モザイクは貴族の嗜み
アホ毛とモザイクが地球礼節にスタンダードになる日もそう遠く無いかもしれません。
地道に普及活動を繰り返すのみです。
「……うーー……ん」
「ハルちゃん、目が覚めたのかな?」
「にゃにゃ!」
「ここは何処? 私はだーれ?」
おっと、記憶喪失のテンプレを口にしてしまった。
目を覚ますとミケとつぐみちゃんが心配そうな顔を覗かせていた。それと同時に周囲に響き渡る衝撃音が耳に届く。
最早耳を塞がないと鼓膜が破れかねない爆音。
視覚と聴覚は正常、と言う事は私は助かったのか。地球崩壊の中で無事だった事に流石に驚きだよ。
うん、まったく状況の整理が付きません。
もう自然と私のアホ毛がクエスチョンマークになって首を傾げちゃう。まずは順番に考察を落としていくとしよう。そこから状況を把握するとしよう。
「その一、地球崩壊のアレは実は大掛かりな映画の仕掛けだった」
「にゃにゃー」
ミケに「そんな訳ないにゃ」と言われちゃった。
呆れた様子でミケは私に「言いから早くボンドをもっと寄越すにゃ」と肉球で要求してくる。この状況でどうしてミケはボンドが必要なの?
よく分からないんですけど。
そして遠くに先ほどから小刻みに響く爆音が頭を抱える私にストレスを与えてくるのだ。もー、さっきから煩いなあ。
煩くて静かに考える事もできないじゃん。
ブオオオオオオオオオオン!! と何処かで聞いたことのある原チャリのエグゾーストは珍しく真剣に思考に耽る私を邪魔する。
ふと爆音が聞こえる方向に視線を送る。
そして気付いてしまったのだ、その爆音の主は原チャリで人っ子一人いない荒野を駆け抜けるミソニちゃんだったのだ。狂気を撒き散らすミソニちゃんが『鯖命!』と言う刺繍の入った十二単で暴走行為を働いていたのだ。
ミソニちゃんってば地球を木っ端微塵にしておいて元気だなあ。
「お? ミソニちゃんが相手をしてるのってモテルパパ?」
人っ子一人いない荒野じゃなかったんだ。
究極の変態だけど人間としてカウントしてもいいよね?
相変わらずモテルパパは太陽光をモザイク代わりにして全身素っ裸のまま荒野を走り抜けていた。
あ、なるほど。
ミソニちゃんはモテルパパと戦ってるんだ。
ヤンキー大名とモザイクの衝突が地形を変えてるじゃん。
「あのね状況を説明すると……」
素っ裸の変態に蔑んだ視線を向ける私につぐみちゃんが状況を教えてくれた。
地球爆発の原因となったミソニちゃんの口寄せの術、実はアレが原因で鯖江にあった元の世界の繋がるゲートが地中を伝って偶然鯖井の里に移動して来たらしい。ミソニちゃんのやらかしで大暴れした十二億のサバたち。
彼らによって地球が盛大に揺れてあの場所まで移動してきたゲートのおかげで私たちは救われたそうです。
それってサバたちが地層を変えたって話じゃん。
戦国時代のサバって本当に何者なの? ここまでの事をされたら魚類として見ることすら出来ないんですけど!?
「にゃにゃ」
ミケは「早くボンドにゃ」と私を急かす。確かにカバンの中にパレット単位でボンドを突っ込んでるけど、どうしてミケはそんなにボンドを要求するのかな?
あっちでミソニちゃんがモテルパパと戦ってるのよ?
だったらあっちに加勢するのが先じゃないかな? 変態は一秒でも早く消滅させた方がいい。だけどつぐみちゃんまで「は、早く猫ちゃんにボンドを出してあげて。できれば絆創膏も出してあげて」と口にする始末。
まったく状況が理解できないんですけど?
と言うよりも戦国時代で地球が崩壊した事実と私が元いた世界に戻って来れたを総括するなら……。
「どうして戦国時代から見て未来になるこの世界で地球がまだ存在してるの?」
ドギャン!!
ブオオオオオオオオオオオオン、ブオンブオーーーーーーーーーーン!!
おお……、ミソニちゃんってば原チャリでドリフトしながら分裂アホ毛カッターで応戦してるじゃん。ああ言うのを戦隊ヒーローモノのアニメで見た事あるんですけど。
爆発の中をロケットエンジンで突き進むとかミソニちゃんからは戦国感を全く感じません。
私のご先祖さまは人間かどうかすら怪しいわね。
え? それを言ったら私も同類だって目をつぐみちゃんが向けてくる。つぐみちゃんは「ハルちゃんも同類だよ?」と呟くけどどう言う事?
ちょっと良くわかりません。
「にゃにゃにゃ」
「え? ミケが今からあのゲートであっちに戻って地球を補修し直すって言うの?」
「にゃ」
「だからボンドが必要なんだ。オッケー、ほいっと」
なるほど。
つまりあっちの世界はまだ完全に崩壊してないのか。で、ミケが接着のために今からゲートで戻ると。
ティッティリー、業務用ボンドーーーーーーーー!! と絆創膏ーーーーーーーーー!!
カバンからボンドと絆創膏をパレットで出したから地面に置いたらズシンと純量感タップリの音がする。実際に重量物だから私たち全員が少し浮いちゃった。
と言うかつぐみちゃんは絆創膏で何をすると言うんじゃい。まさか地球に張るとか言わないよね?
お。
ミケは待っていましたとばかりにパレットを担いで戦国時代に戻っていっちゃった。ミケってば何処からか作業服とヘルメットを取り出して準備がいいじゃん。まあミケに任せておけば大丈夫でしょう。
ミケの建築士としてのプライドと国家資格は信じるに値するものがある。
何しろミケの代表作はサクラダファミリアとかビッグベンみたいな世界遺産級のものばかり。確か皇居とかもミケが設計に関わっていたはず。
何よりミケは宇宙猫。
例え宇宙空間だって補修作業が可能なのだ。
……ん? そう言えばすっかり忘れていたけど、喪照くんは何処に行ったんだろう? 私たちが助かってるんだから彼が助かっていてもおかしく無いんだけどなあ。
「……証拠隠滅は完璧だから」
つぐみちゃんが無表情のままそう言い放つ。
ほほお、つまり喪照くんを意図的に見捨ててバツイチの証拠を消したと。つぐみちゃんもやっぱりアホ毛だよねえ、こう言う証拠隠滅に迷いが無くなった様に見える。
手を伸ばせば助かるはずの元夫をあえて見捨てたんだ。
それはそれできっもちいいいいいいいいい!! ライトなアフロだけどあれほどのイケメンをスッパリと切れるとは。
それでこそ一緒にアイドルグループを組んだだけの事はあるってもんじゃい。
つぐみちゃんはキラリと涙をこぼしながら私に笑顔で親指を立ててくる。
何はともあれおおよそは理解した。
モテルパパはミソニちゃんが相手をしている。残りは三英ケツがどうなったかと言う話なんだけど。あの変態たちも抹殺しないとダメだよね?
女子高生と女子大生の目の前でケツを見せただけで万死に値する。そう思って周囲をキョロキョロとし出した訳だけど、つぐみちゃんは私の考えを先回りしたようでその答えを教えてくれた。
つぐみちゃんはスマホの画面を突き出してげっそりとした様子で語り出す。
「ゲートの出口は個人差があるみたいなの。あの三人は広島が出口だったみたい」
「ああ、ネットのニュースに載ってるんだ。三英ケツがふんどし姿で広島から大阪方向に向かって時速六十キロで爆走中?」
どうしてネットニュースで三英ケツの移動速度とそのルートが調べられるんじゃい。アンタらは台風か何かですか?
「……多分目的地はここ、私たちの現在地は大阪と京都の県境くらいなんだよねえ?」
それって中国大返しじゃーん。
と言うことはここはザキヤマなのか。ザキマヤの決戦、確か天下布武っちが殺されて猿顔のハリネズミがその敵討ちを果たして戦いだったはず。
サギヤマの決戦に向けて三英ケツが来るーーーーーーーーーー。私もつぐみちゃんと隣り合ってシャクレ顔でポーズを取っちゃった。
いやいや、だけど天下布武っちはピンピンしてるじゃん。
あの変態たちは何が目的でふんどし姿で現代日本を爆走してるのだろう? ネットニュースにまで醜態を晒してアイツらはモテルパパの味方をする理由って何?
そもそも三英ケツはモテルパパをリーダーと呼んでたけどあれも理由が謎なのだ。
「……ふう、ハルちゃんバッドニュースあるけど……聞く?」
「え? まだ何かあるの?」
「実はね、気になってネットで調べたんだけど……モテルパパも歴史に名前が残ってるのよ」
私がウンウンと唸って悩んでいるとつぐみちゃんはゲッソリ感を更に深めて会話を切り出してきた。私が首を傾げるとつぐみちゃんはスッとスマホ画面を私に見せてきた。
もう肺の中の空気を全て吐き出さんとする様につぐみちゃんはため息を吐いていた。
私もその画面を見て驚きのあまり目が飛び出ちゃいました。
「……え? 何処からともなく彗星の如く現れて並み居るライバル貴族を蹴り落とし……関白と摂政を兼任!? 最終的には太政大臣も歴任ですって!? しかもあのモザイクが……血縁を入内させてみかどっちと親戚関係になったあああああああああ!?」
「もう……完全にテロだよねえ」
「権力を掌握した後は世界に進出してモザイクをユニバーサルスタンダードに広めたですってえええええええええ!?」
「こっちの世界は今、服を着てると犯罪になるらしいよ?」
モテルパパには歴史から消えてもらうしか無いじゃん!!
世界中に変態を広めるとか悪の所業だ。
しかもモテルパパはアホペディアにまで情報が載ってるんですけど!? そして私のページは消えている。弟の馬理衣からの情報だと私のページがある筈なんだけど。
モテルパパの影響としか思えない。
ダメだ、今のうちにモテルパパを始末しないと世界中から倫理観が消滅してしまう。日本の小中学校から道徳の授業を失ってたまるか!
そう考えた時には私のつぐみちゃんもその場から走り出していた。必死に堪えるけど溢れかえる涙を拭ってミソニちゃんの加勢を決意した。
もういっそ地球が消滅しちゃえば話は早いのに、と思い付いた事は内緒です。
地球が消滅すれば変態もこの世から消えると、日本の歴史上最も活躍した三人の英雄すらも変態に変えた究極の変態と戦うご先祖さまに申し訳がなさすぎる……。
「……この件、猫ちゃんも知ってるから」
「……ミケってば……健気すぎるんですけど」
走る途中で目が合ったつぐみちゃんの一言が私の罪悪感を更に深めるのだった。
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