困った時はエネルギー弾
二話目、ハルちゃん流に華麗に戦国トラブルを解決します。
ハルちゃんはこうじゃ無いと、と密かに納得してます。
「ハルちゃん御前、敵方は醜井の軍勢でござる」
「……モテル君、敵の侍がものすごいブサイクばっかりなんだけど?」
「当然にござる。何しろ名前からして醜井でござるゆえ」
マジで?
この時代の軍勢って名前と見た目が一致するものなんだ……、よく見たらこっちに突っ込んでくる侍たち全員が油ギットギトじゃん。
しかも敵の見た目はナマズね。
チャーミングなヒゲと横に広い輪郭が特徴の泥んこオッサン集団が女子高生に突っ込んできます。コレって通報しても良い案件じゃん。
深夜番組ですら許されない絵面だ。
何より女子高生としては絶対に触りたくありません!!
「となるとやっぱりエネルギー弾の一択ね」
「にゃー」
女子高生と猫が仁王立ちでむさ苦しいオッサンを待ち構える。ミケも「ヌルヌルはいけるけどギットギトは勘弁だにゃ」と言ってます。
ヌルヌルとギットギトの違いとは?
「ハルちゃん御前?」
「ん? どうしたの?」
「ずっと気になっていたでござるが、そちらの猫は?」
「ミケよ」
「にゃー」
ミケにツッコまれちゃった。
ミケは「そう言うことを聞かれてる訳じゃないにゃ」と言ってます。うーん、言われてみれば猫が合戦場にいる事自体珍しいかも。
それも二足歩行で仁王立ちする猫だったら尚更珍しいかも知れない。
「ミケとはかの有名なハルチャン御前の高弟……あの伝説のアホ毛流の高弟が猫だったとは。我々人間はまだまだ精進が足らなかったらしい」
あれ?
意外と伝わっちゃった?
もしかして喪照さんが泣いてる? 他の人たちもガックリと肩を落として落ち込んでいるのよね、もしかしてミケって歴史的に有名だったりするのかも。
「にゃー?」
ミケが鼻くそを穿りながら「エネルギー弾まだかにゃー?」と言ってます。喪照さんが落ち込んでるのは気になるところだけど、今は放置しときましょう。
こうしている間にも油ギットギトが私に迫っているのだから。
「……アホ毛流剣術弐の奥義……連続エネルギー弾!!」
「にゃーーーーーーー!!」
「剣術と一切関係ねえ奥義でござるな」
喪照さんに至極尤もなツッコミを頂いちゃったけど気にしませーん。
私とミケの一人と一匹分のエネルギー弾がその手の平から醜井の軍勢に向かっていく。チュドーンとかドカーンなど派手な音と共にオッサンが宙に舞い散る。
オッサンはオッサンで「お母ちゃーん」とか「母上ー」などと悲鳴をあげる。
見ていて何とも吐き気を催す光景だ。
またしてもドクロ形の巨大な煙が立ち込めてます。マッドサイエンティストにでもなった気分になちゃうじゃん。そもそもこの状況って戦国時代だとあまり見ない光景だよね?
下手したら私たちって魔女裁判とかで火炙りにされちゃったりして。
「……ハルちゃん御前は摩利支天の化身でござったか」
あ、大丈夫みたい。
やっぱり雰囲気を優先させておいて正解だった。喪照さんから太陽の女神に例えられちゃった。
きゃー。
「モテル君」
「どうされた?」
「あのオッサンたちって何人くらいいるの?」
「開戦前の情報だと千はいると」
「千……、油ギットギトのオッサンが千人もいるんだ……」
「にゃー……」
ミケは「あの油はエネルギー弾だろうと触れたくないにゃー」と言ってます。そうなのだ、オッサンたちが舞い上がるたびに、その油が周囲に飛び散るのだ。
ミケの言う事はよく分かるのよねー。
ぎゃーーーーーーーー!!
もう少しで飛散するギットギトに当たりそうだった!!
「ひっ!? 油がここまで飛び散ってくる!? そして臭い、バッドスメルス!!」
「にゃにゃー!!」
ぎゃー!!
色々と考えていたら目の前にベトベトの粘液が飛んできちゃった!!
「凄い、百対千で始まった戦いだったのに見る見るうちに戦力差が埋まっていくでござるよ」
「え? そんなに戦力差があったの?」
「当然にござる、鯖井家は歴史が無駄に長いだけの弱小大名ですが醜井家は立派な守護大名。そもそもの戦力差は明白」
アンタら、最初からこうなると分かってたんかい!!
守護大名ってアレでしょ?
冷蔵庫は一家に一台的な感覚で一国に一人はいる領内の警察署長みたいな人。敵がそんな相手と分かってて喪照さんは戦ってたの?
ええ、じゃあ当分エネルギー弾は続けた方がいいかも……。
威勢よく手助けを申し出たけど、そろそろ手が疲れて来ちゃった。ミケも飽きちゃったみたいで「面倒くさいからそろそろ自爆してこの辺一帯を焼け野原にして良いかにゃ?」と目で訴えかけてきます。
と言うかミケって自爆できたんだ。
「ハルちゃん御前、折いって頼みがござる」
「はいはーい、モテル君のハルちゃんはなんでも聞きますよー」
「そのギットギトは可能な限り集めたいでござる」
「……なんで?」
「そのギットギト、ガマの油にも負けぬ傷薬のなるゆえ是非とも戦利品として持ち帰りたい」
マジで?
喪照さんはイケメンなのにオッサンの油を傷薬に使っちゃうんだ。しかも彼にもギットギトで通じてしまうところが恐ろしい。
そんな話を聞いたら絶対に怪我なんてするわけにはいかないじゃん!! まあ、私のカバンの中には自前の消毒用アルコール(業務用)が入ってるから心配ないけど。
あ、ミケがウィンクしてくる。
これはアレね、ミケが怪我をしたら頼むぞって意味だ。だけど世の中はそんなに甘くないのよ、ミケもそろそろ世間の恐ろしさを味わうべきなんだわ。
「……嫌よ。アレは私の分しかないの」
「にゃにゃー!!」
「あ、こら!! ミケも泣きつかないでよー!! ダメなものはダメよ!!」
「にゃー……、にゃにゃーーーーーー!!」
「え!? だったら奪い取ってやるですって!? ちょっと、こっちにエネルギー弾を向けるんじゃないっての!!」
「にゃーーーーーーーーーーー!!」
ミケが私に向かってエネルギー弾を撃ってきたーーーーーー!?
「え、ええ!? だったら力づくで奪うですって!?」
ほほお、だったら久しぶりにやっちゃいますか?
時空を超えても私たちの喧嘩は時間も場所も選ばない。喧嘩をするほど仲がいい私たちを見せつけるのね? いいじゃない、やってやろうじゃないの!!
「ミケーーーーーー!! アンタは女子高生を怒らせたーーーーーーー!!」
「にゃーーーーーー!!」
「ハ、ハルちゃん御前!? 敵は向こうで……って、ぎゃーーーーーーーーー!!」
私たちは喪照さんの目の前で喧嘩を開始してしまった。
怒りに任せてエネルギー弾を打ち合う私とミケ。そして、その衝突に巻き込まれてまたしても吹っ飛ばされる喪照さんとその仲間たち。
「ミケーーーーーーー!! アンタはまだ心の何処かで地球へのダメージを気にしてるのよ!! 心を燃やしなさい!!」
「にゃーー……、にゃにゃ」
「そうよ、もっと適当にザックバランに心を燃やすのよ! 心の中なら放火したって罪に問われないんだからユー好きなだけ心を燃やしちゃいなヨー」
「にゃにゃーーーーーーー!!」
「ハルちゃん御前、ミケ殿!? ちょ、ちょっと色々と拙者たちにも被害が……あああああああああああああ!?」
あ、喪照さんが枯れ葉みたいに吹っ飛ばされちゃった。
気が付けば私たちの喧嘩に巻き込まれて喪照さんとその部下たちもギットギトのオッサンたちも関係なく悲痛な叫びをあげながら吹っ飛ばされていました。
そしてこれまた気がつけば合戦は終了していて、後で聞いた話だと私ミケが喧嘩してる隙に敵はコッソリと退却していたのだそうです。
因みに私とミケは気が晴れるまでエネルギー弾を打ち続けた結果、ストレスを発散させてお肌がツルッツルになりました。だけど気のなるのはどうして私とミケが喧嘩を始めたか、その原因をまったく覚えていないのだ。
まあ、これもいつもの事なんだけどね。
私とミケは喧嘩が終わるとその原因を全く覚えていないのだ。
まあ、覚えていないと言うことはきっと大した理由ではないのだと思う。
それと経緯はよく分からないけど、結果的にミケの望んだ通り周囲一帯は焼け野原と化していた。モテル君のお望み通りギットギトの油は回収できたらしく万々歳である。
「ギットギトを早速使えて良かったね?」
「……そう言う意味ではござらんのだが……。トホホ」
「にゃー?」
「モテル君、どうしたんだろうね? ギットギトをあんなに集めたがってたのに」
兎にも角にも私は合戦の功労者として喪照さんに丁重に扱われる事となった。合戦後、ゲッソリと疲れ切った彼の背中を追いかけて私とミケは彼の領地に案内されたのだ。
その道中で「ギットギトは備蓄したかったのにー」とモテル君はため息混じりに呟いていた。
よく分かりませんな。
でも、まあいっか?
私たちはタイムトラベル初日に寝床を確保出来ただけでも良しとしよう。
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