美味しいものは程々に
「アホ毛屋の味噌煮込みうどんだよーーーーーー!!」
「にゃにゃにゃにゃにゃーーーーーー!!」
天下布武の人にエネルギー弾を教えてから私とミケはマツモトキヨスの城下町で味噌煮込みうどん屋を始めました。
因みに屋台は私の手作りです。
うどんの作り方とか細かい事は全てミケに丸投げ。だって私、料理は切ると焼くしか出来ないから。ミケが作れるって言うからお任せしてみたのだけど、それが見事にヒットして私たちのうどん屋は行列ができるくらい繁盛しちゃいました。
まさに猫の手も借りたいくらいの忙しさ。
むしろ猫に使われることの忙しさが虚しい。
私がアホ毛で材料を切ってミケが細かい味付けをする。ミケは猫舌だから味見役は私よ。ミケがちょっとムカつくドヤ顔で「これが世に言う猫まっしぐらにゃ」と自慢していたけど引っ叩かなかった。
この売り上げが未来の私のお小遣いに関わってくるからだ。
この売り上げでみかどっちへの借金を返済するんじゃい。そして完済した暁にはママにお小遣いアップをお願いするのよ。
そのためだったらミケのドヤ顔くらい我慢してやるんだから。
「にゃにゃにゃー!!」
「え? そこの下っ端、サボってるんじゃないにゃですって? ミケってば偉そうにしちゃってー」
「にゃにゃにゃ!!」
「え!? 今度はミケを店長と呼べですって!?」
カッチーン。
はい、今の発言は流石にキレましたー。何よ、ミケったら私を従業員扱いしちゃって。『洗い物が溜まってるにゃ』とか偉そうに指図されたら私だってイラッとしちゃうじゃない。
調理した人間が、じゃなかった。アンタは調理した猫が偉いみたいな態度してるけどミケは完全に忘れてるみたいね。屋台に搭載した食洗機は私の持ち込みじゃない。
自家発電機だって私の私物。
屋台に搭載したロケットエンジンも私がなけなしのお小遣いで買ったのよ?
それを自分の力だけで成功させたと勘違いされては困るのだ。ここは一つ、ミケにキツいお灸を吸える必要がありそうね。
「これでも喰らいなさい!!」
「にゃにゃーーーー!?」
けっけっけ。
ミケの口にトッピング用の天ぷらを投げ込んでやったわ。猫舌のミケはあまりの熱さにビックリして飛び跳ねてるじゃん。
よっしゃ。
ここで手を緩めたらお仕置きにならないし、ドンドン天ぷらを突っ込んでやりますか。
「ミケーーーーー!! この天ぷらは私の怒りそのものよーーーーーー!!」
「にゃにゃにゃにゃーーーーー!?」
「ちょっと、ミケも逃げ回るんじゃないっての!! って、ああ!! 投げた天ぷらが通行人に当たっちゃうじゃん!?」
「ほがああああああ!? あっつうううううう、だけどウマーーーーーーい!!」
「へ?」
私の投げた天ぷらが偶然通りかかったお侍さんの口に入っちゃった。
このお侍さん、驚いてはいるけど怒ってないみたいね。むしろミケの作った天ぷらが気に入っちゃったのか、すごく喜んでる。
ものすごい勢いでバクバクと食べ出しちゃった。
「こ、これは何という食べ物でござるか!?」
「天ぷらだよ? 知らないの?」
「……こんな美味いものがこの世にはあったのか。使者として来ただけなのに……第六天魔王の恐ろしさを垣間見てしまったでござる」
お侍さんが感動に打ち震えて泣いちゃった。泣き止んだと思ったら今度はガクガクと膝を震わせて肩を落としてる。
一体この人はだーれ?
身なりから判断するとそこそこ裕福そうね、着てる服にはちゃんと家紋が刺繍されてるし本当に何者なんだろう? 家紋は三つの葵、ダメね、全く心当たりがない。
きっとこの人はマイナーな武将さんね。
ちょっとメタボ気味なのが気になるけど、そこは口にしないのがエチケット。心の中で今後はこの人をメタボ侍と呼ぶことにしよう。
「おじさんも味噌煮込みうどん食べる?」
「……名前から察するにうどんを味噌で煮込んだ料理でござるか?」
うーん、うどんのトッピングに天ぷらを採用して正解だったみたいね。確か『天ぷらの食中毒』が死因の将軍さんもいたくらいだし、日本人の心を掴むにはやっぱり天ぷらよ。
天ぷらは日本人のソウルフード!!
ソウルフード研究の第一人者である私が言うんだから間違いないのよ。こう見えても私は天ぷらに関する研究でで論文を書いた女子高生!!
料理ができなくても論文は書けるんじゃい。
ま、このメタボお侍がその将軍さんな訳無いだろうし、今は徹底的に稼ぐのが私の使命。だったらジャンジャン売ってやるんだからね!!
「ミケ、ドンドン天ぷらを揚げるのよ」
「にゃにゃー!!」
ミケは「ラジャー」と言ってます。
「おおおおおおお……、この天ぷらと言う料理は驚くほどに食が進むでござる!!」
「おじさんは味の分かる人だからこの天ぷらもオマケしちゃう!!」
「これは白身魚? なんの天ぷらでござるか?」
「鯛よ、魚の将軍様は天ぷらにしたって最高よーーーーーー!!」
「それは武士にとって最高のゲン担ぎではないか、鯛の天ぷらうっまーーーーーーーーーい!!」
あれよあれよとメタボ侍がうどんをおかわりしてくれる。あまりの勢いにその光景をずっと見ていた周囲の人たちまでもがうどんを注文し始めた。
すでにヒット商品だったうどんがさらに売れ行きを伸ばす。
このメタボ侍は天ぷらの神様に愛された人物だったのね!! 天ぷらの神様は借金返済の恩人でした!!
うおっしゃーーーーーー!!
恩人のために心を込めて天ぷらを売るわよーーーーーー!!
「魚の将軍様を食べたおじさんはいつでも将軍様になれちゃうわ!!」
「何とも豪気なアホ毛!! 今ならナウ川さんを裏切っても良い気がしてきたでござるよーーーーー!! よっしゃーーーーーーー、オッケーな狭間で裏切るぞーーーーーー!!」
「流石は未来の将軍様、その意気じゃい!! よく分からないけどナウ川さん裏切っちゃえ!!」
「社交辞令と分かっているけど本気で将軍を目指しちゃおっかなーーーーーー!?」
「にゃにゃ、にゃにゃー……?」
「おじさんなら絶対になれるわーーーーー!! 鳴かぬなら鳴くまで待てばいいのよ!!」
「妙に説得力があるって拙者の心に突き刺さる言葉でござる、拙者の座右の銘に採用しよう!!」
メタボ侍と意気投合して気分が高揚してしまって途中からよく分からないテンションになってしまった。このおじさんのお陰で一日で準備した材料を全て使い果たしてしまい、私とミケに屋台はこの城下町で伝説となったのだ。
揚げた分だけメタボ侍が天ぷらを食べてくれるから私はマツモトキヨスでたった一日で一攫千金を成し遂げました。
イエイ!!
因みに私とおじさんの勢いで埋もれちゃったけど、途中でミケが「この人、もしかしてとく……」と言っていた。
テンションが爆上がりでスルーしちゃったけど、まあいっか?
こうして私とミケはホクホク顔でミソニちゃんの待つアホ毛之館に帰る事となった。この出会いが後の天下人の死因に繋がることになるとは、この時の私とミケには知る由もなかったのだ。
そしてメタボおじさんと天下布武の人の間を知らぬうちに仲介する事になったのだが、やはりこれも私たちには知る由がないもの当然な訳で。
いざ、鯖井の里へ!!
稼いだお金で私のお小遣いをアップさせてやるんだからね!!
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