふふ、こう見えても私は世界で初めて養蜂を成功させた女子高生なのよ。


 前にタイムトラベルで古代エジプトに行った時に成功させました。エジプトの古代遺跡に描かれてる世界で初めての養蜂の人物画は実は私よ。


 できればもっとセクシーに描いてほしかったけど。


 こうして見事につぐみちゃんの要望に応えた私だけど、戦国時代のタイムトラブって最近は調子が狂っちゃってる。とんでもガールの私がその本領を発揮できないのだ。



 むしろドタバタガールね。



 ミツの採取に向かったハチの姿をポカーンとした様子で見つめるつぐみちゃんをよそに私のご先祖様はいまだに興奮が冷めやらぬハイの状態だった。


 そしてつぐみちゃんはミツバチの襲撃を受けてアホ毛を点滅させてます。


 うわー、すっごく眩しい。つぐみちゃんのアホ毛が黄色く点滅するから踏切のポールみたーい。泣きっ面に蜂とはきっとこう言うことを言うのね。


 そしてつぐみちゃんは必死になって私に助けを求めてくる。



「ハルちゃーーーーーーん!! このハチをどうにかして欲しいんだけど!?」

「仕方がないなー、んじゃサクッとエネルギー弾で……はっ!!」

「ひええええええええ!! さっきみたいにフェロモンでいいんじゃないかな!?」

「にゃにゃーーー!!」

「ミケもハルちゃんも面白そうなことやってるじゃない!! 私も混ぜて混ぜてーーーー!! はっ!!」

「ちょ!? 猫ちゃんとミソニちゃんまで私にエネルギー弾を撃ってこないで欲しいですけど!?」



 おお、流石は私のご先祖様。


 いつの間にかミソニちゃんがエネルギー弾を使えるようになってました。そして二人と一匹の放つエネルギー弾を必死になってつぐみちゃんは避ける。


 だけどそんな簡単に避けられたら私のプライドが傷付くじゃん。



 って!? ぎゃーーーーーーー!!



 私たちのエネルギー弾がアホ毛之館に当たっちゃった!? 二人と一匹のエネルギー弾が屋根にぶち当てって上からガラガラと瓦礫が落下してくるんですけど!?



「つぐみちゃんも避けないでエネルギー弾で相殺すれば良いじゃん!!」

「私は一般人なの!! エネルギー弾なんて撃てません!! って、ひえええええええええ!!」



 こうして私たち四人はつぐみちゃんの悲鳴と共にコントのオチみたいに瓦礫の下敷きになってしまった。屋敷は大きな音と共に崩壊してしまい危うく死ぬところだったけど、ミソニちゃんが機転を効かせて慌てる私たちを井戸の中に落としてくれたのだ。



 そう、ギットギトのサバがウヨウヨ泳ぎ回る井戸の中に。



 こうして私たちは救助されるまでの間、何日もの間ずっと油にまみれることのなるのだった。当然だけど救出されるまでの間、私たちは数日間ギットギトのサバで上を凌ぐわけで。まさか戦国時代にタイムトラベルしてまで特殊なプレイに晒されるとは……。


 これは当分の間はサバが夢に出そう。


 因みにミソニちゃんは屋敷の崩落がキッカケで住居を失うことになり、ミソニちゃんは事態が落ち着くまでテント生活を強いられてしまったのだ。



 それってもはや大名と言うよりもホームレスじゃん。

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執筆の糧になりますので、どうぞよろしくお願いします。

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