猫にまたがったアホ毛の女子高生
ご先祖さまとのファーストコンタクトの一歩手前、何度もタイムトラベルを経験してるならとっくに出会っておけばいいのにと内心でセルフツッコミをしたのはナイショの話です。
「ここが鯖井の里にござる」
「ほほお、ここが私のご先祖様がいる場所ね」
合戦が終わって私はモテル君に領内を案内してもらっています。
あ、因みにモテル君は私と同い年だったそうです。
モテル君は鯖井家の家臣、つまり私のご先祖様の家来。合戦の後に色々と話を聞いて、その事に気付きました。
と言うかモテル君は最初から鯖井家の家臣だって言っていたらしい。
気づくのが遅くてモテル君にジト目で見られちゃった、彼のジト目には恋の予感しか感じなかったわ。もう私とモテル君の挙式は確実よ、付き合うどころかきっと近いうちにプロポーズとかされちゃうんだわ。
きゃー。
そしてモテル君が自分のご主人様に合戦の英雄となった私を紹介したいと言うからついて来たけど、疲れるわー。
この時代の移動と言うものは本当に疲れる。
だって私はミケに跨って移動してるんだもん。ミケの乗り心地は馬とは違って最悪よ。ミケは腕をプルプルとさせながら頑張ってくれてるけど、猫の背中はすごく硬い。
何よりも上背が低すぎて乗ってる私がバランスを取らないと地面に足が着いちゃいそう。
猫はエネルギー弾を撃つものであって跨るものではありませんでした。
猫の手は借りたいけど猫に跨りたくありません。
「にゃにゃー……」
「……私が重いですって? ミケ、アンタは女子高生に言ってはならないことを言ったようね。ちょっとお仕置きにアホ毛でお尻を引っ叩こうかしら?」
「にゃにゃー!!」
どうやらセーラー服を着ているとお仕置きの威力が補正されるらしい。何かに代わってお仕置きしてる気分になれて私も気分が高揚しっぱなしです。
ハルちゃんは色々な意味で愛と希望の戦士でした。
馬に跨って並走するモテル君がドン引きしてるみたいだけど気にしなーい。
「むしろモテル君には跨って欲しいくらいなんだけど……、きゃー」
「にゃにゃーーーー!!」
「いったーい! ミケも本気で頭を引っ叩かないでってば!!」
ミケは「戦国時代だって放送事故は許さないにゃ」と言ってます。
「ハ、ハルちゃん御前。アレがお館様のお屋敷です」
ん? モテル君がそう言うから彼が指差す方を見てみたら屋根から突起がそびえ立つ建物が目に入った。
あの突起の形状はアホ毛?
もしかしてご先祖様はアホ毛を信仰してるのかな?
ここは里というだけあってそれなりに民家が立ち並んでいて、現代日本で言えば所謂閑静な住宅地と言う感じかな? その中に私のご先祖様の居城はあった。
モテル君が言うには通称・アホ毛之館。
居城と言っても見た目は建物の周囲が壁で囲まれてるだけの少しだけ大きな家でした。
「この辺りは地下水脈を辿って海から井戸に迷い込んだサバが豊富に取れます」
とんでもない奇跡がここにはあった。
合戦の後にモテル君に聞いたけど、鯖井の里は地理的に天下布武の人にオッケーな狭間の戦いで敗れた街道一の弓取りと呼ばれた人の領地の北に位置するそうだ。
私のご先祖様はここ鯖井の里を収めながら宇宙領、今で言う東京都宇宙市に自宅があるそうです。ご先祖様って新幹線通勤でもしてるのかな?
その自宅は現代で言うところの静岡県と長野県の県境。
つまりここは思いっきり陸地。
そんな場所まで海から地下水脈を辿ってこれるとは、この時代のサバはとても逞しいのだろう。流石はハルちゃんのご先祖様が苗字に採用するだけはある。
サバってすげー。
改めてリスペクトしちゃう。
「だから鯖井なのね」
「左様。それゆえ、お館様の官位は従三位鯖守、多少のサバ読みならば公に許されております」
マジで?
そんなダジャレで公式がサバ読みを許してくれるの? と言うかモテル君もサラッと言ったけど確か従三位って公卿扱いでこの時代だとメチャクチャ偉いんじゃなかった?
この時代の武士は従五位下とか言うギリギリ貴族の仲間入りとなる中間くらいの階級を目指す人が多いのだ。
因みに私は前にタイムトラベルした時にトントン拍子で最高位の正一位になりました。
イエイ。
「鯖井ちゃんってそこそこ偉いんだ」
「偉いだけで周囲からは舐められまくってます。お館様ご本人はサバサバした性格と思われたいらしいのですが……」
「鯖井だけに」
「にゃー」
「左様。今では周辺の領主たちに調子こいてお金を借りまくって借金が膨れ上がって、返済の催促を鼻くそを穿りながら断って先ほどの様な合戦が極たまーに起こるのでござる」
後で聞いた話だとこのご先祖様の性格が『鯖の生き腐れ』の語源らしい。
注)新鮮なサバだと思っていても、実際には腐り始めており、中毒することがあるという例え。
「……法律とかでサバかれないの?」
「そこはサバを読んで難を逃れてます」
これまで何度もタイムトラベルを繰り返した私だが自分のご先祖様の真相は初めて知った。鯖井家って全くリスペクトできませんでした。
さっきのリスペクトは取り消します。
「時にハルちゃん御前」
「なーにー?」
「ご自身で御前と名乗るのはどうしてでござるか?」
「なんとなくカッコいいから。別に午後でも良かったんだけど御前の方が響きが好みだったのよねー。ああ、エーエムピーエムとかもカッコいいかも」
「……そ、そうですか」
「にゃー」
ミケは「ごぜんの意味が違うにゃ。それとエーエムピーエムはコンビニにゃ」と言ってます。
あらやだ、ハルちゃんとした事がずっと勘違いして名乗ってました。だけどモテル君は何もツッコんで来ないから気づいてないのかな?
だったら自分から訂正する必要もなさそうだ。
今後は気をつけます。
「……この人、お館様と同じ匂いがぷんぷんするでござる」
「え? 何か言った?」
「いえ、何でもござらん。ささ、ハルちゃん。お館様にお目通りして頂きますので、どうぞこちらへ」
居城の門をミケに跨って潜り終わるとギギーッと大きな音を立てて閉じていく。
敷地内に入ってミケから下馬、じゃなかった下猫するとお屋敷の馬番が『馬はこちらでお預かりします』と話しかけて来たから親指を立てながらキッパリと言ってやったわ。
『馬じゃありません、ミケは猫です』ってね。
ついでにミケも私と同じ表情で「にゃー」と返してたわね。
こうして私とミケは馬番とのやり取りを微妙そうな顔つきで見ていたモテル君に案内されてお屋敷の中へと入っていきました。
一人と一匹が自分たちのご先祖様と対面する時間はすでに刻一刻と迫っていた。
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