男女の関係がクリーンでなくちゃ【後編】
アホ毛は時代に関係なく造語を残します。
戦国時代では通用することも現代の倫理では受け入れられない事もあるんです。
ようやく家の中に入れて貰えた。
さっきまで盛大に夫婦喧嘩を繰り広げていた二人。旦那さんは猿顔のハゲねずみで奥さんは綺麗な人だった。
……くっ、戦国時代にタイムトラブって初めて屈辱を味わった。
この奥さん、私のアホ毛が感知したところによると、まさかのEカップだった。私のアホ毛はおっぱい測定器なのよ!!
まあ泊めて貰う恩はあるんだし、今日のところは我慢してあげるわ。
このウサは後日、誰かを暗殺することで晴らすとしよう。
ミケも私の肩に肉球を置いて「どんまいにゃ」と諭してくるし、勝負は後日に取っておくとしましょう。
家の中で私とミケはいまだ喧嘩中でプリプリとした様子の二人に面と向かって座ってます。
「さっきはごめんさないねえ。ハルちゃんが若くて可愛かったからまたウチの人が浮気したと思っちゃって」
「だから少しは俺を信じてくれって言うとるがや……」
「まったく、世の中の女はこんな猿顔の何処がいいのか……」
「その猿と結婚したお前にだけは言われたくないだでや?」
奥さんはペチッと旦那さんの頭を叩いてそう言うのだ。肝心の旦那さんは「お館さまが付けてくれたあだ名に文句言うなっての……」と不満そうに呟く。
猿ねえ。
何処かで聞いたようなあだ名だけど、どうも思い出せない。そこそこ重要なキーワードの筈が私もミケと一緒にアホ毛と尻尾をを傾けて考え込む。
ダメだ、思い出せない。
でも思い出せないって事はきっと大した事じゃないと思う。取り敢えず一晩お世話になるんだし適当に話を合わせておくとしよう。
「天下布武の人の家来なんだ。そう言えばこの前、天下布武の人が家来に浮気ばっかりする人がいるって愚痴ってた気がするなあ」
「にゃ」
ミケは「覚えてるにゃ」と言ってます。
「確か……家来の奥さんから愚痴の手紙貰ったとかなんとか」
「それ私かも」
奥さんは申し訳なそうにガックリと肩を落としている。
「天下布武っちに元気付けてやりなよーって言っといたんだけど返事返ってきた?」
「え、そうなの!?」
「うん。思ったこと言ってやれば良いじゃんって言っといた」
鼻くそを穿りながらアドバイスをした記憶がある。
「えええええええ!? じゃあハルちゃんは私にとって恩人だでや!! だってお館さまってば、もんのすごく私のこと褒めてくれてたんだぎゃ!! 以前会った時よりも綺麗になってたね、って手紙に書いてあったんだよおおおおお!!」
天下布武っちもやるな。
まさか家来の奥さんにそんな口説き文句を返すとは。あの人はただ自分が被ったゲリから次の戦用のゲリラ戦術を思いつくだけの人じゃなかったらしい。
そして奥さんは勝ち誇った様な表情を旦那さんに向けて私の手を握りしめる。別に私は奥さんに味方って訳じゃないんだけど。
旦那さんは旦那さんで渋い顔付きになって愚痴をこぼす。
うーん、この夫婦は典型的な旦那さんが尻に敷かれるタイプらしい。
と言うか戦国時代にタイムトラブって即失恋した私への当て付けに思えてならない、なんだったら征夷大将軍の権威を最大限に活かして日本全国の夫婦を離婚させてやりたいくらいなんだですけど。
最早、夫婦と言う存在そのものが私の敵なんじゃい。
その元凶はつぐみちゃん。
戦国時代に夫婦狩令を実現させちゃおうかな? 何処かの天下人が実施した刀狩令みたいな感じで全国の夫婦を平等に不幸にしてやるんじゃい。
……その天下人もあだ名が猿だった気がするんだけど。
まあいいか。
「俺だってお館さまに薪奉行に任命されて色々と大変なんだってば……」
「……仕事のイライラを浮気の原因にしてるがや?」
「いや……そう言うわけじゃないけど。でも、お館さまが戦の費用捻出のためにどうしても薪代を削減しろって言うから」
「にゃにゃ」
「え? 薪を納品する業者の話を聞いてみろって?」
さっきまで私の隣で鼻くそを穿りながら寝そべっていたミケが突然ハリウッド映画のマフィアのボスみたいに何処からか取り出したソファにふんぞり返っている。
そしてハゲ頭を抱える旦那さんに葉巻を吹かして何の前触れもなく助言をする。
ミケはこう見えて意外と経営コンサルティングに精通した猫、実はミケは中小企業診断士の資格を保有する猫なのだ。
「にゃにゃにゃー」
「例えば……業者に年間で一括納品させてるなら小出しで納品させろって? その方が業者も在庫管理にかかる人件費を抑えられるし、小出しなら納品量も小ロットになって輸送にかかる人手も委託に頼ることなく内製化が可能となる?」
ミケは小難しい事を言うから私も付いていけないじゃん。
ん? 猿顔の旦那さんがハッとした表情でミケを見てる?
「……その手があったか」
「アンタ? どうしたの?」
「……これでお館さまの要求に応えられるかも知れない」
「アンタ、まさか出世出来そうなんがや!?」
「お館さまは身分関係なく成果を出した人材を積極的に抜擢してくれるお方だ、これで結果を出せばお前に少しは贅沢をさせてやれるだでや!!」
「藤吉郎さん……」
「おね……」
ヒューヒュー。
鼻くそを穿りながら目の前の夫婦を全力で冷やかしますよー。ちっ、さっきまで殺気を放って喧嘩してたくせに、今度は手を握り合って見つめ合ってるじゃん。
結局はどれだけ喧嘩しても実は仲睦まじい夫婦だったって事ね。
一晩お世話になる立場だけど一気に冷めちゃった。
と言うか良くロットの意味を理解できたじゃん。
私もミケみたいに適当にアドバイスしちゃおうかな? そのアドバイスを真に受けて出世コースから外れればいいのに。
「オッサンってお侍さん?」
「今はそうだけど元々は農民の出身なんだ」
「ふーん。万が一だけど天下取ったら征夷大将軍は諦めて関白とか目指した方がいいよ?」
「ああ、そっか。征夷大将軍って源氏の血筋じゃないとダメなんだった」
因みに鯖井家は源氏じゃないけど「ハルちゃんとミソニちゃんは怒らせると後が怖いから」と言う理由でみかどっちが征夷大将軍に任命してくれました。
イエイ。
「それと天下取ったら全国規模で検地とかしないと年貢の課税を管理出来ないからね」
「……有名な大名ほど検地やってる印象あるなあ」
「後は家来同士の喧嘩を禁止して管理しないとダメだよ?」
「ははあ……。そっか、そうする事で裁判権とか刑罰権を独占できるのか」
あれ?
もしかして余計なことしちゃったかな? 旦那さんが私の適当なアドバイスに感心しっぱなしで、腕を組んで考え込んじゃった。ミケも私の肩にポンと肉球を置いて私に「意外と経営コンサルの才能あるにゃ」と言ってくる。
でも、まあいいか?
順調にミソニちゃんの借金は返済できたし、経済基盤も整えられたし。ここまでやればママだって私のお小遣いを増やしてくれるだろう。
月に三千円だったお小遣いを五千円にアップしてくれるに違いない。
もしかしたら夢の一万円だって狙えるかも……。
ジュルリ。
やっべー、破格のお小遣いが現実味を帯びてきてヨダレが止まりません。
「……ハルちゃん? どうしたの? 大丈夫?」
奥さんにも真顔で心配されちゃうし……、そんな顔されると夫婦狩令とか出そうとしてた自分に罪悪感を感じちゃうんですけど。
「私のアホ毛が天のお告げを受信してただけだから」
「そう言えばずっと気になってたんだけどハルちゃんってアホ毛流の開祖だったりする? さっきもお館さまに会ったような口ぶりだったし」
「そだよー」
二人のラブラブっぷりを見せ付けられて私もやる気無くしちゃったよ。もうミソニちゃんの借金なんてどうでも良くなって人様の家の中でブレイクダンス始めちゃった。
アホ毛でバランス取りながらクルクルと回転してます。
ミケはと言うと「はしたないにゃ!」と慌てて私のスカートを必死で押さえてる。下着が見えない様にとスカートに張り付いてますがな。
「ね、ねえ。ハルちゃん」
「お姉さん、どったの? 急に顔なんて近付けちゃって」
この奥さんもミケに負けじと意外に器用な人じゃん。
私に必死にしがみ付いてアホ毛の回転に振り落とされまいとしてる。しかもその体勢でグイッと私に顔を近付けて質問を始めるのだ。
近くで見るとやっぱり綺麗な人だなあ。
その美人さんが目を血走らせるのだから私も無視できないじゃん。寧ろこの人は怒らせたら危険な人種だと私のアホ毛が感じ取っている。
「ウチの人の浮気癖……治ると思う?」
「無理じゃね? だって見た目が完全に猿じゃん」
「やっぱりかー……。この人って私と言うものがありながら無謀にも上司の妹さん、つまりお館さまの妹さんに惚れてて困ってるのよー」
「犬畜生どころか猿にも劣る最低な男ね……」
「まあ当の妹さんが相手にして無いから大丈夫だとは思うんだけど、私としては心配で……」
「……そう言えば上司の妹さんに相手にされないからって、そのツンデレな娘さんにちょっかい出した最低な武将の話を何処かで聞いた気がする」
「うわあ……何そのゲス野郎」
まさか失恋経験しか無い私が恋愛相談を受ける日が来ようとは。
この奥さん、実は私と同い年だった様で意外と気が合うことが判明した。この日は旦那さんの最低な浮気話に花を咲かせる事になる。
胸のサイズは負けたけどこの奥さんはかなりの苦労人で、私も思わずホロリと涙を流してしまった。
その旦那さんはと言えば元々猿顔だったのに、更に険しい表情になって私と奥さんの会話を見守っていた。自分の浮気話が話の趣旨だったからか、部屋の隅っこで体育座りをしながら居心地悪そうにしてました。
いや、違うな。
この旦那さん、鼻をピクピクと動かしながら恍惚そうな表情を浮かばせて鼻血垂らしてるじゃん。
私はそんな旦那さんに汚物を見るような視線を送りつつ奥さんの愚痴に自分の知識を総動員して耳を傾けていった。
「ソイツってね死んだ部下の奥さんや親友の娘さんにまで手を付ける至高のゲス野郎でさあ。なんとその娘さんに至っては三十五歳差だよ?」
「え? その娘さんっていくつなの?」
「確か十四歳だったかなあ?」
「うわあ……幼女趣味い……。ドン引きだよお、ウチの人以上の最低野郎じゃん」
「幼女趣味ってロリコンって言うんだけど、でねでねソイツ余裕ぶっこいてその娘さんを実家の加賀に住む事を許可してカッコつけて会いたくなければ会いに来なくていいとか言ってたから気付いたらフラれちゃったんだよお」
「うわあ、ざまあとしか言えないねえ。もしウチの人がそんな事したら絶対に離婚だよお……。ロリコン離婚、略してロ離婚だよお」
ロ離婚。
戦国時代に語呂のいい造語を生み出してしまった。
「にゃにゃにゃ」
ミケは私たちの会話を横から聞いて、「その張本人が目の前にいるにゃ」と言い出した。ミケが何を言ってるのか分からない、詳しく聞くのも面倒くさいから今は放置しときましょう。
読者のみんなは詳しく知りたかったらググってね。
迷子になってマツモトキヨスで明かした夜の恋バナが後の天下人の性癖を呼び起こす事になろうとは今の私が知る由もないのだ。
そもそも私自身、自分の発言が割と歴史上で重要な人物に大きく影響を与えているとは考えもしてません。
私にとっては歴史よりも自分のお小遣いの方が大事だし。
ミソニちゃんに如何に借金を作らせないかが私にとって最重要なのだから。だが今の私にはこれも知る由もないのだ。今この時にもミソニちゃんが着々ととんでもガールっぷりを発揮している事に。
私のご先祖さまはやっぱり一筋縄ではいかない人だったのだ。
面白いと思ったら下の評価やブクマに感想など頂ければ嬉しいです。
執筆の糧になりますので、どうぞよろしくお願いします。




