合戦の勝機はゲリとアホ毛のアドバイスから
戦国時代に道路交通法がなくて良かったねと、
桶狭間と長篠合戦にアホ毛の影がチラホラと見え隠れするお話。
とりあえず目的地に到着しましたっと。
尾張が遠かったから途中まで原チャリで来ちゃった。もしもの時のためにカバンに原チャリ突っ込んでおいてよかったー。
ティッティリー、原チャリー!!
私の特技は整理整頓、カバンの中に無理やり腕力で原チャリとレギュラーのガソリンを準備していたのよ。コレがあれば日本中の何処へだって行ける、場合によっては合戦場で原チャリを乗り回してもいいわね。
日本初馬じゃなくて原チャリで戦場を駆けた女子高生として絵巻に描かれるのも悪くないわ。まあ、調子こいて山道を原チャリで下って崖から落下したから修理が必要なんだけど。
ちょっと気分が高揚して一昔前の暴走族っぽくパラリラパラリラってクラクションを鳴らしたのはここだけの話。
帰りに崖下に寄ってひっそりと拾ってから帰るとしましょう。
今は天下布武の人に会うために私はマツモトキヨス城に入ってます。お城の名前は忘れちゃったから私が適当に命名しちゃった。ミケに跨がった私は不振がられたけどハルちゃんと名乗っただけで割とアッサリ受け入れられてよかった。
女子高生とアホ毛はこの時代ではリスペクトの対象なのよ。
それと私の可愛さが決定打になったわね。
とにかく城に入れたら後はこっちのものよ、話を聞いてくれないようなら適当に駄々をこねればオッケー。天下布武の人が来るまで案内された部屋で寝そべって待ってる事にしよう。
……それにしても遅いわね?
待てども待てども天下布武の人は現れない。暇だからお城の中を見学しちゃおうかな。私って視力は五十三万だから動かなくても見学できるのよねー。
アホ毛をアンテナに代用すればやりたい放題。
ウッヒョー。
今ならお城も見学し放題、現代と違って無料でお城を見学できるのが戦国時代のいいところ。
「あ、天下布武の人がゲリでトイレの住人になってる」
「にゃー?」
「うなぎ料理の食べ過ぎみたいね」
「にゃー……」
ミケは鼻くそをほじりながら「だっせえ」と言ってます。
ん? 誰かがこの部屋に近づいてくる?
ドカドカと如何にも偉そうな足音が聞こえる。だけど天下布武の人はゲリの真っ最中なのにどうしたんだろう? もしかして私を待たせてるからその説明に来たのかな?
私が足音のする方を振り返ると、そこにはゴリラみたいな風貌のおっさんが立っていた。ガタイはいいしヒゲは生えてるし、この世界の男の人はハズレばっかりじゃん。
「お待たせして申し訳ござらん。拙者は当家の家老にして最高の武人・しば……」
「天下布武の人はまだー?」
「にゃー?」
「いや、だから拙者はしば……」
「遅いから勝手に寝そべってくつろいでるけど良いよねー?」
「にゃにゃー」
「……自己紹介させてすらくれないんだ、シクシク。こんな無礼な使者は初めてでござる」
あれ?
ゴリラの人が泣きながら肩を落としてる。何か嫌なことでもあったのかな? 天下布武の人もまだゲリの真っ最中だし、ここは一つこのハルちゃんが励ましの言葉でもかけてあげましょう。
「ドンマイ」
「にゃー」
「……猫に励まされたのは初めてでござる」
「で、天下布武の人はまだゲリなの?」
「な、何故その事をご存知か?」
「私のアホ毛がそう言っているのだよ。ゲリラでゲリになっちゃったんでしょ? ゲリだけに」
ついでに目の前の人はゴリラ。
「ゲリラと言うものはよく分かりませんが、アホ毛がそう申されるのであれば間違いありますまい。左様、お館様はゲリにござる」
「にゃーーーーーー!!」
「ちょっと、ミケもいきなり頭を叩かないでよーーー!? ええ? 女子高生がゲリなんてはしたない言葉を口にしたらダメだって言うの?」
「にゃにゃーーーー!!」
ミケに怒られちゃった。
そんな感じで暇を潰してると天下布武の人がようやく姿を現した。げっそりとした如何にもゲリ上がりな様子で部屋に入ってくる。
うん。
このチョビひげおじさんが天下布武の人だ。前にタイムトラブルした時に会ったことがあるから間違いない。以前はこの人がお寺で寝てるところにタイムトラブってその拍子に建物に火をつけちゃったのよねー。
なんかお寺の外で『敵は本能寺にありー』とか騒ぐ人がいた気がしたなあ。その時は何の挨拶もなしに私の火の不始末でお寺を全焼させてしまったから少しだけ気になってたのよー。
つまりこの人の死因も私です。
「ハルちゃん御前だよー。オイッスー、はじめましてー」
「にゃにゃーにゃ」
「拙者はオ……」
「こっちはミケ。はじめましてって言ってるわ」
「いや、だから拙者の自己紹介を……」
「ゲリゲリなところゴメンねー。実はここの城下で商売させても欲しくってー、どうせ将来的に楽市楽座するんだしいいでしょ?」
「……アホ毛流の開祖ってこんなに無礼な女の子なの?」
「……お館様、この女人は他人の話が全く耳に入らないタイプでござる」
ん?
どうしたんだろう? 天下布武の人とゴリラが内緒話を始めちゃった。
二人は私に背中を向けて「でもあっちは正一位ですし」とか「うーん、アホ毛流と出会ったら全面降伏が武士の習わしだしなあ」とかボソボソと小声で話し合ってる。
なんのこっちゃ?
天下布武の人はこれからナウ川さんを首チョンパして忙しくなるだろうし、私もここの城下でとっとと好き勝手に商売始を始めたいし。
ここはさっさと要件だけ済ませちゃった方がいいよね?
「……戦の戦法が思いついた安堵から腹を下してしまっての」
「へー、ナウ川さんに勝てそう?」
「うむ、ハルちゃんだからコッソリと教えるがゲリを通る腸が戦場と通じると思い至ったのでござる」
「いくサバ?」
「いくサバってどう言う事?」
あれ? 天下布武の人が固まっちゃった。
「オッケーな狭間も小腸みたいに狭いからねー」
「左様!! 狭い道でゲリの如く詰まった敵兵に崖の上から奇襲を仕掛けるのでござる、これで憎き敵も一網打尽ぞ!! 拙者の胃腸がそう言ってるのでござる!!」
「ちょっと何言ってるか分からない。あ、でもその日って天気予報が豪雨だからそのタイミングを見計らって奇襲を仕掛けると楽チンだよ?」
「なんと!? それはまことか!?」
「私のアホ毛がそう言っているのだよ」
なんかこれが私の決め台詞みたいになってきた。
でも戦のヒントは上げたから私を味方と思ってくれたみたいだ。天下布武の人とゴリラが嬉しそうにガッツポーズしてるから、私のお願いも聞いてもらえそうだ。
ふっふっふ。
私はミソニちゃんみたいにパパ活だけじゃ無いんだぞ? 楽市楽座の言葉を匂わせつつ、これから駆け足で出世するチョビひげの人に名前を覚えてもらっちゃおう。その方が今後何かと小細工しやすいだろうし。
この際だしアホ毛を使った切腹の作法でも広めとこうかな?
それともアホ毛を使った茶の湯の作法がいいかな?
どっちにしろ二人とも喜びすぎてこっちを見てないしコッソリとアホ毛を研いでおきますか。
「にゃにゃにゃ」
「え? 教えるならエネルギー弾の方がいいって?」
「にゃにゃにゃー」
「ふむふむ、エネルギー弾の三段撃ちを教えた方が見栄えがいいって?」
この時、私はミケに言われるがままにエネルギー弾の三段撃ちを天下布武の人にデモンストレーションする事にした。この時の経験が少し先の未来に起こる合戦で採用される火縄銃の三段撃ちのヒントとなる。
だけど、この時の私たちにはそんな事は知る由もなかった。
ただただ天下布武の人とゴリラが仰天して目を飛び出させるのを爆笑するしか無かったのだった。ただ気持ちよくエネルギー弾が撃ててスカッとしたとしか記憶に残ってません。
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