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幕間 3

 激しい抗争から難を逃れた組長達は、ようやく自分達の住処へ、高田組本部へと戻ってきた。

 幸いにも死人は出ず、軽傷で済んだ。奇跡のようなものだった。ここ最近の武力抗争からは苛烈を極め、戦力も動きも激しさを増している。しかも今回は組のトップでもある親分の移動中での出来事だ。

 秘密裏に動いていたにも関わらず、どこかで情報が漏れ、移動ルートを割られ、襲撃された。相手の動きは明らかに偶発的なものではなく、周到に準備され待ち伏せされた動きであった。

 裏切り者がいる、という線を考慮しなければいけない事態だ。


 そんな一触即発なピリピリとした空気の中で、一人の男だけがその空気をぶち壊していた。部屋の隅に座り込み、恐ろしいものに出くわしたように怯え震えている。両手に握り拳を作って口元に当てている。萌え?


「兄貴、一体どうしちまったんだろうな」

「考えてみれば、敵の攻撃っていうのかどうかわからんが、兄貴が光ってからおかしくなってるよな」

「カメラのフラッシュって騒ぎでもなかったよな。あの光はなんだったんだ?」

「光より兄貴だろ。あまりの恐怖に幼児退行しちまったとか?」

「兄貴が恐怖? ないない! 兄貴こそこの世界の恐怖そのものでしょうよ」

「……魔王?」


 ひそひそ話が繰り広げられている中、一人だけ会話の内容に交わらない単語が飛び出て話が中断する。全員が金髪の若者の方に視線を向けたので、金髪は慌てて言い繕う。


「いや、魔王みたいな存在感っしょあの人! いやぁ何があったのかな〜! あははは!」

「兄貴が大変な状態だってのに、ジョーダン言ってる場合じゃねぇぞ。だからお前はいつまで経っても子分止まりなんだよ」

「ぐっ……」

「まぁそれでも兄貴に目をかけてもらえるのは羨ましいけどな。組中の憧れだしよ。あの人みたいに強くて恐ろしいヤクザ、他に知らねぇもん。あ、親父は別次元の話な」

「別次元……」

「お前さっきから何?」

「いや、別に……。ちょっとしょんべん行ってくらぁ」


 慌ててその場から立ち去るように、金髪はそそくさと座敷を出た。周囲に誰もいないことを確認すると、深呼吸をし、考えを巡らせる。


(兄貴のあの態度、ぜってぇ普通じゃねぇ! 中身はどんな人物なんだろ。ていうか異世界の人間が現代に転生するって何? 普通逆じゃね? まぁそれはいいか。とにかく兄貴の変わり方は絶対に中身が別人だからだ。でないと説明がつかねぇ。中身が何者か確認して、安心できる人格なら俺がなんとかしてやらねぇと。この中で異世界転生に詳しい人物なんて俺以外にいねぇっしょ。あいつらぜってぇラノベ読まねぇし) 


 そう決意すると、ガッツポーズで気合を入れて兄貴へ声をかけに座敷へ戻った。

 組の連中のほとんどが組長の心配と、これからどうするかの作戦会議とでグループが出来上がっていた。その中のどちらにも混ざらずに部屋の隅で丸くなっている兄貴の方へと歩み寄る金髪。


「兄貴、ちょっと話があるんすけど。部屋、変えません?」

「はわ?」


 声をかけられ、出た言葉が「はわ」だったことに固まる金髪。


(はわ? はわわ系? ちょっと待て。復讐系とか成り上がり系とかこれからスローライフ系とかの、中身が人生すでに経験済みで何でもお見通し系のキャラとかじゃねぇの? 何はわわて)


 動揺しているところ自分に向かってフランクに声をかけてきた金髪に対し、少し警戒心を解いたのか。これまで会話することを怖がっていた兄貴がもじもじと話しかける。会話を試みるのは銃撃戦の最中以来だ。


「あ、あの。突然こんなこと聞くの恥ずかしいんですけど、私……お花を摘みに行きたいのですが、その。なんかちょっと、いつもと違う感じがして、どうしたらいいものかと……」


(TS系ぃぃ!?)


 しかしここでひよったらもう二度とファンタジー要素に関わる人生に遭遇出来ないと思ったのか、金髪は意を決して手を差し伸べた。


「後でちゃんと話を聞いてやるから、ほら。し……しょんべんの仕方、教えてやるよ」


 その声は震えていた。

 金髪に誘導されトイレに入る。小便器では人目につくと判断した金髪は、恥を承知で普通の個室より広い多目的トイレに二人で入ってしっかりと鍵をかけた。これを誰かに見られていたらもうおしまいだと思いながら。小便器の前に立たせて、金髪はダメ元で訊ねる。


「その便器の前でズボンのチャック開けて、パンツからその、ち……いや、さすがにわかるっしょ?」


 異世界のトイレ事情がどう描かれていたか忘れた金髪は、とりあえず立って排尿する位はどんな世界でも共通だろうとそれ以上の説明を放棄した。

 兄貴は真っ青になりながら不器用な手つきで何とかズボンのチャックを下ろして、それから下着に触れようとした瞬間。


「いやあああ、無理ですうう!!」

「やっぱりいい!? でも俺も無理っすうう!!」


 この後、なんやかんやで成功したようです。



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