ロケットエンジンで将軍宅を突っ走れ
ライトなノリで武家の棟梁に色々と迫るアホ毛大名のたくましいスタイルをお送りします。
「ひょええええええええええ!! アクセス全開で山道を降りるのやめてーーーーーーーー!!」
「うっひょおおおおおおおお!! この原チャリって乗り物、きっもちいいいいいいいい!!」
ミソニちゃんってば凄いな。
彼女の所持してる免許はパパのものだからミソニちゃんは確実にペーパードライバー。むしろ無免許運転なのに、もう原チャリを乗りこなしてるじゃん。しかもミソニちゃんは京都に向かう途中で山道に落ちていた鹿のフンを見つけるなり「鹿が下れる山を原チャリが下りられない訳ないじゃん」とか名言を口走って全速全開でアクセル回しちゃうし。
その背中でミソニちゃんの原チャリに同乗するつぐみちゃんは大声で泣き叫ぶ。
ここは勘解由小路烏丸。
上京と下京の2つの町の中間点で将軍ちゃんの新居がある場所。
ここでノホホンと過ごす将軍ちゃんに仲直り中のみよっしーながよっしーが重用されて警護を任されている。私とミソニちゃんが新居祝いに来たと言ったにも関わらず問答無用で門前払いされたから強行突破を決意したのだ。
思いっきり助走を付けて原チャリで将軍ちゃんの御所に突っ込んでる真っ最中です。
「にゃにゃにゃんーーーーーー!!」
「ミケってばノリノリじゃん!! タンクトップにバンダナでロケットランチャーを担ぐなんてさっすがはミケ!!」
「にゃにゃにゃーーーーーーん!!」
ミケは「俺が法律だにゃ!!」と何処ぞのハリウッドスターもろパクリの台詞を口走ってます。私の運転する原チャリの後ろに乗って、ロケットランチャーを担ぎながら嬉々としてエネルギー弾を放つ。
一匹の猫はノリとテンションに身を任せて戦場を突っ走る。
そのロケットランチャー全く意味無いじゃん。
……それにしてもさっきから地面がツルツルと滑るわね。
これって前に殲滅した醜井の時のデジャブかな? 見る限りみよっしーながよっしーの警備兵は足軽から騎兵まで全員ツルツルテカテカしてるじゃん。
それに醜井に負けず劣らず侍たちがブッチャイクだ。
まさか……このおっさんたちも?
「このおっさんたちの体液が地面をツルツルにしてるって言うの? ツルツルも好きじゃないけど、ここまで来たら全力で楽しんでやろうって話じゃん!! あ、それえ!!」
原チャリでフィギュアスケートよおおおおおおお!!
私の原チャリテクニックをフル活用してスパイラルシークエンスからのお……四回転半ジャンプ!! そんでもってコンビネーションジャンプじゃい!!
こう見えても私はフィギュアスケートの世界選手権で優勝した実績があるのよおおお!! その私の実力を持ってすれば原チャリでスケートなんて楽勝ってね!!
きっもちいいいいいいいい!!
まさか戦国時代の将軍御所でフィギュアスケートを楽しめるとは思ってなかったわーーーーーーーー!!
いえーーーーーーーい!!
「にゃにゃにゃにゃーーーーー」
「ミケも原チャリでニケツしながらイナバウアーなんてしちゃってノリノリじゃん!!」
「にゃにゃー」
ミケは「猫背にイナバウアーはキツいにゃ」と言ってます。
「ミソニちゃん!! このまま将軍ちゃんの寝室まで突っ走るんじゃい!!」
「うっけけけけけけ!! 原チャリさえあれば天下統一も夢じゃないわーーーーーーー
!!」
おお、凄え。
ミソニちゃんってばウィリーの姿勢でグングンと突っ走っていく。鯖井の里を出る時に勝負服だって言って着替えたミソニちゃん自慢の十二単が一昔前の暴走族感を強調してるじゃん。
その十二単の背には「鯖命!」って刺繍されてるし。
そもそも戦国時代にビックリマークとか存在したの? 寧ろこっちがビックリだ。
一方のつぐみちゃんはつぐみちゃんで鼻水を垂らしながら振り落とされまいと必死になってそのミソニちゃんにしがみ付く。
そして地味につぐみちゃんも凄い。
無自覚にアホ毛を遠隔操作してるじゃん、極限状態に陥って私の代名詞『アホ毛カッター』を習得したようで群がる侍たちを次々と倒していく。
「ひょええええええええええ!! どうしてアホ毛が勝手に動き回るのおおおおおお!?」
「私もミソニちゃんとつぐみちゃんに負けてらんないんじゃい!! 元祖アホ毛カッター・零式!!」
言っても零式は雰囲気だけどね。
元祖と零式の違いとは?
私もミケと同じでノリと勢いでそれっぽくしてるだけ。すると目の前では敵の足軽に騎兵が次々と悲鳴を上げて吹っ飛んでいく。「ママ上ーーーーーー!!」とか「アホ毛と闘うとか自殺行為にござる!」とわめき散らしながら敵が脱兎の如く敗走していく。
うん、ミソニちゃんの言う通りかもしれない。
原チャリとエネルギー弾さえあれば簡単に天下統一出来るじゃん。しかも、気づかない内にみよっしーながよっしーを原チャで轢いちゃってるし。
戦国大名を星に変えて空の彼方に吹っ飛ばすとは。
ミソニちゃんとつぐみちゃんは無自覚に歴史を変えてしまう。
キラーンと言う効果音と共に歴戦の武将を倒しちゃう辺りに鯖井家の血筋を感じるのよねー。そこだけは常にスマートに歴史を変えてきた私とは違う。
私ならもっと上手く出来るんじゃい。
「はっ! エネルギー弾で証拠隠滅よおおおおおおおお!!」
「にゃにゃにゃーーーーーー!!」
轢かれて吹っ飛んだ敵軍の大将をエネルギー弾で消して証拠隠滅しとこうっと。歴史を変えてしまったのなら、その事実自体を消しちゃえばいい。
いつもの私の手口です。
前にタイムトラブった時に「日本の夜明けぜよ!」的な大政奉還とか船中八策を考案した人より先に日本で最初の株式会社を間違って立ち上げちゃって、後から歴史を変えちゃったことに気付いたのよねー。
その時は関わった人たち全員をエネルギー弾で消しといたわ。
株式会社アホ毛。
後で色々と歴史をねじ曲げたことに気付いて、アホ毛を使った電話会社立ち上げた事は私しか知らない黒歴史。旧式の電話が開発される前に危うくスマホを普及しかけた事故はソッと私のDカップの胸にしまっておこう。
「ハルちゃーーーーーん!! あそこが将軍ちゃんの寝室だよおおおおおおお!!」
「ミソニちゃん! 将軍ちゃんまでこのまま突っ込むわよーーーーーーーー!!」
「うおっしゃーーーーーーーーーーーー!! ロケットエンジン始動!!」
「にゃにゃにゃーーーーーーー!!」
「ちょ、ちょっと待って!! だからどうして原チャリにロケットエンジンが付いてるのおおおおおおおおお!?」
つぐみちゃんは泣きじゃくりながら叫ぶ。だけどそんな彼女の悲壮なんて誰かが気にするはずもなく、時速五百キロの速度で将軍ちゃんの寝室に突っ込んでいった。
とは言ってもその速度で突っ込めば一秒以下で目的地に到着しちゃう距離なんだけどね。
ロケットエンジンを始動して一秒経たずにフルブレーキかけるとかミソニちゃんも凄いなあ。それも目的の人物の前で原チャリを回転させてピタリと止まっているし。
ギギギギギ! と言う戦国時代に似つかわしくないブレーキ音がこれでもかってくらいに響くわー。
その目的の人は想定外の出来事に腰を抜かして唖然としながらお漏らししてるし。
ブオン、ブオオオオオオオオオオン!!
おお、ミソニちゃんってばすごい。遺伝子で原チャリの運転をマスターしたかと思えば今度はエンジンを思いっきり吹かしてるじゃん。
それと所持者が言うのも問題あるかも知れないけど、このエグゾーストはやっぱり原チャリのそれじゃ無いわね。
部屋の中が排気ガスで充満してるじゃん。部屋の主なんて完全にむせてるし。
シュコー……。
因みに私とミケはカバンにしまってあったガスマスクで難を逃れてます。
「馬上……じゃなかった。原チャリの上から失礼。鯖井ミソニだよ、将軍ちゃんを脅しに来ちゃった」
「アホ毛流・ハルちゃん御前だよ。こっちは相棒のミケ。単刀直入に言うけどミソニちゃんに新しい領地を頂戴」
「ブクブクブク……」
あ、つぐみちゃんが泡を吹きながら気絶してる。
つぐみちゃんも情けない、アホ毛に選ばれし者がこの程度で音を上げるなんてヤレヤレだよ。つぐみちゃんの様子にミケも「キュピーンが足りないにゃ」と言ってます。
ロボット兵器で宇宙を飛び回っていればこの程度で気絶なんてしなかったのよ。
そして私とミソニちゃんは原チャリに跨ったままお漏らししてる将軍ちゃんに話しかける、その将軍ちゃんはこれでもかってくらいに目を見開いて私たちに言葉を返すのだ。
「な、何からツッコめばいいのか……。ミソニちゃんさ、余の新居祝いに来てくれたんじゃないの? ……余を脅しに来たって何? それにアホ毛流? え、ホンモノ?」
「ホンモノのハルちゃんだよ。ねえ、ミソニちゃんに立地のいい領地を見繕ってくれない? 原宿、渋谷に電車で十分圏内で3LDK。出来たらトイレバスは別々がいいなあ」
「にゃにゃにゃ」
ミケは「それとペット可の物件がいいにゃ」と言ってます。
流石はミケ、抜け目のない完璧なフォローじゃん。
それにしても将軍ちゃんは目をパチクリさせるだけで状況の整理が追いつかないらしい。せっかく私がハルちゃんだと名乗っても信じられないと言った表情のまま腰を抜かしてるわね。
将軍ちゃんもビジュアルはそこそこイケメンなのに勿体ないなー。
「え? ハラジュクって何? シブヤって何処? さんえるでぃーけーってどう言う事? と言うかこの状況で領地寄越せとかミソニちゃんも相変わらずだよねえ……」
「いくら借金しても困らない領地を適当に二、三個くれれば良いから。あっはーん、将軍ちゃん、またお酌してあげるから。ね?」
「えー? だってミソニちゃんってお触りダメって言うじゃん」
「それは将軍ちゃんがケチだからでしょ!? それともお触り解禁したら好立地の領地くれるって言うの!?」
おお……、ミソニちゃんが将軍ちゃんに問答無用でグイグイと詰め寄る。
戦国時代の将軍ちゃんは権威を失ってみかどっちを始め、武将たちから舐められまくっているとは言え、それでも一応は偉いわけで。ミソニちゃんっていつもこんな感じで色んな人に接してるんだろうなあ。
側から見たら完全にプレゼントを強請るキャバ嬢じゃん。
ミソニちゃんはパパ活大名ではなくキャバ嬢大名でした。
と言うか将軍ちゃんも詰め寄るミソニちゃんにタジタジな様子だ。
「にゃにゃ」
「え? 私はアレを真似したらダメだって?」
ミケとしてもミソニちゃんのやり口はNGだそうです。
ポンと肉球を私の肩に置いてミケはそう釘を刺してくるのだ。
「うーん……、ミソニちゃんってサラッと公卿で余と官位が同じだから無下に出来ないのがタチが悪い……」
将軍ちゃんが真剣に悩み始めちゃった。
ここは私も後押ししておきますか。
「ハルちゃん自慢のアホ毛が言うにはみよっしーながよっしーの領地をそのままミソニちゃんに上げると将軍ちゃんの運気が赤マル急上昇するらしいよ」
「……そんな事したら余がみよっしーに恨み買うだけじゃん」
「さっきミソニちゃんがそのみよっしーをひき殺しちゃったよ? どうせみよっしーはいつかは将軍ちゃんを殺そうとするから良いっしょ」
みよっしーながよっしーが将軍ちゃんを殺すのは史実です。知りたかったらググって調べてね。
「……本当に? まあ、みよっしーは実際に邪魔だったしそれはそれで余にとっても都合がいいんだけど……でもミソニちゃんって宇宙領みたいな田舎でさえまともに経営統治出来ないじゃん。みよっしーの領地って畿内だよ? 畿内って言ったら京近郊で超都会だよ?」
「政治的なのは確定拠出年金みたいに将軍ちゃんに丸投げするから。私とミソニちゃんはアホ毛幕府の初代征夷大将軍を名乗って適当にニートするから」
「……将軍って暇じゃないんだよ?」
将軍ちゃんが終始グズるから私もミソニちゃんも痺れを切らして掴みかかった。アホ毛二人に胸ぐらを掴まれて将軍ちゃんは泣きべそをかきながら領地をくれました。
「将軍ちゃんも男らしくビシッと決めなさいよ!!」
「ミ、ミソニちゃん苦しいってばあああああ!! 首が絞まってる、絞まってるよーーーーーー!!」
「あ、それと私とミソニちゃんに征夷大将軍の職を譲ってね。アホ毛がそう言ってるのだよ」
「ハ、ハルちゃん? 征夷大将軍って……そんな簡単に他人にあげたりするものじゃないんだけど?」
「肩書きだけでいいから。仕事の方はこれまで通り将軍ちゃんがやって良いから」
「それってただのニートじゃ……」
将軍ちゃんもニートの意味を理解してるじゃん。
「いいからハルちゃんの言う通りにしなさいよ!! じゃないと将軍ちゃんがアホ毛でお尻叩かれるのが大好きな変態だって言いふらすわよーーーーーーーー!!」
「ミソニちゃん声が大きいってば、家来たちに聞こえるから!! それだけは黙っててえええええええええ!!」
征夷大将軍の座を私たちに譲ることも約束させて、ようやくアホ毛幕府の完成が近づいてきたのだ。しかしミソニちゃんが金欠のはずに将軍ちゃんから借金できた理由がやっと分かった。
ミソニちゃんってキャバ嬢テクだけじゃなくて人の弱みもガッツリ握ってるんだ。
警備が全滅した将軍御所でミソニちゃんの怒声と将軍ちゃんの悲鳴がこだましていた。
「にゃにゃー」
ミケは「草薙の剣を使わなくても脅せるにゃん」と言ってます。
ミソニちゃんは私の印象とは裏腹に意外と逞しかった。
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